第3話 集中とご安全に
終業式翌日。
「ねえ悠くん。これどういうこと?」
「それは、この公式を当てはめて――」
香織と俺は今市立図書館の分室もある公民館で夏休みの課題を片付けている。七月中にすべての課題を終わらせ、『八月は遊びにバイトに青春を
ブブブブ
スマホが震えた。開放されているこの会議室には俺ら二人しかいないけど一応マナーモードね。隣の図書館の分室の方は子どもたちが走り回っているけどさ。休憩中だしルームを開いてみる。
『なあ悠。明日か明後日、海行こうぜっ!う~み~』
『おれも行きたい』
『俺は彼女と行くからお前らだけで行って来い』
与一が誘い榊が同意し、郁登は断る。
『俺は無理』
『『なんでだぁ!!』』
俺の断りに与一と榊がうるさい。
『例の彼女と行くんだろ?』
郁登もうるさい。
『違うよ。今週は夏休みの課題やるんだよ。だから無理』
『は?何言ってるの、悠くんよ。暑さでどうかなっちゃった? 夏休みに入ったばかりだぜ?』
『与一は黙れ』
『兎に角無理だから。じゃーねー』
ため息交じりに話を切って会話を終わらせた。
「ゆーくーん、どーしたの?おんなー?」
「何処から女が出てくるんだよ。学校の友達が海行かないかって誘ってきたの。断ったし」
SNSの会話の内容を香織に話す。
「え? 断っちゃっていいの? 悠くんも行きたかったんじゃないの?」
「いや、マジ行きたくないし。ここ海あり県だけど今いるこの場所から海まで直線でも八〇Km位あるし、電車使うと何時間もかかるし何故か一度別の県に出てから海に向かうんだぜ。一度言ったことあるけどもう二度と電車では行かない」
しかも東京湾のほうが自県の海より近いんだよね。
「そっか。じゃ、早く課題終わらせて、わたしとプール行こうね」
「おうっ」
……へ?香織今なんて言った? 勢いで応えたけど、一緒にプールとか言わなかったか?
「よし、言質とった」
「え、ちょい待ち。なんていった、香織。ねぇ」
「うるさい。休憩終わり。さっさと始めるわよ」
この後何を言っても取り付く島もなかったのは言うまでもない。
八月。計画通り七月中にほぼ課題は終わらせた。残っているのはその時が来ないとできない感想文ぐらいだ。昼飯も二日目からは香織が弁当を作ってきてくれていた。なんだか恋人同士のようなことしている気もしないでもないが良いのだろうか?七月はじめのあの時から少し様子を見ようと香織への告白は先延ばしにしている。そのせいかあの変な夢も見てない。我ながらヘタレだとは思うな。
で、明日は地元の花火大会。近県では最大級らしいけど他のところの見たことないからよくわからないや。
もちろん香織を誘って見に行くんだけど、どうしようかな。近所の土手の上からでも花火は見えるけど情緒ないし、バスで行くにしても毎年バスも道路も無茶混みなんだよな。
チャリで後ろに香織乗せて行こうかな。土手の上をずっと行くだけだし、公道じゃないから二ケツでも平気だよね?
翌日の夕方、いつもの待ち合わせ場所にチャリを転がして行く。いつもは歩いて行く場所に自転車で行ったものだから少し時間より早く着いてしまった。
スタンドを立ててぼ~っと待っていると後ろから声をかけられる。
「おまたせぇ~」
「いいや、まって……ない、ぞ」
振り返った俺は、声が詰まってしまった。
そこには朱色の帯に朝顔柄の浴衣、普段はストレートかポニーテールにしている髪をアップにした香織がいた。いつもは化粧もしていないのに今日は少しだけしているし、眼鏡もしてない。
控えめにいって無茶苦茶かわいい。もうかわいい。とにかくかわいい。ヤバい。脳がフリーズした。かわいいしか言葉が出ない。
「へ、変かなぁ?ちょっとがんばてみたんだけど」
上目遣いに見られると頬が熱くなるのを感じる。
「う、うん。すごく似合ってる。かわいいよ。びっくりした、今日はコンタクトなの?」
なんとか言葉にした。
「えへへ、ありがとう。悠くんに褒めてもらえると嬉しいな。今日はね、浴衣だし、せっかくだからコンタクトにしたの」
二人して交差点の隅っこで顔を赤くして照れあってしまった。
「じゃ、行こうか。後ろ乗るの土手の上、あがってからね。あっ、歩くのは平気?」
「もう、優しいね。大丈夫だよ。流石に草履はまずいかなと思って歩きやすいサンダル履いてきたんだよ」
よく考えたら、自転車の後ろに乗せるってすごく密着するじゃん。大丈夫か俺。意識したら急に緊張してきた!転んだりしたら大惨事だぞ。
香織を自転車の後ろに乗せてからはものすごく安全運転で花火大会会場に向かったのだった。
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