ヒサ姫の過去


ドォォォォン!! ドオオォン!! ドオォォォン!!



城が、堅牢を誇ったミョシム城が揺れている。



ワアァァァァァ!!!



外からは敵兵の雄叫びが聞こえる。


結界には防音効果があるのにこの騒がしさ、敵がすぐ近くまで来ている証拠だ。


でも—————




うるさい」




ワアァ———



結界をもう一段階強固にしたら静かになった。


これで玉座の間には何も聞こえなくなり、聞こえるのは俺とヒサ姫の呼吸音だけとなった。




俺はヒサ姫に、主君に声をかける。



「………ルブルム帝国、滅亡してしまいましたね」


「……そうね」


「でも、一度はセカイの半分まで支配しましたよね」


「そうね」


「このまま行けばセカイ征服できましたね」


「そうね」


「すぐ衰退しましたけど……史上最強の、史上最凶の帝国として多くの人を殺戮できましたね」


「そうね」


「このセカイを…ユグドラシルを蹂躙できましたよね?」


「………そうね」






「これで………復讐は終わりましたか?ヒサ姫……………いや、ヒサ・・




俺はヒサに、に声をかけた。



「うん、終わったよ。お兄ちゃん・・・・・



そう言ってヒサ姫は———俺の妹、ヒサは俺に抱きついてきた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



抱き合う俺とヒサ。俺達の関係は言わずもがな主君と部下の主従関係だ。が、しかし、それ以前に兄と妹の兄妹関係でもある。


なのに何故ヒサがルブルム帝国の女帝でリーヴァスは宰相なのか。それには深い理由があった。



ヒサはルブルム王国の第5王女だった。


しかし、ヒサは望まれて産まれた子ではなかった。そして、ヒサの母親は奴隷だった。


これが何を意味するのか?答えは簡単だ。


ヒサの父親、つまりルブルム王国最後の王、ギルブロードがたわむれで女奴隷に手を出したのだ。そしてその女奴隷が妊娠、出産し、ヒサが産まれた。


その事について、ギルブロードは大いに悩んだ。


戯れで手を出した女、しかも母親が奴隷となると本来ならば隠し子、もしく存在そのものを母親と共に抹消するはずなのだが、ヒサは産まれつき魔力量が他人と比べ圧倒的に多かった。


この子にちゃんとした魔法学を教えればこの国の重要な戦力になると考えたギルブロードは女奴隷を側室として迎え入れた。



しかしここでも問題が起きた。その女奴隷は既に結婚しており、子供がいたのだ。つまり、国王が奴隷とはいえ人妻を襲ったのだ。


この事実が世に知れる事を恐れたギルブロードは夫と子供を殺そうとした。


しかし、ここでその子供も魔力量が圧倒的に多いという事が判明。この子供を引き取りたいが、この子は男子。下手をすれば王位継承権を巡って争いが起きると考えたギルブロードは夫だけを殺し、子供はそこら辺に居た孤児を引き取ったという事にした。



そして、その孤児とされた子供の名前がリーヴァス、つまり俺だった。俺とヒサは異父兄妹という事になる。



女奴隷は——俺とヒサの母さんは今は滅亡したとある国の大魔導士の娘だった。その国が滅亡する直前にルブルム王国の兵によって連れ去られた母さんは、そこで身分を奴隷に落とされた。連れ去られていく最中、自分は大魔導士の娘だと何度も訴えたが、母さん自身の魔力量が少なかったため信じてもらえなかったという。


その後、ルブルム王国で奴隷ながらも結婚し、小さな幸せを感じていたのだが、ギルブロード王のせいでその小さな幸せすらも潰された。


そのせいで母さんは奴隷から国王の側室という大昇格をしたにもかかわらず、その経緯から正室や他の側室達からは酷い嫌がらせを受け、使用人や夫であるギルブロードからも無視され、そのストレスからどんどんと衰弱していき、側室となって僅か数年で死んだ。


俺は最初から孤児として引き取られていた為、母さんの死に特に影響は受けなかったものの、幼いヒサはこれで完全に後ろ盾を失った。



そして、若くして美貌と魔法の才能と規格外の魔力量を持つヒサは、他の王族の嫉妬と恐怖の対象となり、いじめられた。


俺は必死にヒサを庇った。何故なら、死ぬ前の母さんからヒサの事を頼まれていたし、真実を知るギルブロードの唯一の計らいか、俺はミドルネームを貰って貴族の仲間入りを果たし、若くしてヒサ専属の騎士となっていたからだ。


それでも権力的に王族に歯向かえるわけもなく、毎回反撃無しでボコボコにされた。


何度もリンチされ、ボコボコにされても殺されかけてもヒサだけは守りきった。


母さんに頼まれたから、自分が専属騎士だから、そして……ヒサが俺の妹だから。唯一の家族だから。様々な理由で己を奮い立たせ、ボコボコにされるのをわかっていながらもヒサの前に立ち、他の王子や王女達から身を挺して守った。


そんな俺にうんざりしたのか、王子や王女達王族からのいじめは次第になくなった。俺は見事にヒサを、俺の妹を守りきったのだ。


そのせいだろうか……ヒサは少し、いやだいぶ、いやかなり兄妹愛が強いような……ありていに言うとブラコンになってしまったような気がする。


まぁヒサに慕われて悪い気はしない……というかかなり心地良かったから別に良いんだけれど。



しかし、俺とヒサが異父兄妹だと知っているのは父親のギルブロードやホルスローなどの国の上官数人だけ。


だから外では仲の良い主従としてヒサに接した。最初の方は俺が『ヒサ姫』と呼ぶとムスーーっとしてそっぽ向いてた。可愛かった。


そんなこんなで俺とヒサは小さな幸せを感じながら、兄妹2人で大変ながらも楽しい日々を過ごしていた。




が、しかし…またもや俺達の身に不幸が訪れた。



第1王子と第2王子がヒサを襲ったのだ。



その当時、俺はまだ13歳、ヒサはまだ10歳だった。それに比べ、第1王子は18歳、第2王子は17歳だった。


俺はヒサを守ろうとしたが、体格差や人数差もあり、すぐにボコボコにされた。


俺をボコボコにして起き上がれない程叩き潰した王子2人は、性欲溢れる目でヒサを眺めた。


そして、2人の王子がヒサに襲いかかろうとした瞬間—————






———俺は第1王子と第2王子の2人に向けて魔法を放った。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



残念なことに(?)王子2人は気絶しただけだった。


そして……この襲撃にはヒサの実の父親である国王ギルブロードが関係しているという事がわかった。


ギルブロードは超強力な力を持つ俺とヒサを王国に逆らえないようにするために少々痛めつけてこい、と第1王子と第2王子に命じたそうだ。……さすがに王子達が仮にも義妹を性的に襲うと迄は予想していなかったらしいが。



翌日、俺とヒサは王族に歯向かった罪でヒサは軟禁を、俺は過酷な刑罰と少しの期間の王宮からの追放、強制労働等を命じられた。


本来なら王子を攻撃した俺は処刑されるはずなのだが、俺には利用価値があったため処刑されずに済んだ。


俺とヒサはこの襲撃を機に国王に、王子達に、王族に、この国に復讐する事を誓った。



何故俺の父は理不尽に殺された?何故俺達の母は死ぬまで不幸に遭い続けた?何故俺は王族に歯向かってはいけなかった?何故ヒサはいじめられた?




何故………俺とヒサの力があればこの国を、セカイを滅ぼせれるのにこんな目に遭っている?




……こんなのは間違っている。この国は間違っている。国が間違ってないとしたらこのセカイそのものが間違っている。


母さんが、父さんが、俺が、そしてヒサが幸せじゃない。そんなのは間違っている。俺はそんなセカイを認めない。


ならば、俺がこのセカイを作り変える。壊して、破壊して、作り変える。妹が——ヒサが笑って過ごせるセカイに作り変える。


母さんと父さんは死んでしまった。この国のに、このセカイによって殺された。


だから俺はヒサのために、これからはヒサのためだけに全力を尽くす。兄として、騎士としてヒサを守り通してみせる。




まずは———そうだな。俺達家族を不幸にしたこの国に、ルブルム王国に復讐しよ破壊しようか。

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