第三豆 モカの四面楚歌
開店 まえがき
この小説っぽくいうならば、『開店』だろうか。
何だかんだで反響も良く、書いている本人が一番楽しいカフェ小説が、沈黙を破って――というほど沈黙してなかったけど、満を持して――持したかな? いや、とにもかくにも第三章(豆)なのだ。
今回はやはりこの人、本作の不動のヒロイン、とっても可愛いもちもちアルバイター、ヨリ子ちゃん(28)にスポットライトを当てるしかないんじゃないでしょうか、お客さぁん!?
と、めちゃくちゃ(ひとりで)盛り上がったので、今回は、謎多き(この小説の登場人物謎しかねぇな)あんパン系女子ヨリ子ちゃんにスポットをあてたお話です。寄り切って、じゃなかった、張り切っていってみましょう!
さて、ヨリ子ちゃんといえば、皆さんもご存知、ここ、秋田県は南由利ヶ浜市天神町商店街を拠点に活動する超ローカルアイドルグループ『
元々ヨリ子ちゃんは、幼い頃からイケメンが大好物であった。三度の飯と天秤にかけるとギリギリ飯の方に傾くものの、やはりギリギリなのでほぼほぼ三度の飯と同等のポジションである。
そんなヨリ子ちゃんだから、恋をすればするほどよく食べる。イケメンの追っかけも身体が資本だからだ。いざという時に全力で走れるパワーと持久力がなくてはいけないのである。その辺をよくわかってるヨリ子ちゃんなのだ。自分のチャームポイントが何なのかを知り尽くしているともいえよう。恋をしたからといって痩せるわけにはいかないのである。この身体、結構お金がかかってるんですよ?
仕事ももちろん手を抜かない。なぜって追っかけの軍資金だからである。勤務態度も花丸満点との呼び声も高い。イケメンを追っかけるために複数のアルバイトを掛け持ちしていたヨリ子ちゃんは、このカフェ『TWO BOTTOM』に出会って、ここ以外のバイトを全て辞めた。それほどここのバイトは割が良いのである。
とはいえ、従業員がマスターとヨリ子ちゃんのみなので、彼女は週6(毎週火曜が定休日)で働いており、さすがに若い(当時は。あっ、すみません、いまも十分お若いですけれども)女の子を週6で働かせるのはなぁ、と思わなかったわけでもない。
なのでマスターもオープン当初は、
「いまはヨリちゃんしかバイトさんいないけど、これから随時募集するからね」
と言っていたのである。それなのに、未だヨリ子ちゃんのみ。別にマスターがとんだブラック野郎というわけではないのだ。それに待ったをかけたのが他ならぬヨリ子ちゃんなのである。
「私一人で十分です!」
ふくふくのほっぺを高揚させ、ばいんばいんのバストを揺らしつつ、ヨリ子ちゃんはそう言い放った。もちろんばいんばいんなのはバストだけではないのだが、これ以上はセクハラになるのでやめときます。
「ええ、でも、一人だけだとお休みも取りづらいでしょ」
「大丈夫です!」
「ヨリちゃんが良いなら、それで良いけど……。辛くなったらいつでも言ってよ? お休みが欲しい時とかも相談してね。冠婚葬祭なんかもあるだろうしさ」
「わかりました」
どうだ、なかなか良い雇い主ではないだろうか。惚れるならいまだぞお客さん。
しかし、ヨリ子ちゃんはそんな(心が)イケメンなマスターの言葉なんて右から左だった。彼女は、「こんなぬるま湯のような仕事はそうそうない。従業員が増えてシフトが減るなんてもったいなさすぎる!」と思っていたのである。ちなみに従業員募集は市の広報誌『南由利ヶ浜だより』を利用したのだが、『週6勤務、勤務時間は6時間半(休憩1時間)』とマスターは正直に書いた。『南由利ヶ浜だより』の求人担当が「本当にこれで募集するんですか?」と何度も確認してきたが、「ええと、1日8時間以下で、週に40時間以内なら週6でも良いんですよね? じゃあ1日6時間半で週6勤務なら39時間で問題ないですよね?」と返し、そのまま載せてもらったのである。その後で「週3からOK」とかにすれば良かったと気付いたのだが、訂正してもらおうかと思ったタイミングでヨリ子ちゃんから電話がかかってきた、という流れなのだった。
「いまちょうど週6は多すぎたかなって思ってたところなんだけど、別に週3とかでも――」
と面接時にそう言うと、ヨリ子ちゃんは「いいえ! 週6でお願いします!」とはちきれんばかりのやる気を見せてきた。その心意気やよし! というポイントで採用したわけではない。よほどのことがない限り採用するつもりだったマスターである。
ヨリ子ちゃんがこのカフェでどうしても働きたい理由はいくつかある。
まずは、仕事内容のぬるさだ。何せこのカフェはそんなに混まない。つまり、そこまで忙しくないのだ。なのに時給はかなり良い。ヨリ子ちゃんを葬ってでも働きたいという人が殺到したら大変なので詳しくは書けないが、秋田県ではまずありえないほどの額だとだけ記しておく。交通費も全額支給されるし、賄いも出る。
それから、『カフェでアルバイト』という響き。これまでコンビニやガソリンスタンド、スーパーの青果部門などで働いてきたが、やはり『カフェ』というのは響きがオシャレで良い。制服(白のシャツに、焦げ茶色のロングエプロン、ズボンのみ各自で用意、色は自由)も割と気に入っている。
そして、何よりも立地である。
そう、このカフェは天神商店街の中にあるのだ。その理由については前章でも述べたが、毎朝の仕入れはもちろんのこと、突発的に何かが必要になった時にもすぐに対応出来るようにというマスターの都合である。
野菜や果物は『
ちなみに、これまでに登場はしていないし今後も深く掘り下げる予定はないが、制服の白シャツは『ブティック佐和』に頼んでいるし、店内の観葉植物は『フローリストゆめ』、伝票や領収書などの文具関係は『MAEDA文具』、クリーニング(マスターは基本的に家で洗濯をしない)は『町のせんたく屋さん・あわあわしゃぼん』である。
ヨリ子ちゃんの愛しの彼がいる大衆浴場『梵天の湯』は商店街のうんと端っこにあるのだが、あまり近すぎると仕事に影響が出てしまうかもしれないので、これくらいがちょうど良いのだ。いず君の近くで働けるなんて、こんなに嬉しいことはない。
とまぁ、前置きはこれくらいにして、『そこそこカフェ・エピソードヨリ子』の始まりである。
あっ、ちなみにこの『そこそこカフェ』、この小説の正式な略称となっております。これだけでも覚えて帰ってください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます