第74話 成り行きの果てに
兎にも角にも戦場に戻り、残るワイバーン共を仕留めていく。
既にその大半をクレオ達が仕留めてくれていて……戦場に残っているのは数える程しかおらず、それらを一匹一匹、淡々と静かに正確に狙いをつけて落としていく。
内心であれこれと唸っているというか、煮立っているのだが、できるだけそのことを考えないようにしながら、冷静さをどうにか繕って、クレオ達に迷惑をかけないように淡々と、作業的に……。
そうやって周囲に見えるワイバーンのほとんどを海へと叩き落とし、周囲を旋回しながらの安全確認をし……アリスに頼んで光信号を放ってもらうと、すぐさま回収船がこちらへとやってきて数え切れない程のワイバーンの回収作業をし始める。
とはいえ今回は辺り一帯の海がその血で真っ赤に染まる程の大猟だ、船の容量的にも全ては回収しきれないだろうと残念に思っていると……回収船の作業員達は木製と思われるブイを海へと放り投げながら海に飛び込み、ブイとワイバーンをロープで繋ぎ、船に載せられないのならばそうやってでも引っ張って、何がなんでも港まで運んでいくぞとの、根性のある姿を見せてくれる。
その光景を見やりながら回収船に積んであった大量のカラフルに塗装されたブイはそうやって使うのかと感心していると……通信機の向こうのアリスから声が上がる。
『……あいつら、なんか揉めてるね』
未だにあのことが頭に来ているのだろう、その声は完全に冷え切っていて……「はぁ?」と返した俺は、アリスがそれ程の怒りを抱く原因、座礁船の連中へと機首を向けて、一体何を揉めているのやらとスコープを覗き込んで確認をする。
座礁船のデッキの上に居る何人かの人影。
そのうちの神官服姿の五人程が手にフレアガンを握っていて……そんな五人に相対する形で、何人かの神官服と、船員と思われる連中と、一般客なのだろうかスーツ姿の連中が大きく手を振り上げて……何かフレアガンを手にした連中と揉めているというか、喧嘩しているというか……まぁ、先程のあの所業に対して抗議をしているのだろうな。
こんなワイバーンだらけの海域で船が座礁して、いつワイバーンに襲われるかと怯えながらの数日を過ごすことになって……ようやく救助が来たと思ったら、その救助に対しての妨害をやらかしてくれた訳だからな。
それで俺達が怒って帰ってしまったらどうするのだと、他の連中はさぞや背筋が冷えたことだろう。
「しかしあの連中……あのザマでよくもまぁ今まで生き残れたな」
『ワイバーン避けの魔法なり、モンスター避けの薬品なりを使っていたんじゃない?
船を長期航行させるときはそれらを使って安全を確保するらしいよ。
でも薬品も食料も無限にあるって訳ではないだろうし……なんだかんだ船内はいっぱいいっぱいの状況だったんじゃないかな』
「なるほどなぁ……。
その薬品を周囲にばらまかれて、その薬効が嫌でワイバーン達は木々の陰に隠れていた……のか?
んー……魔法にも薬にも詳しくないから、よく分からんな」
と、俺とアリスがそんな会話をしていると、デッキの連中に動きがある。
フレアガンを手にしていた連中が、地団駄を踏むなり手を振り上げるなり、大きく口を開けるなりとし始めて……ついにはその銃口を抗議していた連中に向けてしまったのだ。
「お、おいおいおい、なんか空気がヤバいぞ。
……アリス、救助船を呼べるか? 何処かその辺で待機しているはずだが……」
『えーっとえーっと……あ、いたいた、もうこっちに向かって動き始めてるみたいだよ。
ただ回収船より大きいせいか、動きが遅くって……到着まではもう少し時間がかかっちゃいそう……』
「何やってんだよ全く……! 光信号で緊急事態と伝えろ!
『船』『揉め事』『銃』『危険』って感じで!」
『すぐやるけど……ちゃんとこっちを見てくれるかなぁ……』
と、そんな声のすぐ後に、光信号機のレバーを回す音と、バタバタと光信号機独特の音が響いてくる。
持ち手についているトリガー式のスイッチを押すと光を放ち始めて、本体真横にあるレバーの回転で蓋を開けたり閉めたりを繰り返し、光の明滅を作り出す光信号機。
その信号を受けて、救助船も座礁船で何が起きつつあるのか大体のことを察したのだろう、汽笛を唸らせて座礁船で揉めている連中に対しての警告を発する。
……が、それが良くなかった。
突然の空気を震わす咆哮に驚いてしまったらしいバカ共が、思わずといった様子でフレアガンのトリガーを引いてしまう。
「やりやがった!?」
それを見るなり俺は思わず声を上げる。
発射されたフレアガンの弾は光を放ちながら直進し、船のあちこちに当たったり海に落ちたりする中、相対していた神官服姿の一人に当たり、神官服が一気に燃え上がる。
『どうしよう!? ラゴス!?』
それを見てアリスがそんな声を上げるが、空の俺達に出来ることは少ない。
せいぜい出来ることは機関銃であの馬鹿共を肉片に変えることくらいだが……デッキの上の人間達が取っ組み合っての殴り合いを始めたことで、それも出来なくなってしまう。
クレオもアンドレアもジーノも事態には気付いている。
周囲を旋回しながらワイバーンの生き残りが居ないかと警戒しながら、座礁船の出来事を注視している。
だがそれ以上のことは……今すぐに出来ることは何も無く、そんな風に俺達が空から注視する中、火に包まれた神官服姿のそいつは、火から逃れる為かデッキから海へと転落する。
「アリス! 急降下に備えろ!!」
すぐさまそう言って俺は高度を下げる。
回収船も救助船も距離が離れすぎている、座礁船の連中は殴り合いでそれどころじゃぁない。
ならば俺達が……一番素早く動ける俺達がなんとかすべきだろうと着水し、出来るだけ早く……だが波を立てすぎないように慎重に、海に漂う神官服の側へと向かう。
神官服姿のそれは、ぐったりとしたまま動こうとしない。
生きているのか死んでいるのか……全く分からないそれの側へと近づいたなら、操縦席から這い出し、海へと飛び込み、ぐいとそいつを抱き上げ……機体の側まで引っ張っていって、とりあえず飛行艇の脚とも言える、ブイにそいつの上半身を預ける。
「呼吸はしている……だが気を失ってるな。
……なんだ? 火傷って気絶するもんなのか? それとも海に飛び込んだせいか?」
顔を上に向けさせ、しっかりと呼吸をしていることを確認しながらそう呟くと、機体の上からアリスの声が響いてくる。
「ラゴス! 救助船から光信号!
『火傷』『治療』『無理』……『近く』『町』『東』『運ぶ』だって!」
「……あの図体で、あの遅さで近くの町まで運ぶ? 冗談だろ……?
アリス!! すまないが少しの間、機体の中……何処かその辺に潜り込んでおいてくれないか!
後部座席にこいつを乗せて、東の町とやらに俺達が運ぶぞ!」
アリスの声に俺がそう返すと、アリスはこくりと頷いてくれて……俺が神官服姿のそいつを機体の上へと引っ張り上げている間に、アリスはその旨をクレオ達に光信号で報せてくれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます