アンインストーム
二日目らしい。
時間が経つのが早いのか遅いのか、俺にはもうわからない。なぜだか、このパークに何年もいるような気がしてしまう。
現在は瀬戸内海をもじったであろうクソふざけた名前の橋を通過しており、予定だともうそろそろ到着のはずである。
今日何をするかなど決めているはずがないが、まあ探検隊拠点辺りをパパーっと見て回ろうと考えている。キタキツネも少し興味があるらしい。
「んーー」
「ここは初めてか?」
「オイナリサマと一緒に来たことがあるかも……ないかも」
「どっちなんだい!」
キタキツネは窓の外を見たまま答えた。見慣れない物でもあるのか、なにかを必死に目で追って首を左右に振っている。
そんなこんなであっという間に目的地に着くと、異様なオーラを放つ守護けものに出迎えられることになった。ジャハハとか癖の強い笑い方をしているが、只者でないことがすぐに分かる。
「ヤマタノオロチ……」
「キタキツネ知り合いなのか」
「ううん。げぇむでよく見るからね。たおすのすごいたいへんなんだよ」
「倒すとか言うなよ!? ゴコクみたいに祟られたら辛いぞ!? ヤマタノオロチの祟りなんて命にかかわるからな」
どうやらヤマタノオロチの方から出向いてきたお陰で自由時間が増えたらしい。なんでもイズモ大社を縄張りにしてるとか。やるやん。
「ぺろ、なんかくるよ」
「ん? ああ」
唐突にキタキツネが神妙な面持ちで声をかけてきたので咄嗟に体に力を入れた刹那、強風が吹き荒れ始めた。二柱?二人?目の守護けものの登場であった。
エキサイティングな登場をしたのは四風守護のビャッコ。なんかスケール大きくなってない? ゴッドフェスかな?
というかキタキツネの感知能力が高すぎる。
神の登場やらなんやらに動揺していると、芸人が喋りだした。フレンズ達と、実はずっと居た探検隊の面々を紹介するらしい。
「皆、少し遅れたけど紹介するね。このアンインエリアを担当しているビャッコと、ほんとはこの後向かう予定だったイズモ大社で守り神をしているヤマタノオロチ。じゃあまずヤマタノオロチから」
「小童どもよ、遠路遥々よくぞこのジャパリパークに参った。蛇神ヤマタノオロチだ。
もし気が向いたらここから少し北にある、我の住まう社を見に来るといい。可能な限り願いを聞いてやろう。もちろん、代償となる供物は忘れずにな?ジャハハッ♪」
小童って現実で言う人居るんだ……まあフレンズだし、しょうがないか。発するオーラから警戒していたが、ヤマタノオロチも随分俗世に染まっていて親近感が湧く。芸人の紹介も最早バラエティ番組みたいになってたし。
ちなみに供物は酒と食べ物で良いらしい。生首とかじゃなくてよかった。
「やぁ皆、継月から話は聞いてるよ。西方守護神、ビャッコだ。
このアンインには此処から北に向かえば砂丘が、西へ向かえば港があるぞ。色んな地域が入り交じった所ではあるが、まぁ楽しんでってくれ!」
あー、そういう感じなんですね、四風守護の方も。厳格な感じを想像していたんですが、こういう感じなんですね。
あと、芸人が姉呼びしてるのが気になった。非常に。
その流れで眉毛の人とおさげの人も喋り始めた。二人は探検隊の人間らしい。フレンズだけで基本はなんとかするが、人間の介入が必要なときは探検隊として助力するようだ。
「うう……」
「キタキツネ?」
「なんでもないよ」
「探検隊が気になるのか」
「うっ……ちがう、ちがうよ!」
キタキツネの様子がおかしい。それにさっきから太眉のほうがキタキツネを気にしている気がする。
あとで話を聞いてみるか。
____________________________
自由行動の時間になり、俺は探検隊の太眉を話していた。探検隊ではよくパーク中のフレンズに向けて招待状を送っているらしく、キタキツネはそれを一度断っていたようだった。なお断るときはなにもしないわけではなく、代わりにフォトを送り返すらしい。
しかし…
「探検隊のフレンズはいっぱい居るじゃないか。猛禽類の強そうな子とか……」
談合坂! エス! エー!
叫び声とともに光線が発射されるような音が聞こえ、探検隊拠点の奥の森から土煙が上がった。
「頼りになるフレンズなら居るだろう?」
「ラブリーなキタキツネじゃないとだめなんです。それにあの子、大多数のフレンズが倒せないセルリアンを一撃で倒せる力があるので」
「ら、らぶりー? 分からなくはないが……というか、キタキツネって随分強いんだな」
「かなりのもんです。断られちゃったのは残念でした」
キタキツネは俺の後ろに隠れたまま太眉をじっと見つめている。話したくはないらしい。
「それより、アンインに来たんですから観光でもいかがです」
「それが決めてなくて。キタキツネは?」
「ボクどこでもいい」
太眉は「でしたら」と言うとどこかに電話をかけ、二言ほど交わすとすぐに電話を切った。
誰を呼び出したのか聞く前に遠くから足音が聞こえ始め、太眉が呼んだ相手目の前に現れた。頭から大きな翼が生えており、セミロングの髪が肩まで垂れているフレンズだった。
「今日は穏やかな日ね。……あら、あのヒトはもしかして」
「前話した試験入園の方だよ。案内してあげて。君ならできるよ」
太眉はやってきたフレンズ……オオタカを連れてこっちへやってきた。
「探検隊のオオタカよ。この辺の地形には詳しいから任せてちょうだい」
少し鋭い目つきではあるが、目が合うなり笑顔で自己紹介をしてきた。駅とかで見る中学生とか高校生の集団で目立つ、育ちが良くて大人びた女の子の感じがする。とても感じが良い。就活で評価高そう。
「じっと見てどうしたの?」
「ふたりともかわいいねぇ!!」
「……ありがとう」
オオタカは営業スマイルでうまく回避したが、キタキツネは横から普通に睨んできた。前のオオタカと横のキタキツネ、最強の編成である。
__________________
頭から翼が生えているので飛んでいくかと思って居たが、気を使って一緒に歩いてくれることになった。
足元が不安定な森の中をオオタカとキタキツネはどんどん進んでいくが、こっちは運動不足の人間なので何度もオオタカに足を止めさせてしまった。
「焦らなくてもいいのよ」
「そもそもどこに連れて行ってくれるんだ?」
「ボクもきになる」
「話すこともできるけど、まずあなた達の目で見たほうが良いと思うの。きっと気に入るわ」
物音を警戒してたまに立ち止まりながらも、三人はどんどん森の奥へ進んでいった。
道をよく見てみると足元の草は踏まれた後が多数あり、枝や草もドーム状に穴が空いているので森のフレンズたちが使うけもの道を通っているのだろう。
「キタキツネは探検隊行かないのか? あの太眉悪い人じゃ無さそうだけどな」
「たいへんなんだよ。リウキウの道場に行ったり、呼ばれたら拠点からしゅつどーしなきゃいけないんだよ?」
「へえ、消防士みたいなもんか」
「げえむできないんだよ。ぜったいやだ」
今まで足を止めなかったオオタカがいきなり振り返った。
「ゲームならあるわよ」
「こゃっ」
あの拠点の中どうなってんの!?
オオタカは再び歩きだすと、話を続けた。
「ヒトの手伝いをすればじゃぱりマンの試食もできるし、コインも貰えるわよ」
「探検隊の待遇って良いんだな。休暇てどうなってるんだ?」
「基本ピクニックよ。セルリアンが大量発生したときと体力測定以外はね。だからほとんどお休みだと思ってちょうだい」
「行ってみようかな……ボク……」
「ちょろいじゃん」
「かわいいわね」
ちょろかわキタキツネ、良い。オオタカも良い。二人共油断しちゃダメだからね。
___________
じかーい、じかい
・キタキツネは探検隊に入るのか
・オオタカはどこに連れてってくれるのか
・オオタカは私に食べられてしまうのか
の三本立てでお送りいたします。
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