20、エール国に行くのは誰?⑤ 第二話完

王妃とアンジュは息を飲んだ。

完全に、ジルコン王子はロゼリアを王子と勘違いしていた。

アンジュはこの話が自分に関わっていることを知る。

恐怖に顔をゆがませフルフルと首を振った。

このままでは本当にジルコンと同行するのは、正真正銘の王子であるアンジュになるからだ。

アンジュにはこの猛る王子と共に行動することなど、想像を超えていた。

できそうになかった。


ジルコンはその手をロゼリアに差し出した。

拒絶されるとも思っていない、己の思い通りに物事が進むことを知っている力強い手だった。

その目はきらきらと輝いている。

さげすみもなく馬鹿にしてもいない。

素晴らしい未来を思い描き、明るく輝く目だった。


だから、ロゼリアはそれまでの苛立ちが昇華されていくのを感じる。

彼があざけったのも、馬鹿にしたのも、ロゼリアがジルコンが世界を見る視点で、見れていないことからきていたのだ。

だったら、彼と共に行き、学び、己を引き上げればいいと思う。


結婚までの間、王子として、このエールの王子と共に外の世界をみるのはよさそうだと思う。

16歳の誕生日を迎えてからの数週間、姫として城に籠ったことを思うと退屈で病気になりそうだった。

今日も、やむに已まれず叫びだし走り出し、発散させたかったのだ。

アンジュは絶対に行かないと主張している。

ここで王子としてのロゼリアが行くといえば、ロゼリアが行くことになるだろう。

なら、王子としてロゼリアが行く。

入れ替わりには誰も気が付かなかった。

女とばれない絶対的な自信があった。

なら、返事は一つである。

閉じられた世界から、広い世界へ行く。

初恋の男の輝く目が見ている世界を見てみたい。

ロゼリアの胸は熱く踊った。


「わかった。あなたについていく。面白い世界を見せてくれ」

ロゼリアはその手を取った。

力強い男の手がロゼリアを握り返した。

あははっとジルコンは豪快に笑う。

それは、ベルゼ王にもセーラ王にも、そして彼の騎士のロサンにも止めることはできない決定事項だった。


そして、ロゼリアは16歳を超えても男装を続けることになる。

アンジュは姫としてアデール国に留まり、アンジュ王子としてジルコンに同道することを決めたのだった。





第二話 16歳の誕生日 完

三話に続きます。ようやくロゼリアは男装でアデール国を出ることに。



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