大空の希望
(前回のあらすじ)
カノンに尋問を受けている最中、俺は青龍への対抗手段を思いついた。海亀の魔法で拘束が解けた時、青龍が襲来し大量の水が押し寄せて来た。
◇◇
「青龍だぁっ」
と悲鳴が響いて大量の水が押し寄せて来た。
ゴボゴボと音を立てて押し寄せてくる真っ黒な水は、悪意が
あっという間に焚き火は押し流され、あたりは真っ暗になった。
「マジか、マジか? ヤバいやろこれっ」
少しでも高所に避難しようと手探りであたりを探るが真っ暗で何も見えない。
こんな時、懐中電灯でもありゃあ、と切に思う。
途端に海亀の甲羅が輝き、あたりを照らしてくれた。
「なんでもありだな」
『喧しいわっ、上に通じる道があるはずじゃ。とっとと探さんか』
海亀に叱られながら、ともかく水の少ない方へと移動していると、上からバシャバシャと水が落ちて来ているところがあった。
坑道に空気を送る通気口らしい。
穴の広さは直径で七十センチほど。そこから泥水がバシャバシャ落ちて来る。
ここから外へ出られるかも知れない。
高さも手が届くくらいだから、入り口に取り付けてあるカバーを取り払うと、光る左手で穴の中を照らしてみる。
崩落を防ぐために木枠で補強されていて、一定間隔で対角線に渡された
あれを手がかりに登れそうだ。
どんどん水嵩が増して来るから、迷っている暇は無い。
左手を通常モードに戻し、両袖を引き抜くと手袋代わりに巻きつける。
「
上から落ちて来る泥水を被りながら、手のかかるところを探り当てては登って行った。
◇◇
かなりヘロヘロなのよね。
なんとか通気口のてっぺんにたどり着いたものの、俺の放ったディストラクションの通り道だったようで巨大な用水路(むしろ川?)のように抉られており、そこへ向かってあたりの水が流れ込んでいた。
出口が川底だったら溺死だよ、おい。
「過去の自分に殺されかけたって事は?――自滅ってかよ? チキショウめ」
わけのわからない愚痴を言いながら、暴風と滝のように降りしきる雨の中、凌げる場所を探した。
鼻から雨が入ってくるので、口を半開きにして喘ぎながあたりを海亀の照明で照らす。
ようやく巨大な岩が人型にもたれあっているような場所を見つけて走り込んだ。入り口付近は風に煽られて吹き込んでくる雨に晒されているが、直撃しないだけマシだ。
「ぷぁ〜っ」
と、へたり込んで顔にへばりつく水滴を拭う。びしょ濡れになった上に、風に煽られてかなり体力を消耗した。
ヤバかったぁ……。
興奮が引くと雨に晒されて冷たくなった体と、空腹が押し寄せてくる。
弱り目ってやつ? あ、祟り目もあったか? なんてやめてくれよ。これフラグって言うんだっけ?
ブツブツ呟いていると、ズオゥ……と空気が揺れる。
嫌な予感しかしないんだが? おそらくそれは当たってるんだろう。
「勘弁してくれよ……」
ゴロゴロッ、ドォーンッと落雷の爆音も。派手な死神がやって来やがった。
ズオゥ、ズオゥ、と空気が震えるたびに風が荒れ狂い、降り頻る雨は上からと言わず、舞上げられて下からも吹き上げて来た。
ピカッと雷光が真横に走り、浮かび上がる巨大な漆黒のS字がIの字になると縦揺れに身をくねらせ、近づいて来やがった。
「どぉしてもヤル気かよ――泣けるぜ……」
と、言ってても仕方ねぇし。
チクショ、と鉛のような体を持ち上げ八の字立ち(つま先を内側に八の字にする)に体勢を整えると、そのままケツの穴を絞り上げるように体を絞り、魔力を循環させて行く。
『魔練鉄心』
そこら中から魔力が集まってくる。
鬱陶しい雨粒も弾き飛ばされ、俺を中心に円を描いて広がっていく。
『亀っ――ディストラク……』
『待てっ、少し待て』
抑えた海亀の念話。まだ魔力が足りなかったか?
『違う、負の魔力が渦巻いておる』
え? なにそれ?
雨粒が叩きつける音に紛れて嗄れた声が聞こえる。
「遮断――っ」
カノン・ボリバルの声だ。
なんで?
そもそも共闘を持ちかけたのも、カノンの異能『遮断』を使いたかったからだ。それだけではない魔力の高まりを感じる。
「魔力錬成――っ」
「魔力錬成っ」
「魔力錬成――――っ」
聞き覚えのある重低音の声と、復唱するガラガラ声たち。
これは魔人軍? どう言うこと?
『避難先の坑道を水責めにされて、迎撃しなければ『災禍』に飲まれると判断したのじゃろう。別の避難先へ行くにも、青龍の軌道を逸らさねばならんからの』
海亀様のありがたい解説で腹落ち。
期せずしてムスタフ軍が青龍を足止めしてくれようとしている。
「
十将だかなんだかの声が響くと、真っ赤な光が空へ打ち上がって行く。
ババババ――ンンッと破裂音が空を覆い、あれだけ真っ黒な雨雲が立ち込めていた空が、血の色に染められた。
「#%$€£*+#%」
脳内を引っ掻き回す青龍の悲鳴。
効いているのか? ん?
Iの字がS字に折れ曲がっている。効いている? S字が逆S字に折れ曲がり、見えなくなるほど上昇していく。
こりゃ効いているよな?
都合の良い期待値抜きで効いているような気がする。
ヨッシャぁ!
ここから出番じゃね? いい感じじゃね?
それじゃあ行ってみましょうかぁ?!
練り上げた魔力をさらに練り上げていく。暗雲に覆われて青龍の姿は見えないが、およその場所は検討がつく。台風のように目が出来ている。
おそらくその中心にヤツはいるはずだ。
もう十分に練り上げられた魔力は、プラズマのようにあちこちで光を走らせ、バチバチ音を立てている。
『亀――ディストラ……『待てッ!』』
なんだよもう……。
『雲の隙間を見てみぃ。どうやら援軍じゃ』
白銀色に輝く軌道が青龍の消えた雷雲へ突っ込んで行く。ピカッと輝くとブレスが放たれる。
「コウとスンナかっ?」
海亀に問いかける必要もない。
あれはまさしく大空の希望。きっと五百年前の人々もこんな気持ちで空を見上げたんだろう。
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