逆鞘
(前回のあらすじ)
カノン・ボリバルと対峙した俺。意外にも以前より数段腕を上げていた。「地を舐めろ」そう言うと嵐のように斬り込んできた。
◇◇
キンッ、と火花が飛ぶ。
弾き返した剣が風のように旋回して、足元を払ってくる。
「のぉッ!」
俺はトンッ、とつま先で地を蹴り距離を取ると腰を落として低く身構えた。
仕切り直しだ。
完全にヤツのペースにはまっている。
ススッとカノン・ボリバルは進み出たかと思えば、そのまま突いてきた。
「つ……ッ」
左手のバックラーでカチ上げて下へ。
屈めた身体を槍のように伸ばして土手っ腹に突き入れるが、ユラリと
「こんのっ」
剣をスッと引き戻すと足元を払い、グルリと剣を回すと右袈裟へ振り下ろす。
「ふんっ」
カノンは上体を反らしトントンッとステップを踏んで
そうくることは百も承知だ。
振り下ろしてきた剣を弾き返すと、左回りに動くカノン・ボリバルを正面に捉えるよう、左足を引き寄せ剣を突き入れた。
ピュンッと突き入れた一閃を、カノンは身体を捻って避けると俺の右外側へ回り込む。
少し口角が上がっている。
「どうした? 自慢のスピードが衰えているようだが?」
そう言いながら
剣術は乱暴に言ってしまえば間の削りあいだ。
相手の構えを崩しながら、自分の剣が届く間合いで相手の手の出しにくいところへ身体を持っていく。
上から見るとカノンは常に俺を中心に、時計回りに動きながら攻撃と防御を繰り返している。
俺の右手の剣の外へ外へ――と。
『光陰流』の防御の要の
片手で両手剣の相手をしなくてはならないから、当然力負けする。
ならば――。
左半身の構えをとき、膝を軽く曲げて軽く身を屈める。
相手が右手へ動けばこちらも右へ。
左へ動けば左、後ろに下がればそれだけ間を詰める。
その間、右左に身体を揺らしながらフェイントも織り交ぜていく。
ボクシングで言うところのクラウチングスタイル――相手に正面を晒すかわりに、攻撃の正中線から相手を逃さない。
攻防一致を旨とする『光陰流』の半身の構えを捨てて、攻撃に重心をおいた。
「シッ、シッ……」
細かい気合いを入れてはフェイントで敵を誘う。
カノンも時折、剣をピクリッと動かしては視線でこちらを誘導しようとする。
ユラリユラリと身体を揺らしながら、剣先だけは空中に固定されたように動かない。
何か仕掛けるつもりらしい。
俺のMPと神力は先ほどの魔人軍十将のサガンで使い切っているから、今度発揮したら意識を失う。
当然、燃費の良い
すぅーっと剣が喉元目がけて伸びて来た。
こちらが剣先を払って打ち込んでくるのを狙っている。
“後の先”を取ろうってわけだ。
俺は左手を手首をクルッと回して、海亀(バックラー)を擦り当て軌道をずらすと、小手を狙ってピュンッと剣を振るう。
ヒョイと剣を引かれて避けられてしまうが、一歩踏み込む隙ができた。タン、ターーンッとツーステップで突きをお見舞いする。
「ぬっ?!」
カノンは剣を縦に起こして右回りに回避すると、反らした上体をバネのように起こして斬り込んできた。ビュッ、ビュッ、と凄い音がする。
バックラーとミスリルの剣で交互に受けて、突っ込んできたカノン・ボリバルを腰を落として肩で受け止めた。
俺の頭がちょうどヤツの胸のあたりだ。
カノン・ボリバルは片手で俺の首を抱え込むと、
瞬時に
さすがにバランスを崩して転げるが、転げざま「ンッ」と目の前にあるヤツの足目がけて剣を振り抜く。
カノンが剣先を避けてヒョイと飛び退がる隙に、振り回した剣の反動と腹筋と大腿筋が
カノンの顔色が変わる。
「ほぅ……アレを
トント――ンッとバックステップで距離をとる。
何言ってやがる? 慌ててあたりを見回す。
見ればライガが肩で息をしている。
その周辺に倒れているのは近衛隊長とその部隊――俺とカノンの一騎打ちにライガが加わるのを防いでいたみたいだ。
「おいっ!?」
ピクリッと近衛隊長が反応する。
まだ死んでいない――だが、瀕死の重症ってところだ。
「すぐに助けてやっから死ぬなッ」
ぐったりと地に伏せていつつも、俺の声に反応しようと身じろぎしてる。
「くっ……」
くっそォォォ――っ。
歯噛みする思いってこんななんだ。
もう
ふぅ……ふぅ、スゥ……。
ふぅ……ふぅ、スゥ……。
『息吹』を繰り返して回復を試している。対峙するほんの僅かな時間でも良い。二割でも
あたりに注意を払いながら、カノンとライガを挟撃されないように正面に見据えた。
カノンより奥の方に見える血とほこりに塗れたライガが、肩に大太刀をからげてゆったりと近づいて来ている。
俺と目線があうと白い牙を剥き出した。
「カノンっ、交代だっ! 決着をつけようぜ、コウヤッ」
グロウッ――と咆哮を上げた。
「嫌な縁だよなぁ……」思わずこぼすと、体に魔力を
「逆鞘か?」
カノン・ボリバルも苦笑いしてる。
「つれないこと言うなって。これがオレたちの
気の利いたセリフを言ってる――と、得意げなライガに『死ねば良いのに』と思ってもバチは当たるまい。
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