コウの参戦
(前回のあらすじ)
コウとスカイ・ドラゴンのスンナの出現により、ムスタフ軍は森の中まで撤退した。
◇◇コウヤ目線です◇◇
「魔人軍が……ムスタフ軍が引いていくぞっ!」
「「よーしッ」」
「「「ウォォ――ッ!」」」
歓喜の声があがる。
「隊列を乱すなっ、このまま追撃に入るっ。出立の準備を五分で整えよっ」
張りのある指示が飛ぶ。サンガ少佐の声だけど。
「南へ転身っ、準備を整えろっ」
「転身準備ーっ」
「転身準備――っ」
復唱する声が伝播していき、ガチャガチャと武具と背嚢を背負う音がした。
「もたもたするなっ、魔石の残量も確認しとけっ。足りない数をまとめて各小隊長へ報告っ。後方(補給部隊)へ行って補填を急げっ」
あの声はサンガさんところの副官だったロン大尉(獣人の乱の後少尉から昇級した)ですが?
「転身準備……っとぉ」
って身の回りのものだけ準備して呟いてるのが俺ですけど。
天幕の中で近衛隊長に『余計なことはするな』って目で見つめられていますが?
それがなにか?
「そのようですな。では準備は我らが整えますから、コウヤ将軍はしばらくお待ちを」
と俺から目を外すことなく、リョウに指示して天幕の撤去を始める。
「いや、あのさ。俺もそれ手伝うからさ、ここに座ってたって邪魔じゃないですか?」
「いえ、結構です。準備が整い次第、お声かけしますので、身の回りの品だけご準備ください」
口元は笑っているが、目が笑っていない。
「そ、そうですか? なら、良いんですけど……」
立ち上がった姿勢から中腰になり、おずおずとミリタリー椅子に腰を戻す。
折りたたみ椅子だから、長く座っているとケツが痛いんだよねぇ。
ふぅ……って、なんで?
軟禁じゃあるまいし、なんで監視されているの? 一応コウヤくん将軍じゃないですか?!
なんか悪いことした?
そんなワタワタした俺の無言のアピールに、近衛隊長が苦笑いする。
「本隊の指揮はサンガ少佐がお取りになられます。獣人の部隊はモンさんが。風の民はカイ殿が任せろと――心配はありません」
そんなこと言ったってこちとら社畜歴十年のジャパニーズだ。周りが働いているのに、何もしないのは苦痛だ。
「イヤイヤ、俺も心配なんかしてないよ? でもさ、何もしないっていうのもアレでしょ?」
「コウヤ将軍は我らを見届け、『災禍』を乗り切る仕事が待っています。ワタクシはその希望を守り、コウヤ将軍は我らの仕事、彼ら……」
と言いながら、転身していく部隊を指差し、何度もひつこいようですが――と、ニヒルな笑いをこちらに向ける。
「彼らの戦ぶりを見届ける義務がある。ある意味、誰よりも辛い仕事になるかもしれませんぞ?」
「わかったよ。なんかあったらすぐに動くから教えてくんな」
ふ……っ。認めたくないものだな……って赤い◯星の人なカンジで。
そう言わなきゃ申し訳ないくらいの彼の誠意が、コウの言葉を思い出させる。
コウってばよ……。
「おまえが闇堕ちしたら、魔王オモダルが出てくるだろ? わかっているのか? それとも世界を破滅に導きたいのか? ならば、私が相手だ――」
と両手から白銀の聖魔法を立ち上らせて、脅迫するもんだから「ちゃうッスっ!」と縮こまっちまったよ。
おまえが動くと、この世界が滅びるって――。ちょっと哀れみを浮かべた苦笑に、何もできない苛立ちと申し訳ない気持ちがないまぜになって、中途半端に笑った。
◇◇コウ目線です◇◇
「スンナ。準備は良いい?」
スカイ・ドラゴンのスンナに取り付けた飛行鞍の中から眼下を見下ろす。
ムスタフ軍が森の中へ移動を始めている。
『いつでも――。でも急だからびっくりしたよ』
クスクス笑うような念話が届く。
「ごめんねぇ、コウヤのヤツが無茶してさ」
全く手のかかる相棒だ。
包囲する前に攻撃を仕掛けて、逆襲されたら一人で暴れてぶっ倒れてるんだもの。
『まぁ、一人で百人やっつけちゃうなんて人間にしておくのはもったいないよ』
クルクル――ッ、と喉を鳴らしてスンナが笑う。
◇◇コウの回想です◇◇
コウヤが倒れた――?!
それを知ったのは今朝の九時を回ったくらい。
「嘘……ッ?!」
言葉を失った。
いつだってアイツは無茶をする。慌てて『秘奥の神殿』まで転移した。
スンナはバンパ戦線でカノン・ボリバルに撃墜された時の傷を『秘奥の神殿』で癒やしていた。
ハイエルフのイレーナから、“ドラゴンズ・アイ”の秘密と『災禍』の神託を授かったあと、オキナは方位石を残していた。
そのおかげで、ここまで一瞬で転移できたワケだけど。
まさか死んじゃいないよね?! いないわよね?!
焦りながら、コウヤたちが布陣しているゴーレムの渓谷に行ってみたら……
介護をしていた衛生兵に無事を告げられると、腰が抜けるくらいホッとした。
全く人騒がせなヤツだ。心配して損した。
コウヤとはいくつも死線を乗り越えてきたし、実際アイツも私も死にかけた。
この世界は命が軽い……。
背筋が凍り指先が冷たくなるほど心配して、駆けつけてみれば、アホ面で気を失っている。
「アホ……」
口にすると吹き出したくなる。
なんでかなぁ……ほっといたら、命懸けで腕を振り回す子供みたいなヤツに、世界の命運がかかっているなんて。
目を覚ましたら何事もなかったように、
「万事了解した――んで? 俺は何をすれば良い?」
だって。
だからキツイお灸を据えてあげたのよ。
「ならば、私が相手だ――」
あの時のコウヤの顔ったらもう……。
一人でクスクス笑ってしまう。
『コウ……、敵が射程に入るよ。行くかい?』
「当然っ」
私とスンナは降下を始めた。
◇◇◇ムスタフ将軍目線です◇◇◇
「ドラゴンが接近してきますっ」やや上ずった声が響く。
ムスタフ将軍は振り返りもせず、森の中へ足を早めた。
「森の中へ急がせよ。魔導官はシールドを準備、空爆が来るぞ」
十将筆頭が声を張る。
「全体、早足っ」
小走りに駆け出すムスタフ軍の眼前に閃光が煌めいた。
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