待ちかねたぜぃ?

(前回のあらすじ)

 遠距離魔法の火山弾ボルガニックで攻撃するも、ここは魔法の使える世界。ムスタフ将軍の切り札『断絶ブレイクアウト』で火山弾ボルガニックの砲撃隊は崩壊した。


◇◇


「戦闘準備っ、隊列を整えろッ!――来るぞっ」

 と俺が言い終わるか否かのタイミングで、カシャンッ、と鉤爪が崖の縁に放り込まれてきた。

 

 船の碇を少し小さくしたくらいだから、かなりの重量があるはずだ。

 身体強化の『剛力』を使ったか? にしても大砲クラスのクソ力ってかよっ?!

 

 返しのついた爪の部分が土にのめり込み、ちょっとやそっとじゃ引き抜けないくらいにのめり込んだ。


「オレッ、外すっ」

 止める間も無く熊の獣人が駆け出し鉤爪かぎづめに取り付いた。


「んんんッ」


 僧帽筋そうぼうきんと肩のあたりの筋肉が盛り上がり、腰をそらすがびくともしない。

 不審に思ったのか崖の下にチラリと目をやると

「うわぁっ!」と尻もちをつく。


「どうしたっ?」

「敵来たっ、蜘蛛みたいっ! いっぱい来るっ」


 鉤爪かぎづめに結えられたロープを凄いスピードでよじのぼってくるって言いたいのだろう。


「だぁはっはーっ! 恐れおののけっ、ムスタフ軍一番隊グェンさまだぁぁぁっ」

 恥ずかしい名乗りをあげて熊よりも大きな黒い鎧を纏った魔人が踊りでて来た。


「撃てっ!」


 光の矢ライトニングが白銀の尾を引いて襲い掛かる。


「その程度かぁ? 効かぬわぁッ」


 パパ――ンンッ、と二、三発直撃した光の矢ライトニングを鎧で弾き、『シールド』を無詠唱で発動する。

 

 胸部鋼板が発光するとシールドが体全体を覆い、集中する光の矢ライトニングの雨を後ろへ逸らしていく。


「見参っ」

「見参ーっ!」

「見参――ッ」


 次から次へと黒い鎧が躍り上がって来た。


 いちいち叫ばなければ、出てこれないのかコイツらは? 

 鬱陶しい連中だ。


 近衛隊長が俺を腕で制しながら、体を差し入れて庇うように前へ出ると、

「コウヤ将軍は後ろへっ」

と低く押し殺した声で告げた。


 副隊長のリョウも、その他の近衛隊も次々と俺の前に身体をねじ込みぐるりと取り囲んで肉の盾を作る。


「さぁっ、早くっ!」

 リョウがいつのまにか俺の前に回り込んで誘導しようとする。

 

 一番安全なところへ移動するこんなところ。ちょっとどうなの?


「リョウ、五、六人ぶった斬ってからでも良いだろ?」


 なにより鬱陶しい連中を崖下に突き落としたいんですけど?


「雑魚は任せなさいって」


 リョウが笑う。


「手柄を独り占めする将軍ってどうなの? 師匠?」

 苦笑いしてチラッとコッチを見て周囲に目をくばりながら、近衛隊の半数を引き連れて下がっていく。


「出る時は出るぞっ? わかってんなっ?!」

 ムッとして言い返すが、ムスタフ将軍も控えていることを思うと今は我慢だ。


「わかってんな?」

 念押しすると後ろへ下がりながら監察官を探す。

 戦の内容を記録し、各部隊の戦功を記録している彼らだ。

 一番戦況を把握しているはずだ。


「苦戦しているようですな」

「御託は良い。本隊が届くまであとどれくらいかかる?」

「あと一時間ほどかと」


 戦場に目をやる。

 次々と崖の縁から躍り上がってくる魔人たち。その全てが一般兵の戦力十人分だという。

 

 ん? 対岸の崖に配置した部隊からこちら側に登ってくる魔人たちの背を撃てないだろうか?


「対岸からアイツらの背を……「向こうも同じ状況です」……当てになんねぇってか?」


 渓谷のムスタフ軍に両岸の崖から火山弾ボルガニックを撃ち込み、潰走させるつもりだった。

 ところが潰走するどころか、逆襲してきてまるで攻城戦みたいになっている。

 

 俺は後ろへ下がりながら、

「火力を前にっ、拠点を作らせるなっ。前に火力を集めて叩き落とせ」

 と声を張り上げる。


「盾兵、前にっ。光の矢ライトニング構えっ」

 フィジカルで劣る人間の変わりに獣人が壁となり、崖からよじ登ってくる魔人を押し返そうと、猛攻を防いでくれている。


「獣人は下がれっ、光の矢ライトニングの射線をあけろっ」

 獣人が叫んだ途端に足元の地面を穿ち、一斉にバックステップで距離をとる。

 

 視界が開けた。

 目の前にいるのは魔人たちだけだ。


「撃てっ!」


◇◇ムスタフ・ゲバル・パジャ将軍目線◇◇


 渓谷の両脇に迫り上がる崖。

 そこをアリが群れるように魔人がよじ登っている。

 

「どこにおる……?」


 両岸のどちらかの崖にいると踏んで仕掛けたところが、現れたのはアイアン・ゴーレム。

 厄介な罠を仕掛けてきたかと思えば、力技で跳ね返して見せると追撃してこない。


 だいぶ間が空いて火山弾ボルガニックを打ち込んできたが、どこから打ち込んで来るか分かれば対処は簡単だ。

 砲台ごと吹き飛ばしてやった。

 なんとも拙攻拙守としか言いようがない。そして今に至るわけだが……肝心の敵将コウヤの位置がわからない。

 早く討ち取らねば、後ろから敵の本隊が迫っている。

 

「今、敵(ゴシマカス軍)はどこにおる?」

「あと一時間ほどかと」

 

 戦況図の上に置かれた凸型の駒を動かし、彼我の位置を確認していく。

 共通する思いは『それまでに正面の脅威は取り去っておきたい』だ。


「魔導官を呼べ」短くそう告げると

「崖の上に闘気の塊が発生していないか? 尋常ならざる気配を放つはずだ」と伝えて、こめかみを両手で揉んだ。

 今ごろは先遣隊が交戦に入った頃合い。

 ならばそれを迎え撃つために闘気を纏ったに違いない。


 気がつくとなぜか後手に回っている――。


 本来なら敵の狙いを潰し神速で追い詰め刈り取ってきた自身の戦績において、敵将コウヤは初めてのタイプだ。


 かなり弱そうに思える。

 あっさり撤退するし策も幼稚。なのに尻尾を捕まえきれない。まるで風に舞う木の葉を追っているようだ。

 時間ばかりが過ぎていき、自軍の後退期限と敵(ゴシマカス軍)の本隊のことを思うと焦りも出てくる。

 キリキリとこめかみが痛んだ。


「闘気を感知しました。人とは思えないほどの巨大な闘気です」

 

 尻尾をつかんだ……。


「友軍どの。出番ですぞ」

 そう声をかけるとのっそりと巨大な影が天幕の中に入ってきた。

 ヒューゼン共和国から派遣された“誰よりも敵将コウヤと戦った人物”と聞く。


「待ちかねたぜぃ?」

 そう言うと巨大な虎の獣人は笑った。

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