突撃!

(前回のあらすじ)

 コウと『スンナ』の感覚が同期シンクロすると、ワイバーンたちは次々と落とされていく。

 コウの活躍により、バンパ戦線におけるヒューゼン軍のワイバーンたちは駆逐されていった。


 ◇◇◇


 「あらかた片付いたか?」


 大きく伸びをすると、そろそろ行きます――と天幕の中をのぞき込んだ俺は中に声をかける。

 うなずいたコール師団長が大剣を腰に回して立ち上がった。


 「よーしっ、第一段階は終わりだ。次のフェーズに入るぞ」ガチャガチャと鎧の音を立てて天幕から出てきた。 


 「次は勇者コウヤ殿の出番ですぞ。見せ場ですからな、よろしく頼みます」軽く会釈してニヤリと笑った。


 どうも〜。

 『バンパ戦線』に出てきたのは良いけれど、ここのところ出番が少なくてボーっとしていたコウヤ君だよっ。


 俺は獣人部隊を率いて、ここバンパ戦線の左軍ひだりに組み込まれている。その中でもフィジカルに優れる獣人たちは遊軍としてあちこち走り回る事になる。

 陣立ては本陣が一番うしろ。その前に主力の中央軍で一万、右軍が五千、そして義勇軍が左手に三千と言った軍容だ。


 対してヒューゼン軍は二万。獣兵と言われる魔獣を操る連中とともにブラック・ドラゴンまでひき連れてやがる。


 ってことは、俺がブラック・ドラゴンとあたるワケなんだよねぇ。

 どうなの? それ。

 もはや兵器扱いじゃない?


 「師匠っ、誰にボケているんスか?」情け容赦のないリョウの突っ込みが入る。


 なんでも拾いにくるなよ。

 ちょっと赤面。


 「熱気に当てられて熱くなりすぎないためのコウヤ君ジョークだっ。――そろそろいくぞッ」とリョウと狼族のシンに声をかけた。


 「「ウッスッ!」」


 肩から闘気をみなぎらせる二人を連れて予定の配置までかけ戻っていく。


..

….

……


 オキナの立てた作戦は、ワイバーンの空襲を『スンナ』とコウが食い止める。

 その次に襲ってくるヒューゼン軍に金属兵五十をようする第四師団を当てるってながれだ。

 いかにオキナがこの戦線を重くみているか、がわかる。およそゴシマカス王国軍の四割をこちらに振り向けていた。


 コール師団長が大音声だいおんじょうを張り上げた。


 「敵の先鋒はくだけたっ、我らの敵は目の前の無能な肉のかたまりだけだっ。今こそ我らの力を見せてやろうぞっ! 中央軍かかれぇぇーーーっ」

 

 「「「オウッ」」」


 一万の兵が走り出す。

 振動がこちらまで伝わってきて、否が応でも緊張が高まってくる。先頭を走るのは魔道具を積んだ騎兵隊だ。


 「来たか? 愚か者どもがっ!」向こうにも馬鹿でかい声の持ち主がいるらしい。


 「地獄の炎に焼かれるが良いっ」


 

 ブラック・ドラゴンがむくりと体を起こし、小山のようにそびえたった。


 「グォォーーーッ」


 ドラゴンの咆哮に地面がゆれる。

 それだけでも地面がブルブルと震え、荷駄を引いていた軍馬が暴れ出した。

 さすがに騎兵の操る軍馬たちは、良く訓練されていて足並みをそろえて突っ込んでいく。

 一刻も早く敵の中に突入することこそが安全なのだとわかっているようだ。


 怯まず突っ込んでくる騎馬兵たちに苛立ちを感じたのか、ブラック・ドラゴンが大きく口を広げた。


 「いけねぇっ!」


 ブレスがくるっ、と俺はすぐにシールドを展開した。 畳二畳くらいの。

 これが俺の精一杯なの。


 「師匠っ、小さいっ」


 「うるせぇ、こっちに固まれっ」


 「お任せあれっ」後方から声がかかるとブワンッ、と空気をゆらし魔道士が大きなシールドを展開した。

 一瞬のまもなく目もくらむ閃光に見舞われる。


 ビリビリと空気が振動しグッ、と息がつまった。


 「え。えげつねぇ……。みんな無事か?」

 あたりを見回すとひきっった笑顔が目に飛び込んでくる。

 「い……、異常なし」

 シンがボソリと掠れた声で答えた。


 「騎兵は?」


 「左に旋回して逃れたッス。――右側から中央に突っ込んで行くみたいです。ホラ、あそこっ」


 砂塵を巻き上げて中央軍をいなし、右軍(こちらから見ると左手の軍)との隙間に飛び込んでいく。


 「上手うめぇなぁ……」

 感心して唸っていると、「師匠っ、そろそろッスよっ」とリョウから声がかかる。


 「くさびが打ち込まれたぞっ、左軍っ突っ込めぇぇっ」コール師団長の胴吠どうぼえ声が張り上げられた。騎兵の作った敵のゆがみに左軍が押し込みにかかる。


 「コウヤ殿。そろそろ――」

 軍令から声がかかるのに合わせて、立ち上がった。「獣兵は着いてこいっ。リョウッ、おまえもだっ」

 ススッ、と気配を消して離れようとするリョウの襟首をつかんで引き戻す。


 俺のディストラクションは強力だが、一日一回。

 クールタイムがはさまるから連発はできない。だからドラゴンをしとめるために、まずはシールドを張れる敵の魔道士を潰したい。

 

 敵のブラック・ドラゴンは三体。

 ただでさえ防御力の高いドラゴンを一体でも撃ち漏らせば、魔道士の魔力が切れた瞬間から消し炭にされていくだろう。

 

 だから俺たちは後衛にいる魔道士をつぶす。

 そのために第四師団のコール師団長は、重装騎兵じゅうそうきへいを使い危険をおかしてでも敵の重心をくずしにかかった。


 「我らが時間を稼ぎます。コウヤ殿は手筈どおりに――」


 わかった、と手振りで示し「みんなっ、あの岩が見えるか?」と敵の右軍と俺たちのちょうど中間ぐらいにそびえ立つ岩をしめす。


 「まずあそこを拠点にしよう。まずはあそこまで全力で走る。あそこを確保したらライトニングの射手はいるか?」


 見回すと背にライトニング・ボウをからげた狐族の男たちが手を上げた。

 「岩によじ登って掩護してくれ」


 コクリと頷くと「盾役を二、三人掩護で連れて行っていいか?」と聞き直してくる。


 「ああ、構わないよ」

 了解、と盾兵を呼び寄せつけてやる。


 「あとは速攻勝負だ。光の矢ライトニングを打ってくるだろうが止まるな。あそこにたどり着いたら上からライトニングを撃ちまくれ」

 簡単な指示を出すと、「行くぞっ」と駆け出す。


 「一番先にたどり着いたやつに百万イン出してやるっ、走れっ」と大声で煽った。

 と、どうでしょう?

 あっという間に狼族のシンが俺を追い抜き、先頭に走り出た。そして熊族のモンも。デカい図体のわりにすげぇ早い。

 と、思ってたら獣人の皆さんみんな俺を追い抜いていく。


 「お、おいっ、指揮官を置き去りにしてどうするっ?」


 あわてて追いつこうと速度を上げた。

 前方に敵の右軍の端が見えてきて、こちらに方向を変えて来る。


 「速度を落とすなっ、このまま突っ込めっ」


 駆けながら背にからげたライトニング・ボウを引き出し、乱射しながら突っ込んでいった。

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