イチャラブ展開と思いきや急転直下のどんどこドン

(前回のあらすじ)


 オキナの元、練兵を繰り返すコウヤ。

 ヒューゼンに背を向け、ゴシマカス王宮に攻め入る。あまりに危険な状況を解説してもらい、その困難さを改めて思い知らされる。

 だが、オキナの秘策を嗅ぎ取った俺が聞いたのが間違いだった。


 だ、誰か彼を止めて――。

 

 スイッチの入ってしまったオキナの戦術論は、深夜にまで及び逃げ場のない俺は真っ白に燃え尽きた。



 ◇◇コウヤsideです◇◇

 


 「……ったくよぉ、あれから深夜二時までだぜ。失敗したよぅ」

 機嫌良く作戦を作成しているオキナを尻目に、サンガ少佐(現在はミズイの代官、兼ミズイ辺境国領軍の司令官)

 の肩を抱いてグチっている。


 ここは領主館の執務室。

 山のように積まれた何かのレポートに目を通しては、音符♪ が頭の上に飛んでいるオキナをチラッと見て、サンガ少佐が声を落として聞いてきた。


 「で? どのような?」


 「それが分かれば、苦労しねぇって。ともかくコウが戻ってきたらもう一回ブリーフィングがあるからよ。教えてくんな、俺にわかるように優しく言い直してさ」


 ねぇ、聞いて?

 例えばさ、将棋のプロっているじゃない? あの人たち二百手も先まで読み切って会話するらしいのよ。

 そのクラスの戦術論をさ――。

 わかるわけないじゃん? 今、コウヤくんの事おバカと思ったそこの君っ。

 否定はしないが誤解はやめてほしいの!


 ドタドタと足音がすると、リョウが執務室のドアを開けると入って来た。

 「コウさんが戻って来たッス」


 「なにっ?! 早か「待ちかねたっ!」ったな……ぁ」

 

 最後の「ぁ」を言い終わらないうちに、オキナが執務室から飛び出していく。


 「ありゃ……『縮地』より早いぜ」


 「全くです。よほど待ち詫びたのでしょう」

 サンガ少佐と俺はクスクスと顔を見合わせて笑った。


 愛しのコウちゃまのお戻りってかよ? 冬なのに相変わらず熱々だねぇ、と軽口を叩きながら出迎えに行き

 「コウっ、お疲れ様――」と言いかけて固まる。


 だって領主館の入り口で、そりゃあもう熱いベーゼを交わしているんですもの。


 その後ろでワタワタと顔を真っ赤にしているナナミと目が合った。

 『そっとコッチに来い』身振りで合図すると、真夜中の泥棒みたいに忍び足で近づいて、最後には小走りで抱きついて来た。


 「(おまえも今着いたの?)」


 「(コウさんが風の民まで寄ってくれて一緒に転移して来た)」


 「(ご苦労様、あの二人はそっとしといてやろうぜ)」


 目配せを交わしながら執務室まで戻っていく。

 途中「尊い……」と、ヨダレを垂らして盗み見していたメイドのサラもちゃんと捕獲しておいた。

 待つこと暫し――。



 ◇◇◇


 「――と言った形なんだが、質問はあるかな?」

 あれから何事もなかったようにオキナは会議室に集まったメンバーを見回して作戦の説明を終えた。


 「(サンガさん。解説してくれ)」


 それはですな、とサンガ少佐が口を開きかけた時、「それから重大な情報が手に入った」

 とオキナが口を開いた。


 「ヒューゼン共和国が、『カグラ』を陥落させた。ついては、かの空軍を用いて王都ド・シマカスへの奇襲攻撃に利用されると思われる」


 なん……ですと?!


 「そいつはいつの話だい?」


 「二日前の夕方に陥落したらしい。敵は夕日を背に西側から侵入、一刻(約二時間)もしないうちに陥落したそうだ」


 なんとまぁ……。だらしない話だ。


 「その敵方にカノン・ボリバルとライガを目撃した情報もある」


 なん……ですと?!


 「盗賊団と思った守備隊が西側の門から打って出ようとした時には城壁を制圧され、西門から敵の制圧部隊が乱入して来たそうだ。お粗末としか言いようがない」


 ア然としたまま俺たちが黙り込んでいると、「あそこを拠点として敵、空軍が押し寄せて来ると予想される」

 と繰り返す。

 「ついては、サユキ上皇派のムラク・ド・ジュン伯爵家が軍を差し向け奪還に向かったが恐らくかなうまい」

 さすがのオキナも渋い顔をしている。


 「空軍が来るとしたらいつぐらいと思う?」


 「兵站を運び込み、ワイバーンを配備するのに最短で一週間はかかるとみている」


 「あと五日しかねぇじゃねえか?!」


 「その通りだよ」


 「こうしちゃいられねぇっ。リョウッ、獣人と風の民に集合かけろっ。義父おやじっ、出陣の準備だっ!」


 「オウッ、婿殿むこどのっ、腕がなりますなっ」


 「こちらも準備するっ、誰かあるっ。領軍に出陣の通達を出せっ」

 俺たちが椅子を蹴って飛び出そうとすると、会議室の入り口にオキナが立ちふさがった。


 「あわてるなっ。落ち着いて席につけっ」きびしい顔で元の席へ戻れとうながした。


 「なんでだよっ? 今なら間に合うかも知れねぇじゃねぇか?!」食ってかかる。

 間に合わなくっても被害を抑えられるかも知れない。罪もない市民が死なずに済むかも知れない。

 何もできませんでした、なんて一生後悔する。


 「ダメだ、出陣は許可できない」


 「なんでだよっ、誰かが死ぬのを黙って見てろって言う気か?!」


 「緒戦は取らせる」


 「は? いま何言なんつった?」


 「敵の空襲はあえて受ける。被害はゴシマカス王宮もバカじゃない。最小限に抑えられるはずだ」


 「あっさり前線基地を明け渡してしまう連中だぞ? 蹂躙じゅうりんされるのは目に見えている」

 なのになんで、と言いかけた時「コウヤっ、落ち着けっ」とコウの鋭い声が飛んできた。


 「……コウ?」


 「落ち着けコウヤ。今から強行軍で王都ド・シマカスへ出向いても三週間はかかる。疲弊ひへいした軍で迎撃に出向いたところで返り討ちにあうだけだ」


 「じ、じゃあコウっ、おまえの魔法陣で送れるだけ転移させられないか? 二百? いや五十でも良い。

 おまえの魔法と俺のディストラクションを使えば、少しは削れるはずだ。後の連中は後詰めで追いかけて来てもらえば良いっ。

 後詰めが追いつくまでの三週間は踏ん張って見せるっ」

 もう地団駄を踏むワガママ坊主のように、まくしたてた。

 オキナとコウが顔を見合わせる。


 「私もオキナ殿の意見に賛成ですな」

 「サンガ少佐……」


 意外なことにサンガ少佐までオキナを支持した。「ただ今から第一級戦闘体制は取らせてもらいますが」

 と席に腰を下ろして、駆け寄った部下に指示を出している。


 「おい……どういうつもりだ?」

 オキナを睨みつけた。

 多少の犠牲は致し方ないってか? だがそのあと雪崩を打ったように制圧の部隊が押し寄せて来るぞ?

 ド・シマカスを失えば、もう詰んだも同然じゃねぇか?


 「こちらも奇襲をかける」

 

 なん……ですと?

 敵方が制圧しに来た時点でその背を討つつもりか?

 各地の貴族と呼応して制圧の部隊の背を襲撃し、足止めしている間に俺たちを順次転送していけば、逆転の目があるかもしれない。


 「わかったよ……。転移しやすいように部隊を小分けに編成しなおしておくよ」

 悔しいが今は無駄死にを出さないようにするのも立派な戦略だ。

 

 オキナを見ると困ったように右の眉毛を吊り上げ、人差し指でコリコリしながらボソリッと言った。

 「ただし、襲うのはゴシマカス王宮だ」


 「「はぁぁっ?」」

 ア然としたまま俺たちは固まった。

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