風の噂と捜索にかこつけて遊びに行きたいのじゃないかと疑われる案件

 コウとオキナの救出に成功した俺。

 後回しになっていたリョウとステラ(ナナミの友人)救出の目度が立った俺たちは、『ミズイ』の風の民に身を寄せる事になり、魔法陣で一気に戻ることにした。



◇◇カノン・ボリバル目線◇◇


 場面はクルリと入れ替わる。

 戦乱の予兆とは片方だけに起こるわけではない。ここヒューゼン共和国でも薄っすらと立ち登る煙のように、その予兆らしきものを思わせるある男の噂が流れた。


 ここはヒューゼン共和国の第二空挺部隊の控室。少し肌寒くなり魔石で熱を発するヒーターが、上に乗せたヤカンを熱してコポコポと音を立てていた。


 「あちらさんゴシマカス王国もだいぶ混乱してるようだぜ」


 ポイっと新聞を投げて寄越したコティッシュ・ガーナンが、頬の傷を歪めて笑っている。チラッと、その上機嫌な顔を見ると投げて寄越された新聞に目を落とした。


 『かつての英雄反逆か?! コウヤの謀叛容疑むほんようぎ深まる』

 挿絵がほとんどの新聞に、コストのかかる写真入りで仇敵コウヤの顔写真が載っていた。

 挿絵は燃え盛る建物を背景に『白い騎士団』と対峙するわかりやすい構図だ。


 「お前の天敵、勇者コウヤも地に堕ちたってワケだ」 まぁまともな神経なら、あの国に居たいと思わんがなーーとコティッシュ・ガーナンが俺をあおる。


 「くだらん」

 俺の知る限り、あの脳筋バカはゴシマカスに反旗を翻すほどの動機を持っていない。

 不審に思いながら記事を読み進めて行くうちに、不自然な一文が目についた。


 『白い騎士団の団長、ガンケン・ワテルキー氏によると、容疑の聴取に任意同行を求めたところ、いきなり炎球ファイヤーボールを発動して来たとの事。

 建物が被弾し、火災が発生した為に同氏は市民の避難を指示。合わせて威嚇射撃をした――云々』


 あのコウヤが下手くそな魔法を放つか? アイツなら斬り結んで突破を図るはずだ。

 もしや、あの魔王オモダルが目覚めて暴れ出したのか?

 いや、そうとなれば王都自体が陥落している筈だ。火事程度ならば被害が少なすぎる。


 仮にあの脳筋バカが炎球ファイヤーボールを先に発動したとして、あの程度の魔法だ。

 最も簡単に魔導士が火災にならないよう無効化できる。それとも魔導士も伴わず拘束に臨むものなのか?


 一見、コウヤ単独のテロ行為に見えるが明らかにおかしい。


 「コティッシュ。ホットポットって知っているか?」


 事件にかこつけ、さも本当の様な嘘の情報を流す。

 それに敵国が反応した場合、ウソの情報を流し続け、ゴシマカスの都合の良い状況を作り上げる。

 ゴシマカス王国の得意とする情報戦だ。


 「異世界人からもたらされた技だ。確かコンピ……ウィルス対策? の技だったらしいが、ゴシマカスでは既に対人用に置き換えて体系化されている」


 へぇ……?! っとコティッシュ・ガーナンが唸る。「つまり、コレもその可能性があると?」

 慌てて、新聞を取り上げ細部を読み直し始めた。 


 「時系列を追いながら、整合性が取れているかじっくり解析して行くしかない。要するにこれだけではわからん、と言う事だ」

 もしそうだと仮定するなら、こちらの世論をイケイケにあおって攻め込ませる罠だ。

 守る側には地の利、人の和が産まれる。奥深く攻め込んだ先に待ち受けるのは地獄だ。


 オキナ暗殺に成功したと決め込み見事に裏を掻かれた前回の苦い経験が、俺(カノン・ボリバル)を慎重にさせた。


 コティッシュ・ガーナンも死線をくぐり抜けた歴戦の戦士だ。俺(カノン・ボリバル)の指摘を鼻で嗤うほど、お気楽には出来ていない。


 後から思えば、この時こそ攻め時だったのだが……。


 「攻め時を敵主体の状況で判断するなと言っただけだ。たかが下士官の言う事だ。気にするな」深刻な顔で新聞を読み直すコティッシュに、笑って肩をすくめて見せる。


 「フンッ、下手をこいて前線で死ぬのは俺らだ。そのなんとかってヤツの情報なのか精査した方が良い。もっとも勝てる状況を作り上げるフィデル・アルハンがそこら辺は判断するがな」

 と言いつつも、気になる箇所をペンでラインを引いている。メモを取り出し、抜き出した箇所から考えられる次の展開をフローチャートにして書き上げて行く。


 「助かった。確かにこちらの情報と矛盾した文面がいくつかある。だが、悪い可能性を並べ立てても前には進まん。後は本職情報部に任せるさ」

 早速――と席を立とうとするコティッシュを、待てよ――。と座らせる。


 「他に気になる情報があるんだ。ライガらしき獣人を見たって言う噂なんだがな……」


 もしも何か情報を掴んでいるなら――と、顔色を伺う。


 「スマン。おざなりにしているわけではないんだ。噂は承知している。ただ……。間違いだったでは済まないと思った」


 ああ。貴様きさまらしいよ――。

 うなずいて見せる。

 「だが、噂が間違いであれ、本当であれ俺にはその希望にすがりたい。出所を知りたいんだが?」


 んんっ。とコティッシュが咳払いをして床に目を落とす。


 「なんなら一緒に行くか? その出所に」 クイっと顔を上げ、そのかわり怒るなよ?! と上目遣いで俺を見返す。 


 なんなんだ? 随分持って回った言い方だな?


 「どう言う意味だ?」真意を計りかねて目を細めた。


 「どうもこうもない。そのまんまだ。今からなら丁度良い時間になるだろう」

 そう言うと外套を取り上げ羽織る。

 「俺は情報部にさっきの話をしてくる。半刻もあれば良いだろう。兵舎の玄関で待っていてくれ」

 先ほどのメモと新聞を取り上げて空挺部隊の待機所を出て行った。


 今は午前10時。

 丁度良い時間帯とはどう言う事だ?


 合流すると中央駅に向かい、そのまま専用列車に乗り込んだ。


 「どこに行くつもりだ?」


 俺(カノン・ボリバル)は、少し後悔をし始めていた。バカバカしい嫌な予感がする。


 「怒るなよって言っただろう? 着いてからのお楽しみ……っと言うか、もうわかっているんじゃないのか? 勘の良いお前の事だ」

 嫌じゃないから一緒に着いて来たんだろう?――と頬の傷を歪めて笑う。


 「嫌とは言わん。が、そんな情報で――」


 「言いっこなしだ。知りたいと言ったのはお前で、確認しなかったのもお前だ」  

 懐から取り出した懐中時計を取り出して、時間を確認する。

 やがて列車はスピードを落とし、目的の駅で停車する。


 「やはり、ココなのか……?」

 半信半疑の顔で尋ねると、「俺とお前のゆかりの地になるかも知れんな」とニヤリッと笑った。


 「ようこそ。第二都市テンペレへ」


 黒地に黄色いケバケバしい文字で彩られた看板が立ち並ぶ街並みが見える駅に降り立つ。


 「ウェルカムッ、ジェントルマンッ! これからはしばしのいこいの時間だ。レッツ! ショウタイムッ!」


 まるで天を抱くように青空へ両手を広げ笑い、小躍りするように娼館の立ち並ぶ路地まで歩き始めた。

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