いろいろ危機なんだが
「ブェッくしょいッ!」
うぉーーーっ。なんか寒気がする。
ゴシマカス王国の首都ド・シマカスも秋から冬へ季節が移り、すっかり朝夕が冷え込んできた。
あたりは少し薄暗くなってきている。
「誰か俺の悪口を言ってやがる……つっても思い当たるヤツが多すぎんな」
おー寒い、お寒いっと。
皆さん、お元気ですか?
『白い騎士団』に追われてすっかりお尋ね者になったコウヤです。
「バカだねぇ。いつまでたっても外に突っ立って居るからだよ。中に入りな。ちょっとはマシだよ」
かぁちゃん(エスミ)が家の中から顔を出した。
「ああ。もう少しやったらたら中に入るさ」
うー、寒くなりやがった――。とブツクサ言いながら隠れ家の裏に回って索敵の網を広げた。
反応が無いのを確認しては
構造は簡単。
筒状の金属に輪っかにしたワイヤーに通しておく。ワイヤーが引かれると輪っかが
次にそのワイヤーを
抜きやすくなった一枚を横に付け替え、突っかい棒にしてタガを締め直す。
その突っかい棒にもう一本のワイヤーをくくりつけ、
輪っかにしたワイヤーの反対側を良くしなる木を手繰り寄せてそちらに固定すると、
敵が誤って踏み抜いてくれたらタガが外れ、木が跳ね上がって輪っかが足に食い込むって寸法だ。
こんな事をしても街道を力押しで来られたら意味ないし、今時こんな罠に引っかかるヤツが居るのかねぇ……と、思うのだが仕方ない。
味方が引っかからないように、目印に木の枝を折っておく。
他にも引っかかると音を立てるように鳴子(竹のような筒状の植物の周りに棒を垂れ下がらせた風鈴みたいなヤツ)をいくつか設置してみた。
「まぁ気休めも良いところなんだけどね……。ハァ、結界とか自動警備してくれる魔法でもありゃあ良いのに」
異世界に来てもやっている事は原始人と同じだよ。
状況からお分かりと思うが、山里のちょっとした森の中にポツンと
あちこち潜伏先を変えて、今日こちらにたどり着いた。
『ゴシマカス魔道具開発』の常務ファティマが、ここなら人目も少ないから――。と、避難先を準備してくれていた。
「おーっ。冷えて来やがった」
両手で肘を
土間に簡単な
コトコト骨付きのボア肉を煮立たせ、かぁちゃんが丁寧にアクを
ざく切りにした根菜と臭み消しの球根のすりおろしが準備してあった。色見の菜葉も切り揃えてある。
「おおっ、ボア汁かい? いいねぇ、温まる」
「もうちょっとだから待っときな」
かぁちゃんが手にしたお玉で部屋の奥を指す。邪魔だから向こうへ行っとけ、と言いたいらしい。
「器を準備しとくわ。テーブルクロスも……あったかな?」ゴソゴソ食卓の周りを
「えーと、食器とナイフ……、これか。スプーンってこれ木のしかねぇぞっ。木のでいいのか?」
食器棚の引き出しの中にお目当てのものを見つけると、セッティングを始める。
一揃えすると通信石をポッケから取り出しては着信がなかったか今日何度目かの確認をする。
『サユキ上皇と面談できるように取り計らいましょう』とファティマが約束してから数日経っている。コウとオキナの消息も途絶えたままだ。
待っているのは性に合わないんだが、今のところ打てる手は思いつかない。
ヤキモキしてても始まらねぇか……。と通信石をポッケにしまおうとしていると、ビビッと着信を知らせる音が鳴った。
おおっ?!サイカラからの連絡だ。
ブブッと紙が吐き出されてくる。なになに――?
『王都より領地剥奪の通達あり。コウヤ辺境卿も罷免。私も同様。コウヤ様の家財他を風の民に託し、領主館を退去。今後の指示を待つ。以後、こちらのコードにて』
と暗号化されたコードが記載されていた。
なんですと……?!
考えてみたら『謀反人』とか言ってやがったよな。
だが実際こうなると――。
ラッキーだよ。
バカめ。
『ミズイ』を俺から取り上げたところで、二百五十億インの国債と二十五億インの借金が残るだけだ。
俺の借金地獄を引き継ぐが良いわっ。
カカカカッ――。
「あかん――。
よく考えたら
超ヤバイんじゃね?!
ズーンッと頭が重くなる。
あー。ナナミになんて言おうかな。なんか辛い目にしか遭わしていねぇか? 俺。
全く次の展望も見えないまま、サイカラからの通信文を睨みつける。
――なんか状況マズすぎね?!
次に打てる手はないか? オキナやコウを助け出し、汚名を
「サイカラさんから連絡が来たの?」
「ダァァァッ! ナ、ナナミ?」
俺に抱きつくように肩越しにサイカラからの連絡を覗き込んでいる。
「あ……。ああ。どうやら『ミズイ』にまで手が及んだらしいぜ。『ミズイ』の領地没収と俺は領主をクビになったんだと」
「ふーん。そうなの。ヤバイね?! ……『風の民』のところに戻って一緒に暮らす?」
ん……? どうしたの? って顔で見ないで。
ナナミさん。
唐突だったから現実感ないか――。
「おまえ……。俺、ただいま絶賛失業中で、しかもお尋ねものだぞ」
「んー。今更じゃない?」
「いや、まじめな話をしてるんだが」
「そりゃあ困ったね……っ。どうするつもり?」
できればこんな事言いたくねぇんだ――と前置きする。
「ファティマに連絡して、どうにか脱出させてもらうからおまえだけでも逃げろ。
俺と一緒にいたってロクなことになりゃしねぇ。カイに迎えに来てもらえ」
勘違いするなよ。と言いながら、体の向きを入れ変えて向かい合った。
「好いた、嫌いだの話じゃねぇんだ。お前の命がかかっている。出来るだ「ダメッ!」……」
「ダメに決まってるっ」何故か怒っている。
「なぁ……。危険な状況なんだ。わかってくれよ」
「終わった時、私なんで逃げたんだろうってそう思うって決まってる。」
「その生き残る為に言っているんだよ。手遅れになる前に……」
その時通信石からブブッ、と細い紙が吐き出された。
『明日、上皇そちらの近くのお狩場にて『お狩物』の予定』
待ちに待った連絡が入った。
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