盗人
「これが依頼された資料だ。カノン様、くれぐれも約束は……」
「ああ。この計画が成功したら、この方位石はやる。俺たちが脱出するまで手引きを宜しく頼む」
潜入から一週間経った頃、『グレン商会』の代表テイル連絡を受けて俺たちは冒険者ギルドの会議室にいた。
俺(カノン・ボリバル)は、依頼主との面談と称して打ち合わせをしている。
「王宮博物館の建設資料はコレだ。ターゲットの王宮貴族は彼が良いだろう」
差し出された王宮貴族の資料には『ラムネ男爵』とある。
「王宮貴族の”協力者”が要るのだろう?」
察しが良くて助かる。っと資料を受け取る。
「エモンとシドは博物館の資料から侵入路と脱出に使える経路を割り出してくれ。俺とソ・ランデはコイツの弱味を探る」
資料には彼の所在地と所属、簡単な経歴と親族まで記してある。
「……。ソーダ前男爵の弟か。長兄ソーダの事故死で男爵家の跡を継いだ……。まだ独身? 若いな」
年齢十六歳、ニキビ顔のその顔はいかにも跳ねっ返りの気が見て取れる。
「なぜ彼を?」
「金に困っている。兄のソーダが召喚の儀の後、錯乱して神殿を壊した補償金の支払いに追われているらしい」
一族に金を借りまくっているそうだ。と、続ける。
「金で釣れば容易いだろう。もっとも中身が空っぽだから女でもコロっと行きそうだがね」
こめかみの辺りをトントンッと叩きながら、テイルが陰気に笑った。
「”女”の方のアテはあるのか?」
「常雇いしている心当たりが一人。金銭奴隷に落ちていたところを、借金を立て替えて”モグラ”に仕立てた。裏切れば奴隷に逆戻りだ。下手はすまいよ」
差し出した別の資料には二十歳過ぎの女の顔写真と身体特徴が書いてあった。
ピュ〜♪、とソ・ランデが口笛を鳴らす。
「オレがお願いしたいくらいだぜ」
名前はソラ。
細っそりとした体型に似合わず、肉感の良い体つきをしている。
「コイツを女と金で縛り付けよう。どれくらいで釣れる?」
「派手好きなお坊ちゃんだ。内容にもよるが二百インもあれば、尻尾を振るさ」
「資金が要るな。この情報料も合わせて五百万インでどうだ?」
「ああ……。ここ(グレン商会)あてに為替で送ってもらえば助かる。ヒューゼン共和国から資金が届くまでの間、カノン様の活動資金も立て替えておこう。
一緒に送って貰えれば、その中から立て替え分と今回の情報料を相殺するよ」
「助かる……。拠点もいるな。宿住まいだとどこぞで計画が漏れる可能性がある。心当たりがあるなら、手配も頼む」
“モグラ”などと呼ばれるが、なかなかどうして手際の良い男だ。地元関連は彼に任せて『ドラゴンズ・アイ』の奪取に専念できそうだ。
「今後の連絡は通信石でやり取りしよう。金の受け渡しと連絡係は『
彼は『
エモンは頷くと、
「テイル、合言葉を決めておこう。俺が『風』アンタは『東から』だ」併せて割符(文字を記した陶器を二つに割った物)を渡す。
「使いを出すときはコレを持たせろ。貴重品だ。無くすなよ」と念を押す。
試しに二つの陶器を合わせてみると、薄く光って一つの盃になった。どうやら魔道具の一種らしい。
俺(カノン・ボリバル)の顔に思わず笑みが溢れる。
「ラムネ男爵をカタに嵌めるのは貴公に任せよう。俺たちは脱出の経路を探る」
俺(カノン・ボリバル)は出口を顎でしゃくり、大袈裟な荷物を持ち上げて会議室を後にした。
◇◇
見上げるような体育館ほどの施設の入り口に『ゴシマカス博物館』と銘打たれた金属のプレートが埋め込まれている。
入館料さえ払えば一般人でも入館できた。
ただし、一般人の閲覧できるのは
本物は別の通路から地下へ降りて、金庫の中に設けられている特設エリアにある。
俺(カノン・ボリバル)は、『大太刀のソ・ランデ』と博物館へ来ていた。
特別閲覧室のある地下へは入れないが、襲撃の前に空間の距離感を掴んでおきたい。
時間帯ごとの警備体制もだ。監視用の魔眼の位置や警備員の配置も掴んでおきたい。
『爆裂のシド』と『
分散するのは拘束されるリスクを考えてだ。
「厄介だなぁ」
グレン商会の手配してくれた拠点に戻ると、図面を睨んでいた『
「ほぼ隙がない。魔眼は死角がほとんどないし、警備員も常駐できるようだ。盗み出すには骨が折れる」
「入り口を爆破して強奪するか?」
『爆裂のシド』が図面を睨みながら問いかける。
「爆破は後回しだ。脱出経路を塞がれる」
上目遣いに『
ん? っと視線を上げる。
戻って来た俺(カノン・ボリバル)に、初めて気づいたようにヨッ、と手を挙げた。
「カノン、現場はどうだった?」
「思ったより広いな。それでいて死角には警備員が目を光らせている。時間を変えて次は昼過ぎに行ってみてくれ。緩みが出る時間を探ろう」
「なら、今日の夜も見に行くか? 夜間が俺らの強味が出る時間帯だしな」
彪族の『
「カノン、王都からの脱出経路はどうなんだ? 盗み出しても王都に閉じ込められては意味がないぞ」
『爆裂のシド』は王都の地図も広げていた。
「なぁに、そちらは考えてある。ついては……」
考えていた大まかな計画をメンバーに語り始めた。
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