嵐の前の?


 「こ、これはアダマンタイトじゃ――?」


 ノサダが驚きの声を上げた。

 

 おいおい。ノサダとサラメは確かにドワーフ族だ。

 だからと言って鉱石は専門外だろう?


 「似た鉱石だろう? そんなに簡単にアダマンタイトがあるわけーーー」



 アダマンタイトはレア中のレア鉱石だ。

 前世で言えばその価値はダイヤモンド以上。それゆえに誤って鉱物ギルドへ持ち込まれる事も多い。


 伝説級の鉱石で伝わった話しによると、その特徴は虹色に光を反射するらしい。


 確かに真っ黒に焦げた石から顔をのぞかせた鉱石が、日の光をキラキラと虹色に反射している。



 「ーーーって……ヤバイんじゃない? コレ」



 ノサダから受け取った拳大の岩石を見て、俺も黙り込んだ。

 近づいてきたオキナやコウにも回し見せる。



 アダマンタイトの価値は、その見た目の美しさもさる事ながら『剣として用いれば斬れぬものはなく、盾として用いれば貫けるものはない』と言われる鉱石の加工特性にある。


 喉から手が出るほど欲しがる国や組織がウジャウジャいるから、その価値は天井知らずと言ったところだ。


 今までは『その剣で盾を貫けるか?』って矛盾の語源みたいな話しで、現物らしきものを見るまでは架空の鉱石と思っていた。



 「コウヤ殿。戻り次第、鉱物ギルドへ持ち込んではいかがかな? 鑑定から試掘まで相談に乗ってもらえる」

 オキナは鉱石の扱いについて教えてくれた。


 「もし本物ならここにいる全員にボーナスを出してやるよ。そのかわり鑑定が終わるまでは内緒にしててくんな。欲の皮が突っ張ったヤツが群がって無用の事故を招く。もちろんハズレの時は何にも出ねえがな」

 えへらっと笑う。


 記念に一人一個ずつなら持ち帰って良いぞっと声をかけると、全員が血眼になってあたりを探し出した。



 サンプルは多い方がいい。

 どうせみんな鉱物ギルドへ持ち込む筈だ。

 俺とナナミも一緒になってキラキラしてる鉱石を探してはバックパックに放り込んだ。


 「ここであまり時間を食っても仕方ない。一人一個までにしてもらう。まだ取れていない者はいるか?」


 もう少しと未練がましい顔をするものもいたが、俺の分を分けてやるよっと放ってやると、笑顔になって戻る支度を始めた。



 ◇◇


 「「さてどうしたもんかだ……」よな?」


 オキナとコウ、俺が額を突き合わせて考え込んでいる。

 魔獣の森を抜けて『ボダイ』の役場まで戻って来ていた。



 「どうするよ? オキナさんよ」

 ここまで同行したメンバーなら良い。目の前であり得ない事を体験したからだ。だがいきなりこの話を聞いた者はどう思うか?

 突拍子もない話と笑い飛ばすに違いない。


 「今回の探索はサユキ上皇様の個人的な依頼だ。

 ところが国家的な存亡に関わる事案となってしまった。当然、裏付けになりそうな前回の災禍の記録を調べて見るが……」  


 コウも形の良い眉を顰めている。

 「予言の類いって扱われるわね。『災害対策事案』のメモ扱いってしてても議会が機能してないし」


 俺も気になっている事がある。

 

 「それよりもう一つの『ドラゴンズ・アイ』はどこにあるんだって話だぜ」


 「ともかくサユキ上皇様へのご報告が先だ。災禍に関するあらゆる記録を調べてみる。通信石を使って、記録と状況を共有しよう。連絡はこのコードで」

 腰のポケットからメモを取り出すと、二桁ずつ六組のコードを書いて俺に手渡した。


 「私はもう一つのドラゴンズ・アイを探してみる。今のところ、自由に動けるのは私だからね」

 コウが自分のコードを書いて渡してくれた。


 「んじゃ、悪いが中央の事は任せるよ。俺は『ミズイ』で手一杯になりそうなんでな」


 まずは避難計画の策定からだ。

 想定は大ハリケーンと大火事に見舞われ、インフラが全部ダメになったくらいにしないとダメだろう。


 それがどの程度出来るか? は、鉱物ギルドに持ち込むアダマンタイトにかかってくる。

 こいつで避難計画の予算が捻り出せれば、計画の規模を拡充できる。


 (神頼みの綱渡りってか? 領主は辛えなぁ……)


 へへっと一人笑った。



 ◇◆◇魔王城 魔人ライチ公爵の視点◇◆◇


 

 「ドラゴンズ・アイが見つかったとな? して、その用途もわかったのか?」


 ゴシマカス王国に潜り込んでいる使徒、ガンケン・ワテルキー公爵から連絡が入った。

 と、ワシの右腕ガワツ宰相が報告して来たのは、オキナの動向を調べさせていた時じゃった。



 「ガワツよ。『白の騎士団』ガンケン・ワテルキー団長と魔眼をつないで話せるか?」


 「御意」


 手元の水晶玉を所定の位置までコロコロと転がす。

 ピタリと止まったソレに魔力を注ぎ込むと、白く光って屋敷の中を映し出した。

 ガンケン・ワテルキー団長の顔が大写しになる。

 びんのあたりがやや白くなり、短く刈り込んだ銀髪の厳しい顔をした男。

 幼い頃からするとか弱さが消え去り、茶色い瞳は鋭さが加わった。細い眉に形の良い鼻筋を薄い唇が更に引き締めている。



 「ずいぶん男前になったのぅ? ガンケン団長よ」


 かねては通信石でしかやり取りをしていない”魔王の使徒”へ声をかける。


 「おたわむれは手短かに」


 あたりをうかがうように素早く見回すと、手にした紙をヒラヒラとさせる。


 「詳細は通信石にてご報告しますが、どうやらサユキ上皇も、オキナを使って嗅ぎ回っておるようです。あの方は私共の動きも嗅ぎ回っておる様でして、油断がならない」


 ゴホンッ、と空咳をすると、一枚の絵を見せる。

 


 「先の『変節期』を描いた絵画です。教会の秘蔵書にありました。ここに描かれたこの部分……」

 と禍々しい角を生やした悪魔の手にした杖を指さす。


 「これがドラゴンズ・アイと伝えられています。気になるのは、両手でかざすこの杖……」


 一つは緑色に輝き、もう一つは紅く輝いている。


 「これが先の『変節期』に使われたドラゴンズ・アイと思われます。そのうちの一本は我ゴシマカス王国の財団の管理する博物館にて発見致しました」



 ほう……?! ドラゴンズ・アイは二つあるか?! 

 そのうちの一本はガンケン団長が押さえたと。



 「……二つ揃えば、人類の半分は死滅すると言われる最悪の兵器が手に入るわけじゃな?!」


 良いカードが手に入ったとほくそ笑むワシに対して、ガンケン・ワテルキー団長は苛立たしそうに首を振る。



 「この地上の生物が半減してしまうのです。そしてもう一つは」

 暫くしかめ面をして押し黙っていたが、苦々しい顔で口を開いた。



 「ヒューゼン共和国にあると判明致しました」

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