ゴーレム


 「ボーッ!」


 ボトボトと水を滴らせて、ゴーレムがゆっくりと近づいて来た。第一キャンプを出発して、暫く行くと森が途絶え両脇が崖の沢に出た時だ。


 沢をさかのぼるように隊列を組んで進んでいくと、中洲になっている砂地がモコモコと盛り上がり、ゴーレムが襲い掛かってきた。

 もう四半刻は交戦している。


 「ダブステップッ」


 コウの澄んだ声とバチンッ、と光の帯が走りその完走した体にひび割れが走る。


 「ウォーター・カッターッ」


 ナナミの声が響くと、ひび割れに侵入した水分が回転するやいばに変化し、中の土塊を掻き出して行く。


 「ボァァァーーッ」


 腕をめちゃくちゃに振り回し始めた。

 体の中に侵入した刃を振り落とそうと身をよじる。そうしている間にもボトボトと土塊が溢れ出し、二メートルを越す巨体も少し小さくなって行く。


 「モンッ、親父殿よっ。盾で足止めしてくれッ。リョウッ」


 「ヘイヘイ」


 「魔石をくり抜くぞっ」


 「わかってますってッ!」

 言うが早いかリョウの剣はゴーレムの胸のあたりを貫いていた。


 パリンッ、とガラスが砕けた様な音がして、ゴーレムが土塊つちくれに還っていく。


 「やるじゃねぇか」


 「いいストレス解消ッスよ」

 ヘヘンッ、と笑う。


 「誰かさん見たいに、無駄に体力消耗してないッスからねぇ」

 ケケケッ、と座った目で笑う。


 ば、馬鹿っそんな事してねぇよっ。状況考えろッ!

 っと言う間も無くリョウは他のゴーレムに飛びかかって行く。

 

 「オゥラッ」


 雄叫びを上げると突っ込むと、ゴーレムの胸を一突きで貫いた。


 全く無茶をしやがるっ。まだ雷撃もウォーター・カッターも入っていないヤツに仕掛けている。


 「モンッ、盾でフォローしてやってくれッ」

  そう言いながら駆け出した。


 「リョウッ、先走り過ぎだ。雷撃が打てんッ。下がれ」


 走る背中に叫ぶが聞いている風はない。

 チッ、と舌打ちすると熊族のモンと突っ込んだ。ゴーレムはゆっくりと体をこちらに向けると、ブンッと丸太ん棒ほどもあるその腕を振るう。


 先に走り寄ったリョウは、その腕を掻い潜るとヤツの背に回り込み、そのまま下段に剣を振るうとアキレス腱の辺りを切り裂く。


 「ボーーーーッ」


 グラリと巨体がグラつく。

 と、切られた左足を折り畳み真後ろに蹴りを突き出して来た。

 リョウはスラリと身をかわして、喉元に剣を差し込んだ。


 ボッ、と短い声を上げるとゴロンッとボーリングの玉くらいある頭が転がり落ちる。

 首のないゴーレムは落ちた頭を拾うと、手足を出に振り回してながら追いかけて来た。


 シュールだ。


 手にした首を元の位置に戻そうとするが、リョウが回り込みながら剣を振るいそうさせない。

 ブンッと振われた左フック。

 立て続けに空気を震わせて、一発でも当たれば吹き飛ばされそうな拳や蹴りをかわして行く。

 リョウはスッと後ろに飛び退き隙を誘った。


 「そうりゃッ」

 

 シュッ、と風切り音を立てて飛び込むと、体重を剣先に乗せてゴーレムの胸に突き立てた。

 パリンッ、と乾いた音が響く。

 バラバラと崩れ落ちるゴーレム。土塊に変わっていった。


 「ハイッ、三体目ぇぇッ!」


 次は……、ケケケッと笑いながら据えた目で、あたりを見回す。


 「(リア充ども)爆ぜろッ」

 気合いと共にもう一体を葬り去った。

 凄い。今日の彼は何かが違う。

 彼の背中からドス黒いオーラが見えているのは気にしないでおこう。


 ゴーレムの厄介なところは、斬っても絶っても意味がない。魔石を砕くまでは再生を繰り返して襲って来る。

 ところがリョウは的確に魔石を突いて砕いて行くものだから、再生する間も無くゴーレムは倒されて行く。


 「ウォーター・ボールッ」


 「ダブステップッ」


 コウとナナミの声が響き、一体、一体と転げ回るゴーレムが増えてきた。


 「シンさんよ。おれたちも仕事しなくちゃな」

 シンが体を前屈みに身構えて頷く。動きが鈍くなって来たゴーレムに当たりをつけ、飛び込んで胸を貫いた。

 ほぅっ?! 狼族の目にも止まらぬ猪突だ。今のところ俺の出る幕がない。


 「今日の敵は大した事無さそうだな」

 前衛をリョウとシンに任せ、少し下がると側にいたノサダに話しかけた。


 ん? 何だか難しい顔をしてるんだが?!


 ノサダはサラメと顔を見合わせると、

 「そろそろ爆薬の準備を……」と背にしたバックパックをゴソゴソ漁り始めた。


 爆薬……?


 「ゴーレムの次はロックゴーレムが来る。コヤツはその名の通り全身岩じゃ。剣は通らんからの」

 そう言うと油紙に包まれた筒状の爆薬を、包みを解いては腰のベルトにさして行く。


 「オキナッ、次はロックゴーレムが来るそうだ。コッチ(物理攻撃班)は少し下げて大丈夫かい?」

 爆発に巻き込まれて怪我などさせたくない。


 「賢明だ。幸いゴーレムの速度は遅い。今のうちに下げておく方が良いだろう」

 オキナが頷くと指笛を鳴らす。

 リョウと獣人のシン、盾役のモンがこちらを向くと戻って来いと手を回す。


 せっかくいいところだったのに、と不満顔のリョウ。

 狼族のシンは部隊上りなだけに引き時をわきまえていて駆け戻って来る。


 「ぬおーーーっ!」

 最後の一体にトドメを刺したカイが、ホンと一緒に戻ってくる。


 「盾役は壁を作ってっ、あとは私が火力で吹き飛ばすっ」

 コウがパンッと両手を叩いて指示を出す。

 そのまま両手を突き出し、全身に魔力を循環させている。パチパチッと空気が振動してコウの体がボゥと光り始めた。


 「こちらも準備はOKじゃッ」


 ノサダとサラメが火縄に火を移し、グルグル回し始めた。手には導火線の垂れ下がった爆薬の筒を手にしている。


 ゆっくりと近づいてくるゴーレムに光の矢ライトニングを集中させて、コウの魔力が練り上がるのを待つ。

 ゴゴゴゴッ、と地鳴りが始まった。


 「おいでなすったようじゃ」

 サラメがゴクリッと喉を鳴らす。あたりが急に静かになった。サラサラと流れる渓流の音に混じって、ポチャンッと水面が跳ねる音がした。


 オキナが不意に、両脇の崖を見る。

 「コウッ、シールドを張れッ、敵は両岸だっ」

 声を上げると両脇の崖が盛り上がって、大きな塊となり転げ落ちて来た。

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