ドラゴンズ・アイ


◇◆コウの休日◇◆

ーコウ目線ですー


 「博物館へ行かないか?」


 オキナが声をかけて来た。ここ二週間碌な休みも取れなくて、ちょっと疲れていた。

 本当は休みの時だって、やらなくちゃいけない事は山ほどある。オキナとの結婚式を控えて、時期の選定、式場との打ち合わせ、招待客の選別などなど。

 

 もっとも困るのはこちらの慣習だ。招待客にも序列があり、派閥があり、見栄がある。

 ことオキナに至っては防衛局、ナンバー二の補佐官だから防衛局だけでは事が収まらない。


 オキナの親と更にその親族、その派閥まで含めると五千名は下らない。

 更に私も評議員をしているから、その派閥の先生方もいるし最近『魔導師学園』の理事まで引き受けたからそちらにも気を遣わなくてはならない。


 こ、これを選別しろと……?!


 山の様に積まれたリストを見て、私がたじろいでいると 「私の知り合いにこの手のコンサルタントがいる。そちらに任せよう」とオキナが笑って助け舟を出してくれた。


 「コウはもう少し、人に任せる方が良い。今から頑張り過ぎても疲れるだけだ」そう笑って目尻に二本皺を作る。

 「ん……。そだね」


 こんな時、さりげなく私をフォローしてくれる。

 「楽しんで生きようよ」

 オキナはそう言って笑った。


 ではっ、早速そのコンサルタントへの依頼内容と、資料の整理と予算のやり繰りを……と、また机に向かおうとする私を「そこも執事に任せて」って笑う。

 「そんなに頑張る花嫁さんはいないよ」とも。


 前世でこっそり愛読していた『ゼ◯シー』が頭に入り過ぎているせいだろうか?


 むうー。と眉間にシワを寄せて考えていると、冒頭の「博物館へ行かないか?」って声をかけてくれたワケ。


 クスクス笑いながら、「あそこには王国の秘宝があるんだ。今回特別に許可を貰ってね、『秘密』のアイテムをこっそり見せて貰えるんだ」って言うから、私は一も二もなく「行くっ!」と頷いていた。


◇◇◇


 べ、べつに『秘宝』に惹かれたワケじゃないんだからねっ。オキナと久しぶりのデートだからって、う、浮かれてなんか無いしっ!


 ーーーと言いつつも、昨日から着ていく服を引っ張り出してはため息をついてる。


 どうしてこう私はっ。仕事着しか持ってないんだ?

 あとは戦闘服とか……。

 王宮のパーティーで使うドレスも、支給されたヤツだし、残りは前回の婚前旅行へ行った時のヤツだし。


 むうー。

 忙しいからって女子が、そこに手を抜いちゃダメなのね。そうなのよねー。はぁー。


 ってしてたら、ドアがノックされてメイドのサリーさんが入って来た。

 滑車のついたワゴンラックを引っ張って来てる。


 「オキナ様がこれを……と」

 見ると、藍色のロングワンピースとワイドパンツとか、豹柄のサンダルとか、色違いのスラックスやらカジュアルなサマーコートまでぶら下がっている。


 「失礼します」とにこやかに入って来たのは見慣れない女性。「コーディネーターのシラウスです」と自己紹介して品良くカテーシーをする。


 「はぁ。どうも……」

 なんとなく頷いていると、「オキナ様のご依頼で伺いました」って笑う。


 「素敵な旦那様ですね。全部プレゼントですのよ」っと言いながらテキパキと服を合わせ始める。

 「こちらの服に慣れてない筈だから頼むよって、おしっしゃって。憧れてしまいますわ」

 キャスター付きの姿見も持ち込んで、合わせながら私の好みを聞いてくる。

 ものの二十分もしないうちに、変身してました。はい。

 仕上げに「ちょっとおぐしを」と髪型まで整えてもらって、香水も「コウ様のイメージに合わせて見ました」っと軽くはたいてくれる。


 ふんわりと爽やかなレモンとベルガモットがメインのシトラスウッディフレグランスらしい。

 「柑橘系にはリラックス効果もありますのよ」って教えてくれた。

 テンションが上がって、ニヤニヤが止まらないよ。

 「では……お楽しみくださいね」って意味深な笑顔を残して去って行った。


◇◇◇


 そうしてやって来ました博物館。

 私は深い藍色のワンピースにワイドパンツを合わせて、光属性のイヤリングを合わせたコーデ。

 オキナは、ライトブルーのジャケットにクリーム色のスラックス。白いスニーカーっぽい網履を履いている。

 「おやっ? 素敵なお嬢様と思ったら、愛しのコウ様ではないか?」なんて言うから、もう。

 ヘニャヘニャしているのはご想像通りです。はい。


 『ゴシマカス救国財団 王国認定施設』って黒く掘り抜かれた看板が掲げてある。「ん? 王宮施設じゃないの?」って聞くと、「国宝級は王宮から分散して管理されているんだ」と教えてくれた。


 なるほど……。反乱が起こって掠奪が始まっても、王族のお宝を別々のルートで避難させるためか?!

 うんうんっと納得していたら、「秘密はこれからだからねっ」っとオキナが笑う。


 厳重な警備チェックを終えて、中に入ると日銀の地下金庫かっ? っとツッコミたくなる様な扉から特別室に通された。

 中は思ったより広くて、ちょっとした体育館ほどもある。風魔法がかかっているのだろうか?

 少しひんやりとした空気が流れていた。


 「ここには、コウとコウヤ殿が召喚された際の十連ガチャで召喚された魔道具が保管してある」

 オキナが一つ一つ説明してくれる。

 ガラスケースに薄く光るそれは、照明の光に反して薄く緑色の光を放っていた。その一番奥にある一際明るく光を放つケースの前まで歩いて行く。


 「ユドクラシスの杖だ。通称『ドラゴンズ・アイ』」

 ケースの前に立ち止まると、魔法杖の一番先端に埋め込まれている宝石を指し示す。

 「今まで、どんな王宮魔導師が魔力を送り込んでも、なんの変哲もないただの杖だった」

 ところが……とその宝石に手を翳すと、赤く輝き始める。「コウ、手を翳して見て」と促されて手を翳して見た。先ほどの赤い輝きから緑の光に変化する。


 これは……? 


 オキナを見ると「ゴシマカス魔道具開発によると、古代遺跡から発掘されたレプリカに似てるそうだ。もちろん、こっちが本物なんだが」と教えてくれる。


 「古文書によると、『この石が緑に輝く時、蒼き狼とドラゴンの怒りがこの世を焼き尽くし清浄な世界に戻す』とある」と続ける。


 「その前兆がこれだよ」トントンッとケースを突く。


 「最近、この光が強くなっている。もしかすると……魔王が復活した波紋がここまで及んでいるかも知れない」

 と言ってじっと魔法杖を見ている。


 まさか……。ゴクリッと唾を飲んだ時、『ドラゴンズ・アイ』が輝いた。

 目の前が真っ白になるほどの光が辺りを呑み込んで、私とオキナは意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る