って誰?
コウが急に振り向くとブワンッとシールドを張った。後詰の部隊ごと大きくシールドが展開する。
「ギョェェッ!」闇を切り裂く怪物の咆哮と、真っ白い閃光が俺たちを包んだ。
暗闇に目が慣れていたせいか、目の前が真っ白なまま視力が戻らない。「どうした? 何が起こった?」思う間も無く、二撃目が襲ってくる。
「コウヤッ、ドラゴンだっ。ドラゴンのブレスだッ」
コウの声が聞こえて、シールドを更に展開する音が聞こえた。ブォッ、と大気が揺れるのがわかる。
(まずいッ、もう一発来るっ)
反射的に頭を抱えた。「サンガ中尉ッ、金属兵で応戦できるかっ?」コウの声が響く。
「やってみますっ、これを凌いだら展開して敵の標的を分散させます。金属兵を
見るとガスマスクを装着して、視界のスイッチを切り替えている。目線が合うと、こちらにもガスマスクを投げて寄越した。
「サンキュなっ」空中でパッと受け取ると装着する。
ポーチを腰に回しスイッチを入れると、ブシュッと音を立てて魔力が補充され始めた。
程なくピーッとポーチが音を立てる。
ん? 足りないのか? んじゃ、魔石を補充してっとーーー。
金属の摘みを引き出すと、白くなった魔石の残りカスが足元にポトリッと落ちる。
引き出した金属製の輪っかに、新しい魔石を取り付けると金具を押し下げた。シュコーッっと音を立てて、再び供給が始まると今度は軽く目眩がする。
「魔力酔いかよ......。足りないのか、多いのかどっちなんだ?」俺がブツブツ言っている間にも、シールドを焼き尽くさんばかりのブレスが続いていた。
「クッ!」流石のコウも、シールドの強化が間に合わなくなって来たらしい。
「オイっ、サンガ中尉っ」俺は展開する指示を出し始めたサンガを呼び寄せた。
「金属兵は『縮地』が使えるだろ? 足元まで突入させて、ドラゴンの膝を狙いな。あの巨体だ。体を支えきれなくなる」以前その方法で、ブラック・ドラゴンを倒した事がある。
「膝ですか......?! 了解しました。やって見ましょう」メモを書き込み、一体の金属兵に翳す。瞬時に共有され全員に戦闘パターンが行き渡った様だ。
「もうそろそろドラゴンも息切れするよっ、展開準備してッ」っとコウから指示が来る。
「「了解ッ」」
応答が終わるのに合わせた様に、ブレスが止まった。
ガチャ、ガチャと音を立てて金属兵が四方に散って行く。
「こっちも退避だ。飛行場の門で落ち合おう」早口でコウが告げ走り出すのに合わせて、俺もカノン・ボリバルに駆け寄った。
「オイッ、行くぞっ」
苦悶の表情を浮かべて横たわるカノン・ボリバルに「暴れてくれるなよ。ドラゴンから狙われるからよッ」っと告げると、天秤棒のように肩に担ぎ上げ『亀ーーー縮地』と念ずる。
クッソ重いな。ぶつぶつ言いながら、圧縮された空間に身を躍らせた。
後方を振り返ると「ギョェェーーーッ」ドラゴンの咆哮が響いてボンッ、ボンッ、と爆裂音が追いかけて来た。
どうやら金属兵とドラゴンの戦闘が始まったらしい。
「てめぇの仕業か?」走り出すと、肩のに担ぎ上げたカノン・ボリバルに尋ねた。
「……ひはふ(知らん)」口輪のせいで発音がアレなんだがボソリと呟く。だろうな。自分の策ならこいつは得意げに言って来る筈だ。
十メートルほど走ると、入って来る時に通った金属の門までたどり着いた。物陰まで移動すると、ドサリッとカノン・ボリバルを下ろす。
「コウッ、コウッ、いるか? 着いたぞっ」あたりを見渡して、声を上げた。
「コウヤッ、ここだ。今、王宮に連絡して脱出用の魔法陣の展開を要請している」
「そっか……。それにしても、あのドラゴンはどっから湧いてきやがった?」ボソボソ呟きながら、カノン・ボリバルを近くの鉄柱に縛り付けた。
チリチリと嫌な感覚が襲ってくる。ブォォォォォッ、と空気が揺れた。ドラゴンがブレスを吐きやがったらしい。
「コウッ、カノンを見れるか? 今から戻って、サンガ達の撤退を助ける」
「ああ。大丈夫だ。麻酔ポーションで大人しく寝て貰う」麻酔ポーションを取り出しながら、コウが形の良い眉を顰めている。
多分、俺と同じ事を考えている筈だ。このドラゴンは、魔人の仕業じゃないか? 双方が食い合って、弱ったところを狙われたんじゃ無いのか?
と、すれば奪還に成功した『カグラ』は魔人の手に落ちてしまう。
「ここは、コウに任せたっ」言い棄てると、飛行場を振り返り、サンガ中尉が居そうなところへ飛び出した。
『亀ーーー。縮地っ』念ずると、足元に砂塵が渦巻いた。サンガ中尉のいるであろうあたりの風景が、カメラでズームをするように近づいて来る。
絨毯を細く手繰り寄せる様に、足元の空間が波打って押し寄せて来た。
「よっとお!」縮んだ空間に身を躍らせる。「ぶはぁッ」着いたあたりで気がついた。
金属兵が燃えてる。パンッ、パン、と竹が弾ける様な音がして、そこらがごっそりえぐれていた。グリースの焦げる匂いが立ち込めている。
「こりゃあ......。サンガ中尉ッ、いるかっ?! 生きてるかッ?」あたりに声を張り上げ見回す。
シュタタッンッ、と
駆け寄ると「こっちは退避した。あんたも下がれっ、時間は稼いでやる」っと声をかける。サンガはガスマスクを外し首を振った。
「金属兵がドラゴンの膝を削って、動きを鈍らせています。今ならコウヤ殿のディストラクションで仕留められる筈だ。我々が囮になって引きつけますから、側面からトドメをお願いしますッ」
「『反撃こそ最大の退避』ってか? 頼まれたッ」
了解したと走り出したその時、ザァァッっと空気が渦巻いた。上空から叩きつける様な風が吹いて土埃が舞う。
「なんだよッ、新手か?」
見上げる上空には月明かりをバックに黒々と影をまとう巨大な竜がいた。五、六匹で群れを為している。
旋回するその巨体は、羽の端から端まで三十メートルはあるだろうか? 空中を泳ぐ様に長いシッポをゆらめかせて、大きく輪を描くソイツは飛竜ーーーワイバーンだ。ランクで言えば間違いなくAクラス。
「オイ......、流石にまずいだろ。あれは」
サンガ中尉と顔を見合わせて「逃げるぞ」と頷き合う。 再び走り出そうとすると、今度は目の前に魔法陣が光の噴水を吹き上げながら現れた。
「な、何だよっ、今度は何が来やがった?」
魔法陣の光が収まると、黒いローブを纏った老人が静かに降り立ち慇懃に礼をする。
『お迎えに参りました。魔王様。私めは魔人国の主梁、ライチにございます』
嗄れたその声は、あたりを静かに包んだ。
「......って、誰?」
俺は脳みその処理能力を超えた展開に、フリーズした。
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