おまじない

◇◇ナナミ目線ーコウヤ様が、帰ってきた! ◇◇


 「ーーーてなわけなんだ」


 ここは王宮近くのレストラン。

 コウヤ様は、食後の紅茶を飲みながら、これまでの顛末をつまんで話してくれた。


 人質救出に成功したこと。

 その際に、リョウが負傷したこと。


 列車の件も、簡単に教えてくれた。

 誰が誘拐されたって事は秘密らしいけど。

 政府の高官らしい?!


 言えない事もあるらしく、ちょっとわかんないところを聞いても「まぁ、いいじゃねぇか?!」

 カカカッて、笑って誤魔化された。

 ちょっとむくれる。

 私、信用されてないのかな?


 『帰ったから、今日、昼飯食いに行くぞ!』

 って、いきなり学園に連絡して来たから慌てたんぞ!!

 心配で、あまり寝れてなかったんだから。

 もう寝不足で、目の下隈できてたし、お肌もガサガサになってたしーーー。

 私の苦労もわかって欲しいもんだ!


 心配で『何か情報が出てないか?』って、普段読まない新聞を毎日隅々すみずみまで読んだり、


 リョウが怪我して戻って来たって聞いて、コウヤ様も一緒じゃないか?! と病院まで走ったり。


 なぜか、その病院でステラと鉢合わせしたり。


 (お見舞いに来たらしく、リョウったら鼻の下がズーッと伸びていて見てらんなかったよ)


 「リョウ! 大丈夫なの?! 怪我の具合は?」

 って聞くと、

 「あ? うん。ちょっと頭をぶつけただけだ。大した事ないよ」と目を背けながら言う。


 「なんかあったの? コウヤ様は?!」

 まさか?! 嫌な想像をする。


 「それがまだ、わかってないんだ。俺は情け無い話だけど、獣人ライガにぶっ飛ばされてーーー」

 って申し訳なさそうにうつむいた。


 「正直、あのライガってバケモンだ。師匠でも無事かどうかーーー」

 救出部隊の人と金属兵が撃退してくれたらしいけど、逃げた後を追っていったらしい。


 「なんで? わざわざ逃げたのを追いかける必要ないじゃない?!」

 って聞いたら、

 「あと一人、連れ去られた人がいたんだ。その人を助けに行った」って言うんですもの。


 その上、「獣人は罠を仕掛けるのが得意だから、逃げたのも罠に誘い込むためかも知れない」

 って言うし。


 心配するなって言う方が無理だよ。


 ーーーで、散々心配をかけた人が目の前にいる。


 「ん?! どした?」


 「どしたじゃないよ! 散々、心配したんだよ」


 「そうか? 心配してくれたか?! ありがとうな」

 そう言ってニパッ! と笑った。


 もうーーーッ! ちょっとプンってふくれる。

 人の気も知らないでーーー。

 と言っても怒ったのはフリだけで、正直言うとホッとしてる。

 

 おかあちゃん(キタエね!)が昔、お父ちゃん(カイね!)の事を話してた事を思い出していた。


 「お父ちゃんたら、いつも部族の争いになったら一番にすっ飛んでいくのよ。

 血まみれで帰ってくる人たちをみたら、生きた心地がしなかったわ。そしたらね!! お父ちゃんったら、『腹減ったぁ』って帰って来るのよ」

 そう言ってコロコロ笑ってた。


 (そっかぁーーーお母ちゃんも、こんな気持ちだったんだぁーーー)

 うつむいてももに手を挟んでモジモジする。


 お父ちゃんを送り出す時、お母ちゃんはいつもお守りを作って渡してた。

 そして、飛び出そうとするお父ちゃんを呼び止めて「おまじない」ってほっぺにチュッ! てしてたんだ。


 『私たちが待ってるんだ』って、『無事に帰って来ないと承知しないから』って、苦しい時に『家族』の事を思い出してもらえるように精一杯の事をしてたんだ。


 「なんでお父ちゃんに、おまじないするの?」

 と、聞いた時

 「男の人って、家族のためなら頑張れるのよ。

 お父ちゃんがね。昔、言ってたのよーーー死にそうな目にあっても『家族が待っている。絶対、生きて帰るぞ!』って、思うんだって」って言ってた。


 私も、そうしてあげたいな。

 でも、コウヤ様がどう思ってるかわかんないしーーー。


 「なぁーーナナミ」


 「はえッ?!」

 急に声をかけられたから、変な声になる。


 「なんかホッとしたよ。

 おまえの顔を見て、帰って来れたな! って思ったんだ。

 安心したって言うか......。だから、みんな戦いがおわったら家族の元に帰るって理由がわかったよ」


 (ええ?! それって私の事、家族って思ってくれてるってこと?!)

 顔が真っ赤になった。

 頬が熱い!


 「なんでだろうな? まぁ! よくわかんねぇが、礼をいうよ。ありがとうな! ナナミ」

 そう言ってコウヤ様は優しい笑顔になった。


 「わ、私もコウヤ様が無事で嬉しいよ」

 わーーーッ!

 心臓が、バクバクしてる!!


 突然、王宮からブィーーン! ブィーーン!!

 と警報が鳴り響いた。


 「どうした?!」


 「何があった?!」


 周りの客も騒いでいる。


 「敵襲だッ! シェルターへ逃げろ!!」

 男性客が叫び、避難シェルターへ駆け出していく。


 コウヤ様は私の腕を掴んで、立ち上がった。

 「学園のシェルターへ逃げ込め! 一般用では、すぐにいっぱいになる。俺は王宮に行ってくる!!」

 そう言って駆け出した。


 私! 伝えなきゃ!!

 お母ちゃんみたいに、伝えなきゃ!


 「待って! 待ってったら!!」


 「?!ーーーどうした?」


 どこかぶつけて、怪我したのか? って振り返った。

 「コウヤ様! これ!! お守り」


 前から作ってて、渡せなかったリストバンドをつけてあげた。

 「それとーーー」


 抱きついて、コウヤ様の頬にチュッ! ってする。


 「な、何やってるんだ? ーーーこんな時に?!」

 ビックリしてる。


 「最後のはおまじない!!」


 ちょっとポカンッとしたコウヤ様は、へっ! と笑った。


 「あーーー。ありがとうな。

 学園まで送る。走れるな?!」と、手を繋いで走り出す。


 人混みを掻き分けて走った。

 コウヤ様に手を引かれ、後ろから走る。

 コウヤ様の背中が、広くて頼もしかった。

 どうしよう?! またドキドキして来た!

 ずっと、このまま一緒にいたいなーーー。


 学園に着くと、私を守衛さんに押し付けて避難させてくれって頼んでくれた。


 「じゃあ! 行って来るわ。早くシェルターに入っとけ!」って言われたけど、心配で動けない。

 

 「大丈夫だ! 心配するな!!」

 右手を突き出して、サムズアップした。


 「わかった! コウヤ様!! 無事に帰って来てね」

 眉が、八の字になって泣きそうになる。


 「大丈夫だ!」

 私のお守りを見せてニパッ! と笑った。


 私がちょっと微笑んだのを見ると、コウヤ様はクルリと身をひるがえして、王宮に駆け出して行った。

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