シュミレーター④

 ◇◇コウヤ視点◇◇


一回目演習の失敗を踏まえ、二回目は全員の意見を入れた作戦の演習に向かう。

 コウが突入組を振り返りフッと笑った。


 「本音を言う。オキナを助けて欲しい......私のこの世界でたった一人の家族なんだ。

 だだ内乱が拡大してしまえばーーー」

 一人一人の顔を見た。


 「ここに居る全員の家族が戦火にさらされる。火種を消す。訓練と思うな。愛する家族や友人を戦火から守る戦いだ」 


 「「「おう!! 」」」声を潜めた低い声で全員が応えた。


 「突撃!!」


 コウが号令をかけると、音を殺した一群がシュミレーターに近づいて行った。


 コウが手の平を下にして『伏せて待て』の合図を送る。自らも伏せの状態から索敵を行っていた。

 

 正面を指差して三本指を突き立て『正面に三名いる』のジェスチャーだ。同じ要領で配置ごとに人数の伝達を行う。


 俺とリョウは一番奥の持ち場まで移動した。ここから先は伝達方法は無い。索敵で中の様子を探りながらの突入になる。


 「光のライトニング連射!」

 シュッタッタッタン! 空気を切り裂く音の後にドンッ! と言う爆音がした。

 コウの光の矢が正面の扉を撃ち破った。

 濛々もうもうと上がる土煙で突入が始まった

のがわかる。

 

 「リョウ! 敵方が正面に移動し始めた。俺らも突入準備だ」声をかけると、ソロリと建物に近づいて行った。


 ◇◇コウ目線◇◇

 

 閃光が飛び交う。

 バンッ! パン! 着弾した材木が弾け音と濛々もうもうと土煙が巻き起った。


 敵方も机、椅子を盾に反撃が始まった。

 「シールド展開!」私はシールドを全面展開すると即座に突入を始めた。


 「私の後に続けッ!」後続に声をかけると走り出した。反撃してくる光のライトニングがシールドを揺らす。

 「ウインドカッターッ」

 腰から片手剣レイピアを引き抜くと、ピュンッと空間を切り裂く!


 ウインドカッターは空間に切れ目を入れて切り裂く風系の魔法だ。もちろん模擬戦用に威力を抑えてある。


 パァンッ! と音をたててバリケードを作っていた机と椅子がバラバラに弾け飛んだ。

 腰のポーチから煙幕弾を取り出すと安全ピンを引き抜き入り口に投げ込んだ。


 ボシュッ! こもった音とともに白い煙が充満した。見えなくても索敵でおよその位置はわかる。素早く建物に侵入し後続を招き入れた。


 「ここまで何秒?」後続に聞く。

 「およそ六十秒!」

 「いい感じね!」

 奥から近づいて来る敵影が索敵に反応した。

 「奥から三人!」声をかける。


 後続と私は光のライトニングを連射した。 バン! パン! パンッ! っと破裂音と共に敵影が赤く輝き減っていく。


 パァンッ! 側面の窓が破られた。

 サンガ中尉率いる側面部隊が侵入した様だ。


 「さあ! このまま押し切るよッ!」

 後続の四人を全て招き入れると地面に手の平を押し付ける。


 「ファントムアイス!」氷の魔法を発動する。

 空気に含まれる水分が凍てついた。結晶ががキラキラと輝き敵影に襲いかかる。


 「あたっ、冷たっ!」


 パン! パァン! と弾け飛ぶ音と悲鳴が上がった! 

 「魔力をあげるから、全員伏せてッ」

 怪我をさせたくない。


 バンッ! パンッ! バンバンバンッ!


 立ち込める冷気と飛び回る雪の結晶。人を避けて着弾させた。壁や床が凍ってゆく。


 「こっちも魔道士を回せっ、正面にシールドだ。押し返せッ!」敵将が声を上げる。


 ーーー指揮官あたまはそこか?!


 「コウ大佐、そろそろ『遮断』が来ます!」

 後続の兵士が時計を見ながら告げる。


 前回のシュミレーションで『遮断』されたのは開始から五分。今回も同じタイミングと読んで時間を計らせていた。


 「これで打ち止め!」 てのひらを広げると魔力を放出し空間を振動させる。

 

 「ダブステップッ」


 パリパリパリッ!

 パンッ、パン、バン、パンッ!


 雷撃魔法だ。凍った床を壁を雷光が伝って

蛇の様にのたうちまわった。


 「ブバババーーッ!」

 五、六人が感電して手にした光のライトニング・ボウを取り落とした。全員訓練用シールドが

白く光っている。


 「コウ大佐!? 手加減してるんですよね?!」


 ーーーん?! ちょっと強かった?


 ◇◇コウヤ目線◇◇


 正面から怒号と悲鳴が聞こえた。索敵に引っかかる敵影も随分前がかりになってきた。 

 頃合いだ。

 「リョウッ、行くぞッ!」

 

 「とっくに準備出来てますって!」

 ニヤリと笑う。


 俺は剣で中空を十時に切ると闘気を全身に巡らせて行った。魔力を剣に行き渡らせる。

 ヒリヒリと感覚が研ぎ澄まされ、魔力を剣に流し込んで行く。


 「ヘっ?! 師匠。体が、体が光ってますけど!?」


 リョウの言う通り体から光りが溢れ出ている。同時に力がみなぎって来るのがわかった。


 「フンッーーーンッ!」

 建物の最後尾にある窓を壁ごと斬りつけた。

 バァンッ! と破裂した轟音が響き二メートル範囲の外壁が吹き飛ぶ。

 もはや斬撃と言うよりは爆破に近い。


 「リョウッ、突入だァァーー」

 ポッカリと口を開けた外壁から中に踊り込むと呆気にとられた敵役が、ポカンとこちらを見ている。

 その奥に立ち上がる大きな影があった。

 金属兵だ。

 ブシュッとガスマスクから嫌な音が聞こえた。『遮断』が始まったらしい。低く腰を沈めるとリョウに叫んだ。


 「金属兵は俺がやるッ、リョウは残りを片付けろ!」


 「えッ!? あっ! ハイーーー」


 「ボヤボヤすんなッ、おまえまでほうけてどうするッ! 行けッ!」

 俺はどやしつけると金属兵に突っ込んでいった。

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