シュミレーター②

 オキナ救出のため俺とコウ、リョウの三人は仮想敵の特殊部隊と模擬戦の真っ只中だ。

 模擬戦では獣人カノンを想定してランダムに魔法の『遮断』が発生する。

 そして最強の獣人ライガの想定は金属兵。


 守備よく正面から侵入した俺は金属兵と遭遇そうぐうし、最悪のタイミングで魔力が『遮断』された。


 「全くーーー。泣けるぜーーー」


 ため息をつく間も無く俺は跳躍した。


 金属兵マジロスコ八型の足元だ。

 ゴロリと転がり素早く中腰になると、膝を目掛け横薙よこなぎに斬りつける。


 ガキンッ、と俺の剣が膝を斬り裂く前に敵の剣に受け止められた。

 もう片方の剣が、既に俺を狙って振り下ろされて来た。左側に転がりながら剣の軌道から逃れる。


 立ち上がりを狙われたらまずい!


 『亀!シールド!』 

 シールド!ーーー!?


 『遮断』された効果でシールドは展開されない。

 ガシンッ! と剣の衝撃がガードで上げた左手の亀から伝わる。


 「のぉぉぉっ!! 」

 金属兵のパワーで吹き飛ばされた。

 ゴロゴロ転がって壁に頭と背中をぶつけ、目の前に火花が飛び、一瞬白くなる。


 「ちっくしょおっ、上等じゃねぇか!」

 口の中が切れたらしい。鉄の味がする。

 素早く立ち上がると光陰流の低い体勢をと

る。間髪を入れず金属兵から三の太刀が来た。

 ガキン! 左手の亀で下支えした剣で受け止めるが体ごと吹き飛ばされる。


 (ちくしょう! 魔法さえ使えば!)

 ギリギリと歯いがみする。

 トドメと言わんばかりの上段から渾身の唐竹割りが来た。これは受け切れない、と見るとゴロゴロと転がって逃げる。


 ピィィィーーーッ、大音響のブザーが鳴る。

 「そこまでですっ、コウヤ様。そこまでっ、ストップです!」


 レモン情報官の声がスピーカーから鳴り響き、金属兵もピタリッと動きを止めた。


 「そこまでです。コウヤ様。お鎮まりを! コウヤ様!」

 

 「コウヤっ、止めろッ」


 ブザーが鳴ったのは聞こえた。

 だが俺は動きを止められなった。ゴロゴロ転がって壁に当たるた途端、中腰に体勢を起こすと金属兵に飛び掛かっていた。


 「フンッーーー!」


 訓練用の剣で、金属兵のブーメラン型の目を貫きそのまま引き倒した。


 「ふざけんなッ!」俺は吠える。


 ガシャーーーン!

 剣を引き抜き、金属兵ののどを貫く。 


 ブゥーーーンッ、と低い音を立てて金属兵の目の光が落ちた。

 ブシュッ、バチッ、と火花と松脂の匂いのする煙を上げて金属兵は機能を停止した。


 「あちゃあーーーーつ」

 レモン情報官が慌てて近寄ってきた。


 「金属兵を......金属兵を訓練用の剣で倒しやがったーーー」

 特殊部隊が近寄ってきた。


 コウとリョウも近づいてきた。

 側にへたり込んでいた特殊部隊の兵士が、倒れている金属兵と俺を交互に見ている。


 「勇者がこれほどのもんとはなーーーまあバケモンだな。コリャ!」ボソリとつぶやいた


 ふーっ、ふーっ、ふぅーーー。

 息を整えると冷静になってきた。

 おや? なんだか視線が痛いんだが?


 「やり過ぎだッ、コウヤ! ブザーが聞こえなかったのか?」

 コウの引き攣った笑顔が怖い!


 ハッとして辺りを見回した。

 や、やっちまったかーーー。


 ◇◇◇


 負傷者は出なかったものの金属兵の損傷が酷く、演習シュミレーションは一旦打ち切りになった。


 「ミーティングルームに三十分後、集合願います。それまで着替えとシャワーを浴びても結構ですーーー」

 カミン諜報官のアナウンスだ。

 コウとレモン情報官は既に演習の解析の為、別室に移動していた。


 ロッカールームに入り妙な空気に気付く。

 チラ見しては目線を逸らしてしまう。


 チラ見してくる皆様。視線が痛いです。

 ご、ごめんなさいーーー。


 ミーティングルームで魔眼で録画した演習シュミレーションの解析が始まった。

 コウが全員を見渡す。

 「まずは参加してもらった全員に感謝します。お疲れ様でした」


 「まず全体の印象から申し上げます」

 レモン・ウォッカ情報官の仕切りで始まる。

 「陽動作戦までは上手くいっていたと思います。問題は『遮断』がかかった後」

 魔眼の映像が上映され、視点を切り替えて検証が続く。


 「外に張り付けるはずの陽動が途切れてしまいました。これで外に誘き出された部隊は二手に分かれて迎撃の体制が取れてしまい、突入と陽動に分断されてしまいました」


 「これは援護の無いまま、コウヤ様お一人で突入せざろうえなかった。後半に影響をもたらしたと思います。他に印象のある方?」


 特殊部隊から手が上がった。

 「陸軍特殊部隊サンガです。発言よろしいでしょうか?」

 やや緊張した面持ちで話し始めた。


 「救国の英雄コウヤ殿には失礼で、不遜な発言になりますが他意のない事を含み置きください」

 俺に目礼してからおずおずと口を開いた。


 「『遮断』後のコウヤ殿動きは充分獣人ライガに対抗し得る。だがこのままでは危険だ。ーーーコウヤ殿には重大な弱点がある」


 以前ヒューガも同じ事を言っていた。


 「その弱点とはーーー」

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