シュミレーター①

 『突入訓練の準備が出来た』との連絡を受けて俺とリョウは『時の間』に入った。

 そこで見た物は魔法を遮断する魔道具と特殊部隊。

 そして仮想獣人ライガ『最新型金属兵 マジロスコ八型』だった。


 はぁぁぁぁぁぁぁ?!


 俺とリョウはアングリと口を開けて、固まっていた。


◇◇

 シュミレーターは、オキナを拘留している敵の施設を想定した訓練用の小屋だ。

 石造りの倉庫といった佇まいで正面に扉と側面に窓が数箇所。『カナン』によくある民家を模して造られている。


 「光の矢ライトニングっ、連射!」

 コウが先制攻撃を仕掛ける。

 敵役の特殊部隊を小屋から引き摺り出し、釘付けにするためだ。


 俺とリョウは、事前に打ち合わせた物陰に移動する。

 

 「リョウッ、コウが釘付けにしているヤツらを裏から回り込んで側面攻撃よこからたたけ!慌て

るハズだ。俺は隙を突いて突入する! 」

 

 「了解!」

 うなずくとリョウは腰を屈めて建物の左手

に回り込んだ。


 俺は建物入り口の右手に配置する。

 過去の救出作戦から、いくつかのパターンで作られた一つに過ぎないが厄介な作りだ。


 扉の開口部は正面にしか無く、あとは側面の窓だけ。裏口からの侵入が出来ない様に作られていた。

 その分、突入されにくく敵方は守りやすい。


 「うおっりゃあぁぁぁぁぁぁっ」

 リョウの雄叫びが聞こえる。左手から回り込んで敵方の側面を突いた。


 正面からコウの光の矢ライトニングを浴びて

いたところにリョウが攻撃をしかけた。

 敵方は正面と側面に守りを二分され、陣形が歪んだのが見える。


 いまだっ


 『亀!ーーー『縮地』!』

 左手の海亀に念ずると亀の甲羅が輝き出す。地面が絨毯じゅうたんを手繰り寄せるように、空間が圧縮された。俺は体を前傾し右脇を絞り込む。


 いくぞ!


 ドンーーーッ! 、正面の扉に左手の海亀を盾にして翳し体当たりした。

 バンッ、と火薬が爆ぜる様な爆音と共に正面の扉が吹き飛んだ。


 「よっしゃ! 第一段階突破」

 小声で呟くと姿勢を低く落として物陰に転がり込む。

 突入した部屋は細長くテーブル、椅子、簡単な調度品まで揃っている。

 その一番奥に次の扉があった。事前に見取り図でもあれば、潜入時間と外の敵が乱入してくる時間も計算できるのだがーーー。


 (無いもんしぁねぇか。とっとと焦らず迅速に! だ!)


 ミスリルの剣を抜くと十時に空を斬る。

 (剣をわが右手と思えっと......)

 右手の先の更に先まで神経を通わすイメージで、魔力を剣先に流し込んでゆく。


 ブゥーーン、剣はと細かく振動を始め乳白色に輝き出す。


 「シッ!」

 細かい気合いと共に、第二の扉に向かって空を切り裂く。

 バァンッ と派手な音を立てて剣先から放たれた斬撃は空間ごと扉を斬り裂き、ポッカリと穴を開けた


 素早くその中に身を滑り込ませる。

 扉の向のこうには長い廊下が続いていた。素早くあたりを見渡し索敵を展開する。

 一、ニ、三ーーー五人か?

 

 廊下を挟んで両脇に部屋が三つ。いずれも人の反応がある。どれがオキナ役かは、わからない。

 バァン、と一番奥の扉が空いた。

 

 シュタッ、シュタッタッーーーッ!

 光の矢ライトニングが連射されて来る。

 「のぉぉぉっ!」

 入ってきた扉の陰に飛び込み難を逃れた。


 タタタターーーッ!

 連射は止むこと無くこちらの扉に打ち込まれ、俺の周りの床材とテーブルが被弾し弾け飛んだ。


 「チィッ!」

 左手の海亀をかざす。

 「シールド展開!」

 バンバンッ、と弾け飛ぶ床材と家具の破片を弾き返すと、そのまま廊下へ身を翻した。


 「のぉぉぉっ!」

 変な雄叫びを上げながら突っ込む。狙いは一番手前右前方の部屋だ。

 「シッ!」

 ガチャンッと、ドアノブを切り落とし転がり込む。ここには誰も居ない事を、索敵で掴んでいた。


 中にズカズカ入り込む。索敵で隣の部屋の敵の陰を探る。


 「ここら辺か?」 十の字に空を斬る。

 ビィーーーンッ!

 魔力を流し込んだミスリルの剣が、細かく振動を始めた。


 「フンッ!」

 壁に向かって袈裟斬りに斬りつけた。

 もう一回っ、今度は左袈裟斬りだ。壁ごと切り倒す。


 「そぉらッ」 

 バァンッ! っと思い切り壁を蹴破った。

 そのまま隣の部屋に乱入すると、中にはあっけに取られた敵役が二人。


 どうやらオキナ役ではない。オキナ役は黄色い腕章を着けている。

 剣を一振りすると、訓練シールドが赤く光って負傷を表示した。そのまま退場してゆく。


 「オキナの位置がわからないってのは、厄介だな?! 反撃を警戒しながらじゃ、見落としが出ちまう」


 同じ要領で壁をぶち壊しながら、隣りの部屋に移動する。

 ブチ抜いたその先に黒い塊りがあった。


 ブィーーーンッ、ガチャンッ! 歯車がキュルキュル回る音を立てて、立ち上がったソイツは二メートルを超すアイツだ。

 ブォンッと両目が白く点灯する。


 「全くーーー泣ける登場だなっ!」

 俺は脱出経路を素早く探りながら、索敵を展開しようとした。


 ブシュ、とガスマスクの後頭部で音がして俺の魔法が『遮断』された。反転機が作動したらしい。


 「全くーーー。泣けるぜーーー」


 ため息をつく間も無く俺は跳躍した。

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