会議は目で脅す

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇コウ目線です。


〜これまでのあらすじ〜


 場面はムラク防衛大臣が獣人の反乱で、召集した議会に巻き戻ります。

ムラク防衛大臣に連れられて、コウもこの会議に参加する事になりました。集まった評議会のメンバーに、ムラク防衛大臣が今の状況を説明しています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「そして二つ目の課題。獣人と『異能』に精通していたオキナを始め、彼のスタッフが誘拐され未だ救出の目度の立たない事です」

 つまりーーー

 「我々は魔力を供給する『兵站』を絶たれ、敵を解析するスタッフ不在の中、手探りで戦わざるを得ない」


 たかが文官の誘拐と侮っていた。ムラクの口から告げられた事実は一同の口を閉ざすには充分の衝撃だった。


 「奴らの目的はただ一つ。『獣人の国』の復活と独立です。たった今隣国『ヒューゼン共和国』が獣人の国『カナン人民国』の独立を承認すると声明を出した」

 ムラク大臣は一同を見渡して告げた。


 「バカなっ、こちらのお国事情だぞ!? 我が国の一地域の独立を、承認するなぞもってての外! 断固抗議すべきだ!!」

 評議員の一人が激昂している。


 「ふぉっふおっ、獣人如きが独立してやっていける筈が無い」

 ブロウサ伯爵が笑い声を上げる。


 「いずれにしろ、我々は対応を迫られている。

幸いにして、声明のおかげで敵の拠点はハッキリした。ゴシマカス南部『カナン』だ」

 全員の顔色が変わる。


 ゴシマカス王国の全土地図を広げる。

 ゴシマカスの王都ド・シマカスから、百五十キロ。南西にある山岳地帯『カナン』。

 その奥に今回独立を承認する声明を出した

 『ヒューゼン共和国』がある。


 『カナン』が『ヒューゼン共和国』と結び独立した場合、要害となっていた『カナン』が一気にゴシマカス王国侵攻の拠点となってしまう。


 「『カナン』に、我々の参謀オキナが囚われていると思われます。彼こそは我々の要。

 事態を左右する人物と言って過言では無い。救出部隊の派遣を要請します」

 ーー出来るのかね?

 全員の重苦しい気持ちを代弁するように、ブロウサ伯爵が尋ねた。


 『カナン』は険しい山岳地帯。

 裾野には広大な森林が広がり、ゲリラ戦に持ち込まれると『救出部隊』も全滅の憂き目に遭う。


 「すでに、拘留場所の特定の為に諜報員を放っています。場所が特定され次第、魔法陣を使って『救出部隊』を送り込みます。幸い我々には最強の魔道士コウがいる。そして勇者コウヤも。

 陛下の御裁可を頂く前に、評議員の皆様のご了解を頂きたい」


 ーーいきなり最強のカードを切る?

 評議員達がざわめく。


 ムラク大臣が、私を此処に呼んだ意味がわかった。

 無言の圧力だ。何もしない癖に反対を叫ぶ評議員も多い。派閥で点数稼ぎをしたい馬鹿者と、ムラク大臣の成果にしたくない勢力もいる。


 「意義ありっ」

 案の定、ニヤついた貴族議員やじうまが声を上げた。

 「もしもこの二人が失敗した場合、我々は打つ手が無くなってくる。その際の責任は誰が負うのでしょうな? ムラク大臣にはーーー」


 やかましいっ、何もしない奴が口を出すな! ついカッとなって口には出さないものの睨みつけた。


 ガチャンッ、パリパリッっと落下音と弾ける音が響いてあたりの照明が弾け飛んだ。

 辺りが振動する。会議室のテーブルがミシミシ音を立てた。


 「お言葉ですがーー何か対案でも......?」

 私は低い声で、その評議員やじうまに目をやる。たちまち貴族評議員やじうまは顔を青くして黙り込んだ。


 ムラク大臣は苦笑いしながら、まあまあ! と手で制した。評議員付きのメイド達が走り回って、照明の手直しをしている。


 やっちゃったなーー。でも、この作戦だけは早急に通したいんだ。私は焦っていた。


 「お手元の資料にあります通り、今回の作戦は『人質救出』に止まらない」

 ムラク防衛大臣は淡々と言葉を繋ぐ。


 「内乱の火種を摘む。早急に手を打たねば、この国始まって以来の災禍となりましょう。

 皆様にお願い申し上げたいのは、各国への根回しも含めた諸々の緊急対策費用きんきゅうたいさくひようを承認頂く事です。

 敵対国と連む事が無きよう包囲網を敷きます。よろしいですかな?」

 ムラク大臣が一同を見渡した。


 私も一同を見渡した。

 『反対したら殺すっ!』殺気に満ちた目線に、誰一人に顔をあげる者はいなかった。


次回 報告

私はヘナヘナと腰を下ろした。

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