第三章 やっと来た幸せ

◇◇コウ目線◇◇ 


 ふわぁ!

 魔法陣の光の滝が収まり、乾いた風があたりを包んだ。


  VIP専用のゲートから降り立つ。

 「コウ、着いたな!」


 「うん、オキナ! 着いたね」


 私はにへらぁっと笑顔で答える。ここは観光都市ヤバイのホテルロビー。前世でいえばハワイ? それともグアム?

 ホテルのロビーからは、すぐそこにエメラルドグリーンの海が広がる。


 評議会の激務を乗り切り、婚約パーティーを乗り越え、あらゆるお誘いを蹴散らしてやっとたどり着いた。

 すべてはこの日の為だ。これでやっと二人だけの時間が過ごせるッーーー。

 うふふって顔がニヤけてしまう。


 「コウ? 大丈夫かい? 疲れているなら少し休もうか?」長い睫毛まつげを伏せて、心配顔で尋ねてくるのはオキナ。


 ラフに着こなした麻のジャケットに、白いTシャツ。日差しに映えて眩しい。

 クリーム色をしたスラックスが、長い脚をさらに長く見せている。


 身長が高いから、私は上眼づかいでチラッと見てしまう。

 いつもの軍服も良いけど‥‥‥カッコイイ!

 私の未来の旦那様だ。


 うふふって、また顔がニヤけてしまう。

 「別に疲れてなどいない。ただちょっとオキナが眩しかっただけ」


 うわぁっ、耳まで真っ赤になったぁ。かわいい!


 「コウーー公衆の面前では少し控えて。私的な旅行と言えど、我等は官僚と評議員。誰の目に触れるやも......」

 がぁばっ! とオキナの腕に抱きつく。


 「な、な、何をーー」


 オキナったら硬いんだから!

 「良いのよぅ。誰がなんて言ったって、オキナは私の旦那様だ。最高の!」


 「コウーーッ、もぅっ、......ん、んん。ま、たまには良いのか?」

 オキナ?! ブツブツいう癖に嬉しそうだよ?


 荷物をフロントに預けて、少し散策する。海岸線に沿って白い石畳の道が輝いて、ちょっと眩しい。


 海風が私の髪をなぶる。

 気温は三十二度。湿度もあるが、海からの風が心地よい。


 日傘を差しながら水平線を眺める。海水浴の親子連れ。あそこにいるのは恋人同士なのかな?

 さっきから一つのヤシの実のような器に、ストローを二本差し込んで仲良く飲んでいる。

 お互いに見つめ合って微笑んでーーー。あれ後でオキナとやろッと。

 だって、幸せって感じだ!!


 「あの店は、ゴシマカスでも指折りのーーすいーつ? あ、甘い物の店だ。それからーーーん? いかがした? コウ」


 「ん? なんでも無いよーーー。あそこの二人って幸せそうでしょ? あんな感じで、過ごせたらなぁって思っただけ」


 おやまぁ、って顔でオキナは私を見ていたけど目尻に二本シワを作る。

 「ふふ。意外とコウも少女のような......痛っ!」

 軽く肘鉄を喰らわせると、オキナは大袈裟によろける。


 「褒めておるのだよ! 褒めて。可憐なところがあると言いたいのだ」

 目が笑っている。


 ふふッ、「この正直者めぇ!」

 私はオキナににじり寄ると、鬼ごっこが始まった。


◇◇


 ハァ、ハァッ、ハァ、ふぅーーー。

 オキナの広い背中が、上下している。

 ぽたぽたと落ちる汗が陽を反射して、金色に光ってる。


 「コ、コウーー。ングッ! さ、さすがだね......」


 結局、鬼ごっこで二キロ走ってしまった!


 私はサンダルを履くと、マジックポーチからタオルを出して渡す。


 「はい! タオル」


 「あ、ありがとう」


 「あーっ! もっと鍛えておくんだった」


 「なんで? 鍛えている方だと思うよ?」


 「カッコ悪いだろ?!」


 なに? 拗ねちゃったの?

 「もしもの時に、コウを守れなくてはカッコ悪いではないか?」


 バ、バカね。でも、守られてるって良いかも!?


 私はオキナからタオルを受け取ると、首にかけてあげる。そのままタオルを引き寄せて......


 「ーー!? ーーっ」

 キスしてあげた。


 タオルから手離し、オキナを抱きしめる。唇を離してこっそり囁く。


 「守って。ずっとーーーこれからも」


 「あぁーーー。約束する」


 「甘いものを食べに行かぬか? 喉も乾いたであろう?」

 オキナは私の手を取り歩き出した。


 「うんっ、そのあとショッピングね!」

 

 オキナは呆れて両手を広げる。そのまま、右手を胸に当て優雅に腰を折る。

 「姫の仰せのままに」

 見上げたオキナの白い歯が眩しい。へへへ。


 ふふふって笑った。


次回 フラグ?

私たちは嫌な予感がした!

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