第57話 に が わ ら い

 「おまえは味方を攻撃している。敵対するなら、おまえが裏切りものになる」コウが発した言葉。


 「なんだと?」驚きのあまり言葉を失った。


 (俺が裏切りもの?)


 ますます混乱した俺は、ガシガシ頭を掻く。顔中シワだらけにしてコウに尋ねた。


 「なぁ、そもそも[同化協会]ってなんだ? ソイツらが魔人化だかなんだかで、《風の民》に手を出さなきゃ事は起きなかった筈だ」


 「まだ国家機密なんだけどなぁ......」コウは呟いた。

 「[同化協会]は知っての通り人間を魔人化する。表向きは長い時間をかけて、能力に劣る人間を魔人化する事で対等に渡り合うだけでなく、婚姻も含めた交流で互いの世界の安定化を目的とする。

 ”人間と魔人の同化"で種族の争いを無くし、平和の実現を目指す

 ウスケ陛下の肝付りの団体だ。内容が内容だけにまだ存在は伏せられているがな」


 だがーーーと続ける。

 「ここだけの話で聞いてほしい。伏せられている理由がある。陛下は当面、一般兵士の魔人化を考えいる。ドーピングだ。金属兵よりは安上がりで、訓練期間も短く済む」


 なんだと? 安上がりってかよ?!


 「もちろん志願者だけの予定だ。平民出身の兵士は戦功を挙げにくい。戦功を挙げたい志願者を募る。美味しいところは、貴族や騎士たちが持っていくからな」


 「だからって人間辞める話だぞ? 志願するわけないだろ!」


 「一般兵士の事情がある。戦功もだがどのみち貴族や騎士の嫌がる激戦区、最前線に回されるんだ」


 ふぅ、ひでぇなーーー。


 「よほど鍛え上げた優秀な兵士が、優秀な上官に恵まれない限り生き残る保証はない。

 だが魔人化すれば生き残る芽が出てくる。

 生き残る兵士が多いほど、国は補償の金も節約できるし補充の金と時間も節約できる。

 だから金を出した。だが、人道上予算には計上できない。だから表沙汰は余計にまずいんだ」


 ここでも金の話か? 太極を観て些細に触れずってか? 泣く人、廃人になる人、不幸になる人が出ても金のためなら些細なことってか?

 ーーークソな世界だ。


 「あのなぁ、コウ。さっきの見ただろ? 廃人同然だぞ。生き残っても廃人になるってわかったら、志願者いるわけないだろ?」


 コウはしばらく眼を閉じていた。

 「......『成り損ない』がでているとはな」

 「『成り損ない』ってなんだ?」

 やや間が開く。

 「っーーーーん、んんっ、なんて言えばーーー」

 鎮痛な顔をして俯く。やがて意を決したように、俺に向き直ると答えた。


 「不適合者だ。懸念は出ていた。魔人化に適合出来ず、かと言って人間にも戻れない。まさに『成り損ない』だ」


 懸念は出ていた? 『成り損ない』だと......?


 「失敗作ってか? おい、人体改造すらNGだよな?! 失敗しましたって、許されるわけがないだろ?」


 「首都ド・シマカスには知らされてなかったんだ。完全に魔人化された被験者がきた。王宮魔道士立会いのもと再現試験の記録もあった。いにしえの呪術を使い『五人の被験者が完全に魔人化した』と王宮魔導師の署名入りで記録にはあった」


 それがことの始まりの魔人化された十名か?

 半分は失敗して『成り損ない』半分は実演に回されて魔人化したってことかい?!


 「その五名が、経過観察された適合者だけで実演された可能性は考えなかったのか?」


 マヌケな話だ。


 「だから懸念は出ていたと言ったろう? コウヤが絡んだ調停だったから私が来た。調査も兼ねて派遣されたんだ。おまえが暴れたら止められるのは私だけだからな」


 暴れる? ああ、暴れるよ。


 「ああ。そうだな。手近な《風の民》をたぶらかし被験者にしたて上げ、調査に行った族長カイ他十名も拉致し、事がバレそうになったら《風の民》ごと消し去ろうとした。

 それが今回の騒動の真相だよ! あんなに良い連中を魔人化の実演材料にするなんざ許せねぇ」


 マオのやってる事は許せないが、手を貸したゴシマカスも許せない。


 「『成り損ない』しか手元に残っていなかったから、証言させたのはいいが尻尾がでちまったマヌケな女にまんまと騙されてた大マヌケだ」


 「だから嫌なんだ、おまえはッ。この国を責めてどうする? 先の大戦で大枚をはたいた。復興の予算を捻り出したいところに、つけ込まれたんだ。計画段階で知ってたら、私だって反対したさ」


 烈火のように怒るコウをみて俺は黙り込んだ。


 「多分周りも反対するとわかっていたから、計画から外したんだ。ずっと蚊帳のそとだったんだ。

 この世界の常識と、前の世界の常識は違う」

だんだん声が小さくなっていく。


 「間違いを正すつもりで評議員になった。だが、たかだか一年務めた程度の評議員では何もできない」

 そっかーーー。


 「悪かった。おまえを責めたつもりはない」

 コウも辛かったんだな。


 コウは顔を上げる。

 「ともかく筋書きは見えていた。ここに来るまで遊んでいたわけじゃない。徹底的に調べてあちこち手を打ってきた。ややこしくなったよ、コウヤ。落とし所を慎重に進めなくちゃ。一歩間違えただけで

謀反人にしたて上げられてしまう」


 やがて呆れたように笑い出した。

 「おまえは誰にでも惚れっぽくて困る。すぐに肩入れして誰にだろうが噛みつく。だから辺境伯に任命されたんだと思うぞ」


 苦笑いしかでねぇや。


 「さあ、どうする?」


次回 ち ょ う て い

俺は加速した!

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