第56話 ま も る
「コウ、なんで? なんでおまえがここに? まさか、まさか裏切ったのか?」
バツの悪そうなコウが姿をあらわにした。
◇◇
「裏切ったってなんだ?」
いつものコウの唐突な言いようだ。
「いや、なんでおまえがここにいる? こいつらは‥‥‥」
「同化協会の呪術士マスター・マオと協会員の面々だ」
俺の言葉を
「なんなんだよ? 同化協会って!
人を
おまえも洗脳されてそっちに付いたのか?」
俺は混乱していた。
コウは冷静で的確な判断ができるヤツだ。
簡単に洗脳されるほどヤワな女じゃない。
コウは困った顔をしながらため息をついた。
「どこから話していいのかな‥‥‥。
ともかくついて来てくれないか? その後ろのメンバーも」
そう言ってコウは先に歩き出した。釈然としないまま、ゾロゾロとついてゆく。
岩だらけの陰気な洞窟を抜けるとポッカリ
日に照らされた広場があった。洞窟の天井が
裂けてそこから日が差している。
広場の中央には神社によく似た廟が5棟。
どれも朱色の建て付けで屋根は緑色の瓦で覆われている。
それぞれの廟まで石畳で敷き詰められ綺麗に履きしめられていた。
秘境ーーー。
昔見たTVの旅番組にこんなのあったな。
そんな景観だ。
一番奥の大きめな廟に案内された。
地面から二メートルほど床上げされている。
十段ほど階段を登ると大袈裟な朱塗りの扉を開くと、黒々とした長テーブルに座るよう促された。
コウは俺たちをゆっくり見回して微笑んだ。
「調停を仰せ使ったゴシマカス評議会議員の
コウ・シマザキです。
今回の件については『同化協会』のマオ様の訴えにより、『同化協会』とコウヤ辺境卿及び『風の民』の調停を行います。
私は内々にウスケ国王陛下の委任を
調停に異議がある場合は正式に
と物騒な事を言いニッコリ笑う。
「何が言いたいんだ? 『風の民』は部族の一員を魔人化された。だから‥‥‥」
俺は腕組みしたままマオに顎をしゃくった。
「族長のカイがそちらさんへ調査に行ったら拉致された。俺たちはその救出に来たーーー
そんだけだ。難しい事なんかありゃしねぇ」
マオがふふふっと笑う。
「おや? ご存知ございませんの? 『風の民』の皆様は望んで魔人になりたいと来られた。我らはその望みを叶えて差し上げただけ。それを無理矢理みたいに‥‥‥」
「嘘だ!」
ナナミが叫んだ。
「誰が家族を捨ててまで魔人になりたいと思うもんか!」
(魔人化した面子には家族がいたのか?!)
今更ながら驚く。
マオはゆっくり
「その家族のために魔人化を望まれたのです。残念だけどここ《ミズイ》は魔口が近い。
魔人や魔獣も多いから家族を守ってやりたいって言われてーーー。ん、んんッ」
運ばれてきた紅茶で少し喉を
「魔人ならば人の二倍の力、二倍以上の魔力、二倍の寿命。魔法だって特殊な訓練を必要とせず使える。
私たちは魔人化できると教えてあげただけ」
紅茶に落とした目線をスッとナナミに移す。
「この厳しい土地で生き抜く為に魔人になってでも家族を守りたいって思うのは当然でしょう?」
マオはナナミをゆっくり見据える。
「家族を魔獣や魔人に殺された方々だったですよね。その方々?」
そうなのか?
俺はナナミやリョウを見ると
「それは関係ない!」
リョウが口を挟む。
「た、確かに家族を殺されたり怪我を負わされたヤツらだったさ。だけど魔人を恨んでも魔人になりたいって思うわけがねぇ!」
ふふふーーーマオは笑う。
「魔人が嫌いだから魔人にならない? 弱いままで魔人を恨んでも家族は守れない。また次襲われるかもしれない。
また次はほかの家族、自分だって死ぬかもしれないーーーそう思ったら力を得たいと思わない?
例えそれが魔人になってでも力を得たいと思わない?」
うーむ......なーんか
「後付けの理屈っぽいなぁ‥‥‥ソイツらが力を欲しいって言ってもなぁ、人間辞めるんだぞ?
悩んで誰かに相談くらいするもんだ。あいつがそんな事言ってたって話くらい出るはずだ。だが、ひとっ
だからぁーーー
「てめぇはデマカセを言っている」
ビシッと指差していってやった。
(キマッタ!)
「なら本人たちから聞いてみられません?」
(え? そなの?)
マオはにこやかな表情を変えずにいってのける。
(ありゃ? 本人いるの?!)
「入りなさい」
声をかけるとガタガタ音を立てて五名入ってきやがった。
ずいぶん用意の良いこった。
フシュー! フシュー!
ガスマスクは相変わらずだ。
ゆっくりガスマスクを外す。青白い顔をした髭面の男たちが目線を彷徨わせている。
「さぁ! 言っておあげなさいな。あなたたちは望んで魔人になった。そして今も魔人化した事は後悔していない」
「わた、わたく、私は、進んで魔人になりました。こ、後悔なんてして、した、してい、いません」
体をガタガタさせながら話す。
(明らかにおかしいだろうが!)
「コウ、おまえはどう思う?」
呆れ顔でコウに振る。
コウは眉間にシワを寄せ考えこんでいたが、やがて意を決したように
「これから先はコウヤくんと私だけにしてくれないか?」と告げた。
ふふッとマオは微笑み肯首した。
「よくコウヤ様にお話し下さいーーー我々が何者かを。そして誰が後ろ盾なのかも......。そちらの皆様、別室にご案内致します」
優雅に腰を折るとナナミたちに退出を促す。
「大丈夫ですよ。そんなに警戒しなくても、何かあったら危ないのはこちら。
こちらのコウヤ様に縊り殺されちゃう」
ほほほっと笑う。
ッと
ーーー誰もいなくなった。
「なぁコウヤ、ここらが手打ちだ。この件はまずい」
コウが早口で話す。焦っている。
「ほぅ? 国家評議員の先生様でも手を出したくない? 一体何を隠している?」
俺は半笑いで聞いた。
持って回るような言い方は苦手だ。
「
(なに?!)
「しかも陛下の息がかかっている。まだ極秘扱いの外郭団体だが陛下の肝煎りだ。おまえは味方を攻撃している。敵対するならおまえが裏切りものになる」
(なんだと?)
驚きのあまり言葉を失った。
次回 に が わ ら い
俺はもう笑うしかなかった!
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