第51話 い け に え

 カイと消えてしまったサラの手がかりが欲しい。俺は魔窟ダンジョンの奥へ歩き出した。


 目指すところはある。前回マオと会った小部屋だ。何か手がかりがあるかもしれない。 


 魔窟ダンジョンに似つかわしくないレースに囲まれた小部屋に着いた。

 人の気配は無い。

 念のためサーチをかけるが、なにも引っかかるものはなかった。


 レースをたくし上げ中に入る。豪奢な椅子と相反して簡易な机。薄ぼんやりとした明かりと甘い残り香。


 呪術で使うのだろうか?

 使い古された香台と碁盤の様に、マス目状に彫られた溝のある石版。中心から四方にビー玉大の水晶が置かれている。中心にやや大きめなビー玉状の水晶が、薄く光っていた。

 

 軽く触れてみた。

 目の前の風景が切り替わる。俺が立っていた。視界は俺が斜めうえから見下ろしているアングルだ。

 あたりを見回すと映っている俺も見回す。


 「魔眼か‥‥‥?」

  「魔眼か‥‥‥?」

「やまびこみたいだな!」

 「やまびこみたいだな!」


 映像からちょっと遅れて音声まで入ってくる。

 空間魔法の一種だ。魔道具を任意の空間に発生させ、覗き見る事ができる。軍用ならゴシマカスにもある。ゴシマカスのように、監視衛星とまではいかなくても局地ならば簡易型でも十分だ。


 他の水晶も触ってみる。風景が切り替わる。

 今度は見知らぬ風景になる。深い森の中だ。キリキリと鳴く虫の声と遠くから聞こえる獣の遠吠え。

 一瞬その場にいない事を忘れた。


 水晶を石版のみぞに沿って転がすと風景も進んでゆく。

 「へぇ〜?! 面白え......。Goog○○マップじゃん」

 つい呟く。

 リアルタイムで観る事ができる分むしろドローンの映像に近い。いや音声までついてくるとなると、こちらが上か?


 さてとーーーわざわざここにあるという事はカイの映像が観れるかもしれない。左下の水晶に触れる。


 薄暗い牢屋につながれている人影が映る。

 十人はいるだろうか?

 二十畳ほどの広さに押し込められている。しばらく見ていると声がした。


 「もう何日たった?」

 気怠げに尋ねる。

 「十二日だよ。カイ。もう考えるのもダルくなってきた。ぼちぼち発症するのかな?」

 尋ねられた男が答える。

 「おまえさんが魔人化したら、グレート・ボアになってくれ。焼いて食ってやるから」


 「そりゃ魔獣だろ? せめて人間に近い方にしてくれや」


 「生贄いけにえになるにしては不味そうだな? 大丈夫だ。おまえは不味そうだから最期の最期だ」


 「ははは‥‥‥」


 力のない笑があたりにざわめいた。

 薄明かりに目が慣れると鳥肌が立った。骨と皮にやせた男達がざわめいていた。前合わせの服からはだけた胸元は、あばらが浮き出ている。


 目から血の涙を流していた。


 目からだけでは無い。耳から。鼻から。

 口の周りは血でべっとり汚れていた。カサついた肌にもはや生気はなく、目だけがギョロギョロ動いている。


 なんて、なんて事しやがる。俺が今助けてやる!

 場所が特定できないか?


 碁盤状のみぞをあちこち転がす。コロコロと水晶を転がすと映像が後退し牢屋を外から映した。

どうやら鍾乳洞の中らしい。


 外の風景を記憶する。

 引けるだけ引いてみる。トンッと何かに当たったように、映像は止まった。これ以上は下がらない様だ。


 もう一つの水晶も触ってみる。薄く光って映像が切り替わった。


 ん!?


 《風の民》の集落が映し出された。


 (こりゃあ! 監視されてたってわけかい? カイが調査を始めるあたりから配置したんだろうな?!)


 ビューン ......!

 聞いた事のある嫌な音がした。

 ◎と+の組合せた魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の中から魔人が発生し始める。


 (おいッ、狙われているぞ!)


 慌てて手を伸ばすと水晶玉を押し込んでしまった。◎と+の組合せた魔法陣が足元に浮かび上った。光の輪が俺を包む。


 ビューン ......!

 気がつくと、魔人と共に俺は集落を訪れていた。


 「コ、コウヤ様?」戸惑った声と、キャーッと広がる女たちの悲鳴。


 「チッ!」軽く舌打ちすると、魔人たちに突っ込んでいった。


 てめぇらこそ生贄いけにえになってもらうぞ! 今日の俺の虫の居所は極端に悪い!!


次回 じ じ ょ う

俺は反撃を開始した。

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