第36話 ら ん ぼ う

 から〜ん ♪ からーん♪ ストライーク!


 俺の頭の中で鐘が鳴り響き謎の判定が下された。


 「なぁーーーと、言うことはこの獲物はあんた達が追い込んで仕留めるはずだったというわけなんだな?」俺は声のトーンをさげた。 


 「そうだ!」

 「こんな大物滅多にねぇんだっ、横から掠めとりやがって!」

 後ろの連中が喧しい。

 ふぅー。

 ここで調子に乗らせるとヤバイ。集団で襲ってくるパターンだあまりやりたくないんだがーーー


 グォ!


 闘気を全身から発した。


 ドン!! 足下の半径1mが闘気に押され陥没する。

 「人が話している時にやかましいんだよ......」

 こう言う時は低い声に限る。

 「おまえ......ちょっとこっち来い。」

 最後にはやしし立てた奴を指差す。群れる奴ほど個別に狙われると弱い。


 「おまえだ!」


 ちょっと吠えてみる。たちまち静かになった。

 ふふふ。これで立ち位置対等になったな。


 「待て! 話しているのはオレだ!! 話を逸らすな!」

 さっきの美少女が必死な感じで割り込んで来た。


 さて交渉開始 ^ ^ ふふふ。


 「あんたらからすれば苦労して追い込んだの獲物を最後だけ持っていかれちゃたわけだな?」

 ちょっと間をおく。


 「だが俺らからすれば魔獣に襲われて倒したついでに肉にありついたわけだ。

 あんたらが追い込まなければ襲われる事もなかった。下手をしたら俺らは死んでたかもしれ

無い。それを無かった事にしろって言われてもなーーー」


 言葉を選ぶ。


 「割が合わない。そうだろ? あんたらが逆の立場だとすればだ。そう思うだろ? 割が合う何かを求めて当然だと思わないか?」


 チラリとサラを見る。

 サラは解体途中で始まった騒動に呆然としていた。グレート・ボアの口に突っ込んだホースから

水がバシャバシャ血を洗い流し解体用のナイフからはまだ血がしたたっている。


 ......ホラーだ。


 「そこでだ。オレらは今日こちらに着いたばかりで泊まるところもない。あんたらの所に泊まらしてもらえないか? 宿が無くて困っている」


一同がキョトンとする。


 「ここの事もいろいろ知りたい。それで良いならならコイツを渡してもいい」

 飯と宿を引き換えだ。

 ここのところ野宿にも閉口していた。それに現地の事を知るには現地の人から聞いた方が良いーーーと誰かが言ってた。


 「ちょっと待て」

 美少女が仲間たちの所に戻る。いろいろ話し合っている見たいだ。


 「いいだろう。知らずに来たなら災難だったな。助けてやろう」


 「ありがとう!」

 にこやかに礼を言う。

 しかし小娘のくせにしっかりしている。『助けてやる』ってマウントを取りにきやがった。


 「飯もついでに頼むよ!」ニパッと笑う。


 「厚かましい奴だな‥....まあ良い。客人としてもてなそう。どこから来たんだ?」


 「王都ド・シマカスからだ。俺はコウヤ。こっちはサラ」


「私はナナミ」美少女が応える。

 「あっちは左からリョウ、シン、エケン、

ハン、コビンだ。」

 軽く手をあげた。向こうは会釈もせず警戒している。まあ、道々なんとかなるだろう。


◇◇


 集落までの道々。


 俺とサラは赴任の際に購入した騎馬に揺られている。


 途中まで解体の済んだグレート・ボアはハンとコビンが手早く解体してしまい六騎の荷物袋にしまってある。

 毛皮も網に包まれてリョウが背負った。後で乾燥させて冬用の敷物にするそうだ。

 無駄が無い。


 「なぁ! ナナミよ! ここの住人ってみんな遊牧民なのか? 町や都市に定住することは無いのか?」

 さっきから気になっていた事を尋ねてみた。


 「さっき会ったばかりなのにずいぶん馴れ馴れしい口の利き方だな!」

 ナナミがプンとしている。


 「ナナミさま。何卒、ご教授頂けましたら

幸いでございます。わが不明と恥いるばかりですが伏してお願い申し上げます。」

 俺は丁寧に腰を折る。


 「わざとらしい‥....。だが私も意地悪だった! その気持ち悪い言葉遣いはナシだ」

 おー! 素直な良い子だ!


 「以前はもっと多かった。今は四割くらいらしい。都市部に定住したり、小規模魔力でハウス農業をしたり......。ここらは魔界ノース・コアとの魔口があるからな。ダンジョンや魔獣が発生しやすいんだ。命の危険に晒されながら生きるのはみんないやなんだろーな!」

 空を見上げながら吹っ切るように言う。


 「なんでおまえたちは定住しない?」

 素朴な疑問をぶつけてみる。

 「私たちは『風の民』だからさ。ずーと昔から何にも縛られない。魔獣と戦い、家畜を守り、大地に感謝を捧げる。それが『風の民』だ」

 ふーん......。

 そっかーーーそんな生き方もありだな。


 俺の前世はここよりは安全だったが時間に追われ、数字に追われ、金に追われていたもんな。


 乾燥した初夏の風が心地よい。

 パカ、パカ、と流していると


 突然目の前の空間が歪んだ。◎と+の組合せた魔法陣が浮かび上がる。

 「魔人だっ、散開しろ!」

 ナナミが声を上げた!


次回 ま も の

俺は暴れる!

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