第35話 あ れ か ら
「ーーーと言うわけで僕らも愛し合おうじゃないか⁉︎」キラ目で迫るコウヤ。
「断る!」
プイっとコウはそっぽを向いた。心なしか耳まで真っ赤だ。
「そこをなんとか!!」
「断固として断る!!」
笑って走り出した。空にふわりと浮かび飛び立って行く。
「まって! おかしいな?! まって?! ここは ご褒美のキスじゃ無いの?」
「お前が捕まえられたらな!」
コウは上から覗き込むように微笑んでいる。
「そこをなんとかぁぁぁぁぁ!」
コウヤはコウを追いかけて行った。黄昏の中に2人の影が踊っていた。
《コウヤ目線です》
あれから一年が過ぎた。俺は吹き荒ぶ風のなかに佇んでいた。
「マジか‥‥‥やられた。こんなとこ住めねぇじゃん」
魔王オモダルの討伐の恩賞として
その他にも三百億インの報償も。分割だけど。
爵位も貰った。辺境卿と言うらしい。えらいんだかそうじゃないんだか?
それでもこれで俺も一国一城の主よ!
ふふふ。
ホクソ笑んでいたらこれだ。視界の右からぐるーっと左まで草原だ。季節はもう初夏なのに少し肌寒い。乾燥しているせいか?
ピギーッ!
豚を絞め殺したような声がすると、小山のような肉の塊りが襲ってきた。
だぁぁぁ!
飛び退きながら反射的にミスリルの剣を抜き放つ。
ピュン!
空気を切り裂くような斬撃で反転して襲って来た塊の頭を叩き割った。グレートボアだ。イノシシのでかいやつだと思えばいい。三倍くらいあるけど。
ピギーー ー イー! 断末魔の声を上げドウッと倒れ込んだ。魔王オモダルと渡り合った俺だ。魔獣如きに遅れを取る事はない。
「コーヤーさまー! お見事でーす!」
おまえずいぶん遠くにいたんだな。従者兼、護衛兼、メイドのサラだ。一人だけ連れて行くと言ったらついて来た。
今回は領地視察の為だから行政官が良いのだがポット出の俺は子飼いの官吏などいない。
とりあえず求職中の官吏経験者全員に声をかけた。
で、たった一人だ。
ブロウサ伯爵が「腕利きの人材がおりますゾォ! 元冒険者ですからな! なにかとお役に立てるはずです。ふぉふぉふぉ〜!」
なんて言うもんだからもらい受けた。
「今夜はご馳走ですね ♪」
サラが手早く解体に入る。三十センチほどの穴を掘ると、その上に手早く三脚を組み立て獲物を吊す。水道石をブスッと地面に突き刺し流水で血抜きをしながら内臓を取り出す。
さすが元冒険者! 慣れている。
しかしーーー。血塗れでご機嫌に解体する女。ちょっとしたホラーだ。
「何してんですか? 内臓を埋めて血を洗い流さないと狼が寄って来ますよ!」
「ヘイ、ワカリヤシタ」
何度か見たが未だに慣れない。
ヒュン!
地面に矢が突き立った。
俺はハンドソードを抜くと素早くシールドを展開し、飛んできた矢の方向を睨み付ける。
ヒヒーン!
砂埃を巻き上げ頭からすっぽりと頭巾に覆われた集団五、六騎が駆け寄ってくる!
先頭からリーダーらしき者が巧みに馬を操り近寄ってきた。
「そのグレート・ボアはこちらの獲物だ。寄越せっ」甲高い声が頭上から降ってくる。
なんだ? いきなりやってきて寄越せだ?
そうはいかない。
こっちも干し肉だけで我慢してきたんだ。久々の焼肉を譲るわけにはいかない。
「盗賊にしちゃずいぶんじゃねぇか? 腹が減ってるのはお互い様だ。顔ぐらい見せたらどうだ?!」
カッとなったのか盗賊の主梁らしきものが馬を飛び降りて近づいてきた。
ガッと頭巾をむしり取ると、歯を剥き出して噛み付いてきた。
「盗賊だと? 盗っ人猛々しいとはお前の事だ!」
そこには凛とした佇まいの年の頃十七、八の少女がいた。
大きな瞳にシュとした鼻筋。唇は薄めで怒りできつく結ばれてものの顔全体を引き締めている。身長は百六十cmくらいか?
衣服に覆われよくわからないが全体的に引き締まった身体つきだ。
俺を睨み付けながら少女は叫んだ。
「狩りの追い込みの途中だった。仕留たのは認めてやろう。だがそれは我等の獲物だっ。寄越せっ」
言葉遣いは荒いが鈴が鳴るような心地よい声色だ。
から〜ん ♪ から〜ん ♪ ストライーク!
俺の頭の中で金が鳴り響き謎の判定が下された。
次回 ら ん ぼ う
俺はまた騒動に巻き込まれていく。
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