第30話 戦闘布告!

 薄ぼんやりとした光の中にコウヤはいる。召喚の儀のあの時以来だ。

 あたりを見渡すと王宮魔導師たちが、回復魔法のヒールをかけていた。


 (さっきまで四天王筆頭ラピスとやってたよな......)

 ぼんやりと考えながら、筋肉の一筋一筋から老廃物が取り除かれて行くのを感じる。寝覚めの様ななふわふわとした意識を漂っていた。


 「ーーーヤ殿! コウ殿! コウヤ殿! コウ殿! 目覚められよ!!」

 防衛次官オキナが叫んでる。


 (どした? 男前が必死な感じで? そう言えばアラートが鳴ってたな? 確かあのあと魔王城が現れてーーー)


 ガバッ! と跳ね起きた。


 「どうなってる? 魔王が出てきたのか? 今どうなってる?」オキナの胸ぐらを掴む。


 「おお! コウヤ殿!! 目覚められましたか? 魔導師コウ、あなたも?!」

 オキナの顔が一瞬、ほころんですぐに強張こわばった表情に戻る。


 「辛い願いをせねばなりません。ーーー魔王が王宮間近まで侵攻して来ています。かくなる上は、魔人たちを我々が食い止める間に、魔王オモダルを討ち果たして頂きたい」



————//————-//———//—-




 魔法陣が展開され、魔王オモダルの待つ魔王城に転送された。


 ーーー静かだ。


 外の戦乱がまるでそよ風に流れる音楽のように微かに聞こえる。暗くなった一角に奴はいた。


 魔王オモダルだ。

 「きたか? 勇者コウヤ。魔導師コウ。今更ながら詫びに来たのか?」


 コウはあたりを用心深く見渡しながら、魔王オモダルに語りかける。


 「魔王オモダル。これ以上争いは無益だ。ゴシマカスはすでに魔素ゴミを浄化するクリーナーを開発した。今後魔素ゴミを投下する事は、一切無いと約束しよう。今まで魔素ゴミを送りつけられ憤激収ま

らぬのももっともだと思う。

 賠償も当然だと思う。補償できるならそれも飲むとの事。ここらで手打ちにしてもらえないか?」


 「愚かなーーー。そもそもが話し合いを拒んだのは人間の方ぞ。人間の本質がそうさせたのだ。自らの力を過信し、己が力量を見誤り、仕掛けてきたのはそちらであろうよ」


 コウは食い下がる。

 「それでもお願いしたい! この戦いを始めさせたのは確かに人間だ。

 しかしこの戦いで誰も得などしない。泣くものばかりだ。弱い者を泣かせるだけだ。それが本意ではないはずだ。魔王たる者のーーー」


 「ハッハッハッ!」

 突然魔王オモダルが哄笑した。


 「人間は搾取する者と、される者の二種類しかいない。搾取される者はまた力のない者を搾取する。

 人間は常に搾取し続けなければ、成り立たないーーーそうであろう?

 よって人間は滅びる! 弱き者から順番な。哀れであろう。虐げられたものから滅びるのだ。なんの良き目にも合わずして、虐げた者のために盾としてな。ならばせめて平等に人間そのものを滅ぼしてやろう」

 魔王オモダルはむしろ慈愛に満ちた目でコウヤとコウに告げた。


 コウヤは叫ぶ。

 「誰が頼んだッ、勝手な講釈垂れて自分の考えを押しつけんじゃないよ。お前の言ってる事は当たってる。だが、人間社会を大雑把に括った仕組みを

言っているだけだッ。


 俺たちからすればお前こそが理不尽だ。

 人は繋がろうとする。共感しようとする。愛そうとする。

 行き過ぎた理不尽には怒りを感じる。

 理不尽には勇気で立ち向かい、社会を変えて来た。弱者には愛で応えようと戦ってきた。それは自分のためだけじゃない。


 弱きものを守るため、愛する人を守るため、次の世に希望を残すためにおのれを犠牲にして繋いできた、多くのその命たちまでもおまえは滅ぼそうとするのか?!

 ならば俺はおまえを許さない!」


 「ーーーホウ! ではお前が証明するがいい。理不尽な我をお前の勇気で、お前の愛そうとする者たちのために倒してみよ!!」


 魔王オモダルがゆっくりと左手を上げた。


次回 戦闘開始!

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