第16話 必 殺!

 金属兵の左手が持ち上がる。

 『ライトニング』抑揚のない音声が響くと、光の矢が2人に襲い掛かった。


「フレイム・ボムが効かない?!」


 オモダル君は、魔王オモダルのスペックを参考にチューニングしてある。

 オモダル君に効かないということは、魔王オモダルにも効かないという事だ。


 魔導師カミーラが2人にシールドを張り、ライトニング光の矢を弾いた。

 訓練なので、威力は落としてあり殺傷することはない。

 しかしあのまま直撃すると、怪我をさせる危険があったからだ。

 本番なら間違いなく死に至る。


 魔導師カミーラが考え込んでいる。

 「火力不足かぁ......コウちゃんの最適属性、火なんだけどなぁ...... 」


 コウは呆然としていた。ファイヤ・ボムの十倍の威力を持つフレイム・ボムが効かない。


 (ーーー私はどうすれば良い?)

  散々訓練して培った魔法が通用しない。これ以上無いってくらい磨き上げて来たのだ。

 目の前が真っ暗になった心地でこうべを垂れた。


 コウヤが近づいて「ほれ」っと頭からタオルがかけられる。ジャスミンの香りがした。


 「まず汗拭けよ。汗だくだぞ」


 「ーーありがと......」


 「飲んどけ」


 コウヤは、コウに疲労回復のポーションも渡した。味はスポーツドリンクに似てる。苦味だけが、口の中に広がって行く。

 項垂うなだれるコウへ、コウヤもかける言葉を探して口を開きかけては閉じている。


 フレイム・ボムを計四発も打ち込んだ。それでもオモダル君は倒れなかった。一度に作れるフレイム・ボムは、あれが限界だ。コウヤは仕上がってきつつある。それなのにーーー。どうやって勝つ?


 (魔力を更に鍛えて数を増すーー? いや待て......更に鍛えている時間はあるのか? ならばコウヤのディストラクションで、トドメを刺すか?)


 コウヤのディストラクションなら、必殺の威力を持つ。が、憑依の後のコウヤは魔力はほぼゼロだ。

 戦闘開始から、最後まで憑依なしで戦える筈がない。ラストまで、コウヤの必殺の技を当てにするなんて無茶が過ぎる。

 考え込んでいるコウに、コウヤが声をかける。


 「そう深刻になるなって。ツメまでの形はできたんだからさ」


 (先送りか? こっちの目度がたたなきゃ、一緒だぞ)


 「あちゃー! 芯まで行っちゃってるよ」

 向こうで、オモダル君の点検に当たっているサイカラの声が上がった。

 オモダル君も故障したらしい。

 全くフレイム・ボムも無効ではなかったようだ。


 (効いていた? なら、改良することでなんとかならないか?)


 コウはオモダル君に近づいて行った。

 シールドを張っていたのか、被弾した跡は見えない。


 「故障の原因は?」

 サイカラに尋ねてみる。何か手がかりがあるかもしれない。


 「輻射熱です。想定以上でした。熱対策で、シールドと合わせてアイスシールドも展開するようプログラムしてたのですがーーー驚きですね」


 オモダル君は被弾してもライトニング光の矢までは発射してきた。魔王オモダルが、想定以上の耐熱性が有ればあれでやられている。


 黙っているコウにサイカラが続けた。

 「逆にシールドが、熱を閉じ込めたみたいで耐熱想定以上の熱になったようです」


 (シールドが熱を閉じ込める......? それだっ)


 「カミーラ先生! ちょっとご相談が」

 魔導師カミーラの元へ駆け寄って行った。

 「シールドで閉じ込めて、フレイム・ボムを放り込めないでしょうか?」


 「反射炉の原理ね。フレイム・ボムならぬフレイム・コアか......面白そうじゃない?! 」


 カミーラが、術式展開を構築し始めた。

 「まず相手をとめる【捕縛】からのぉ、シールドしてえー。フレイム・ボム発動っと」

 何やらメモをしながら、展開の手順を構築し詠唱を始めた。


 「集え。集え。大気と火の盟友よ。

 ふるえ。ふるえ。大地の核よ。

 イカズチをまといて核となせ。

 この核は対となりて真! この真は絶。

 この絶は大気と火を纏いて恒星となす。


 発動! 【フレイム・コア】!!」


 シュ......! シュゴッーーーッ!!


 オモダル君がシールドに包み込まれる。

 シールドで囲まれた球体の中で、白い炎が踊り狂った。引火するように次々と炎が吹き荒れる。


 ブゥワン!!


 密閉された空間に、灼熱の光の球体が出現した。目を覆う閃光が収まると、オモダル君はあとかたも無くなっていた。


 魔導師カミーラは「やったぁ♪♪ 」って、小躍りしている。


 「......なぜオモダル君に発動させた? ほかにも的はあるじゃないか......」

 隣には泣き崩れるサイカラの姿があった。


コウは次のステージに進む。

コウヤはまた寄り道しながら進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る