第91話 ライバル公爵?
魔法学園でのゴタゴタのお陰で、中等部二年生からは、これまで通り王立学園に通えるようになった。
半年ぶりくらいに帰ってきた王都が何だか懐かしく感じる。
「ようやく帰って来れましたわね。やっぱりここが一番落ち着きますわ」
「ソウデスカ」
ここは王都にあるガーネット公爵家のタウンハウスにある俺の部屋。すでに俺の部屋はクリスティアナ様の部屋でもあるようだ。それはそれで全然構わないのだが……。
「やっぱりシリウスの布団の匂いが一番よね~」
「そうですわけね~」
「ここが一番落ち着く」
三人娘が揃って俺の布団に潜り込んでいるのが非常に気になる。一応俺もそろそろお年頃な年齢なんだけど……。
「ちょっとシリウス、いいかしら?」
ノックもそこそこにお母様が部屋に訪ねてきた。布団に潜り込む三人娘を見たお母様はこちらにあきれを含んだ目を向けてきた。
いや、俺のせいじゃないでしょうが。
「何かご用ですか?」
コホン、と一つ咳をして呼吸を整えたお母様は俺達に向かって言った。
「今度、ダイヤモンド公爵家で婚約披露会があるのよ。それで、そこにクリスティアナ様とシリウスも参加してもらいたいのよ。もちろん、フェオちゃんとエクスちゃんも一緒に参加してもらっても構わないわ」
「本当! 行く行く!」
「私も行きたいです」
「そう? それじゃあ決まりね」
そう言うとお母様はサッサと俺の部屋を後にした。
同じ公爵家のイベントことに参加するとは珍しい。俺達のことを紹介したいのかな?
「申し訳ありません、クリスティアナ様。余計なことに巻き込んでしまって」
「余計なことなんかではありませんわ。きっと、この披露会で私達のことも披露するつもりなのですわ」
「おそらくそうでしょうね。これで私達の関係も世間で広く認知されるようになりますね」
国王陛下が難色を示すかも知れないが、お父様とクリスティアナ様のお母様の第二王妃がなんとかしてくれるだろう。
ダイヤモンド公爵家主宰の婚約披露会の日がやってきた。
この日はダイヤモンド公爵家に有力な権力者達が大勢集まっていた。
参加者が着ている洋服はどれも最新モデルのものばかり。そして誰もがきらびやかな宝石類をたくさん身につけていた。どうも、完全に自分を自慢するための大会になり変わっているようだ。一応の義理として、婚約披露会では盛大な拍手と称賛に溢れてはいたが。
多くの人達がダイヤモンド公爵に挨拶する中、子供連中は暇である。
ダイヤモンド公爵の挨拶をみんなで済ませると、早々に料理の方へと向かった。
「どれも美味しそうね~。クリピーはどれを食べる? あれとか、これとか、良さそうだよ?」
「お姉様、あれも美味しそうです」
「そ、そうですわね」
クリスティアナ様の顔は見事に引きつっていた。
それもそのはず。フェオとエクスは魔法生命体なので太らないのだが、クリスティアナ様は普通に太るのだ。しかも悪いことに、幼少のころに太っていたことがあるため、肥満細胞を有しているのだ。
そしてその肥満細胞は、発芽する日を今か今かと待っているのだ。怖い。
そんなわけで、クリスティアナ様は美味しそうなものを目の前にしてそれに耐える、という苦行を強いられていた。
「クリスティアナ様、私一人では食べられませんので、一緒に食べませんか?」
これならたくさんの種類の美味しいものを食べることができるだろう。
「はい、喜んでいただきますわ」
「あたしもシリウスに分けてもらう~」
私もマスターのが欲しいです」
よしよし、いいぞいいぞ。これなら四分の一になるので、少しずつ色んなものが食べられるぞ。
こうして四人で一つの食べ物をシェアしていると、声がかかった。
「シリウス、元気そうだね」
「クロードお兄様!」
クロードお兄様は俺の三つ上で、ダイヤモンド公爵家の次男だ。今回の婚約披露会は長男の結婚相手のお披露目会であり、数ヶ月後に正式な結婚式が挙げられるのだ。
「初めてお目にかかりますわ。クリスティアナ・ジュエルですわ」
クリスティアナ様が淑女の鑑の如く、美しい礼をとった。周りで見ていた人達からざわめき声が漏れた。
俺は見慣れているけど、やっぱりクリスティアナ様は凄いんだな。
「初めまして、クロード・ダイヤモンドです。噂には聞いていましたが、本当に美しい。第二王妃様に負けないくらいの美貌だと聞いていましたが、どうやら本当のようですね」
「どうしたんですか、クロードお兄様。熱でもあるんですか?」
「失敬な。純粋に羨ましがっているところだよ」
そう言って二人で笑った。これだけ気を使わずに話せるのは、クロードお兄様くらいだろう。
「随分と仲がいいのね。ちょっと嫉妬しちゃうわ」
フェオがちょっぴり頬を膨らませている。
「おお、噂の妖精様ですか。しばらく会わない間に、本当にシリウスは凄いことになっているね」
手紙ではやり取りをしていたが、実際に顔を合わせるのは本当に久しぶりだ。うちの両親とクロードお兄様の両親が見栄の張り合いをするので、俺達子供達はいい迷惑だった。
「お兄様、高等部はどうですか?」
俺達はもう後一年ちょっとでゲームの舞台である高等部に進学する。そのため、事前情報は少しでも欲しかった。
「ああ……」
そうため息をつき話を始めた。
「やはり平民出の人が多くなると、それ関係でトラブルが多くなるね」
本当にうんざりしているのだろう。すでに疲労の色が見える。
「ほら、俺の学年は俺が一番上の高位貴族になるだろう? そのせいもあって、俺が貴族代表みたいになるんだよね。それで、貴族と平民との間に問題が起こると、全て俺が出向くことになるんだよ」
それはとんだ災難だ。係わってもいないのに、調停に乗り出さないといけないだなんて。アホなことをした貴族の責任もとることになるんでしょう? 僕にはとてもできない。
「嫌なお役目ですね。ああ、私もそうなることになるんですか。嫌だなあ」
「シリウスのクリスティアナ様がいるからまだいいよ。クリスティアナ様の目に留まった貴族は、国王陛下の耳に入るだろうからね。俺達貴族は直接他の貴族を罰することはできないけど、国王陛下ならそれができるからね。そこにガーネット公爵家が加担すれば、はいサヨウナラ、というわけさ。俺よりもずっといい」
他家を滅ばすとか、とんでもないことを言うなぁ。まあ、切り札に使えなくもないか。でもクリスティアナ様なら……。
「シリウス様に害を及ぼすような相手なら、どんどん排除しますわ!」
「あたしも手伝う~! 家ごとボン! ね」
でのひらをグーからパーにするフェオ。過激派がそろっているな、うちの嫁ズ。エクスだけが純粋な癒やしか……。
「私もやってみようかしら、ボン」
「お~! エクスも魔法が使えるようになったし、一緒にやろうよ、ボン」
残念ながら、うちの嫁ズに癒やしはなかった。
どうしてこうなった。
「クロードお兄様、何かあったら絶対に相談に乗って下さいね」
「お、おう……」
俺の剣幕にクロードお兄様の顔が引きつった。
だが、焚き付けたお兄様も悪いのだ。共に地獄に落ちてもらうとしよう。
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