第79話 お化け騒動②
「手伝って下さるんですか!」
ルイスが期待を込めて聞いてきた。
「まあ、そんなところかな? エクス」
「イエス、マスター。貴方に力を」
隣にいるエクスが静かにそう呟いた。
その途端、エクスは細かな魔力の粒子になった。周囲にいた生徒達がざわめく中、エクスは俺の体に集まり、その形を変えていった。
本来の姿、聖剣エクスカリバーになったエクスを掴む。相変わらず美しい刀身が・・・なんか、大きくなってないか? どう見ても大剣になっている。俺の身長の倍くらいありそうだ。重さはないけど。
ポカンとエクスカリバーを見ていると、どうやら鎧の方も出来上がったようだ。これで準備はOKだな。
「し、シリウス様、その鎧はまさか・・・!」
クリスティアナ様が驚きの声を上げている。ん? 鎧がどうかした? 何これ!
これまでエクスが用意してくれた魔力でできた鎧は黄金色だったのだが、今身に着けているのは、光沢のある美しいエメラルドグリーンの色を基調とした鎧に変わっており、マントは真っ白だ。そして背中には、装飾品なのか、孔雀の尾のような物が床まで伸び、シャラランと音を立てていた。これってもしや・・・。
「せ、聖王様が着ていたお召し物と同じ物ではありませんか!?」
奇遇ですねクリスティアナ様、俺もそう思います・・・どうしてこうなった! エクスも後でスライムベトベトの刑だな。
現実逃避したものの、周りは静まり返っていた。凄い注目を集めている。どうしようと思っていると、みんなと一緒に驚いて止まっていたレイスがいち早く動き出した。
これはいかん。俺は戦闘態勢をとるべく、正面に掲げていた剣を横に振り、下段に構えた。
「グワワワワァ・・・!!」
そこそこの距離があったはずなのに、レイスは横に真っ二つに切断され、断末魔を上げながら虚空へと消えていった。凄い切れ味だ! って、当たってないけどな。どうなっていることやら。考えても無駄そうなので、考えるのをやめた。え? 魔力の刃を飛ばしてた? ソウテスカ。
「す、凄い! さすがですわ、シリウス様!」
クリスティアナ様が抱きついてきた。フェオは当然、とばかりに自分のことのように胸を張っていた。それを皮切りにあちらこちらから歓声とざわめき声が上がる。
「もしかして、それは聖剣ですか? 初めて見ました」
ルイス君が目を輝かせながら寄ってきた。あらためて近くで見ると、ルイス君は眼鏡をかけており、イケメンになりそうなほどの整った顔をしているな。将来モテそうな気がする。
そういえばゲームの攻略対象に、眼鏡をかけたキャラクターがいたはず。確かそいつはヒーラー職だったはずだから、このルイスである可能性が非常に高い。キャラ名を覚えてないのが悔やまれる。
ルイス君や他の男子連中にジロジロと見られるのを嫌がったのか、エクスは人型に戻った。聖剣は人間になれるのか、と誰かが言った。普通はなれないと思う。
人型になったエクスも、その美しい女性の姿ゆえに、まだジロジロと見られていた。不愉快そうに俺にベッタリとくっついた。
「エクス、なんで前とは違う形の鎧にしたのかな?」
「だって、カッコいいと思って」
こちらを曇りのない瞳で見つめるエクスに折れた俺は「綺麗でカッコ良かったよ」と囁いておいた。次からは間違いなくあの格好になるな。俺のバカー!
「おい、お前達! 何の騒ぎだ?」
ようやく先生方がやって来たようだ。先頭を行くのは別のクラスの担任なのだろう。見たことのないゴツくてスキンヘッドの先生は恐ろしい剣幕で近づいて来た。
あの後は大変な騒ぎだった。勝手に禁止区域に行った生徒が悪いとはいえ、高位貴族の何人もが危険な目に会ったのだ。学園側にも色々と苦情が行ったようである。
俺にも事情聴取が来たが、何故か俺達だけは城に呼ばれ、俺の両親と共に聴取された。
両親からはよくやった、と誉められ、国王陛下からは多くの生徒を守ったとして、勲章を貰った。何だか予想以上に大袈裟なことになってしまった。これならルイス君に手柄を譲った方がよかったかも知れない。
禁止区域の立ち入りと魔法使用禁止を破った生徒は尻叩きの刑に処されていた。それだけで済んだのは死傷者が出なかったからだということを、その生徒達は肝に銘じてもらいたい。
初等部棟のお化けは退治され、いつもの日常が戻って来つつあったが、確実に変化したこともあった。
お化け騒動で目立ち過ぎた俺は、クラスメイトだけでなく、同学年の女子生徒から熱烈な視線を集めるようになってしまったのだ。もちろん、お近づきになりたいと寄ってくる女子生徒も多かった。
そうなると当然、クリスティアナ様がそれに気がつき、分かり易いほど嫉妬した。それはもう、四六時中隙あらば俺の腕に絡まるくらいに。
嬉しいのだが、さすがに公衆の前だと恥ずかしい。何とかいつもの距離感に戻ってもらわなければ、俺の精神が休まらない。
授業も終わり、食堂での夕食も食べ終えた俺達は、部屋に戻るとまったりとした時間を過ごしていた。
「クリスティアナ様、さすがに公衆の前でいつもベタベタするのは醜聞に良くないと思いますよ」
俺は努めてやんわりと距離感についての改善を求めた。俺はベッドの上に座り、クリスティアナ様はテーブルの椅子に座っていた。ベッドとテーブルまでの距離はすぐ隣だった。
「分かっておりますわ。分かって・・・。でも、私はシリウス様にいつか捨てられてしまうのではないかと心配なのです。私はまだ、ただのシリウス様の婚約者。フェオやエクス、クロと違って、確かな繋がりがありませんわ」
なるほど、フェオやエクスが嫉妬しないのは、この魔力の繋がりがあるからか。そうそう切れないから安心感が段違いなのだろう。
確かにそう言われると、クリスティアナ様との確かな繋がりはないな。でもクリスティアナ様と確かな繋がりを作ろうと思ったら、とんでもないことになるのでは?
「クリピーは私達と違って人間なんだから、人間同士で繋がったらいいんじゃない?」
おっと、何も知らないであろうフェオが余計な一言を! クリスティアナ様を焚き付けるような発言は止めなさい。
フェオの発言にギョッとした俺はクリスティアナ様の方を見てさらにギョッとした。
「フェオの言う通り、そうするしかありませんわね」
クリスティアナ様はすでに真っ赤な顔をして寝間着のボタンを外し、服を脱ぎつつあった。俺は慌てて服を脱ごうとするクリスティアナ様を押し止めた。俺達にはまだ早い、早すぎる。
クリスティアナ様の疑いや不安を解消するにはこれしかないな。
「ティアナ」
俺はそう言うと、クリスティアナ様の顔をグイと自分の方に無理やり向けた。瞳を潤ませたクリスティアナ様と目と目が合う。俺はそのままクリスティアナ様にたっぷりとキスをした。それも、大人のキスだ。
じっくりとクリスティアナ様を味わうようにしたキスを終えると、クリスティアナ様はどこかに意識を飛ばしたような夢見心地な顔をしていた。
力なく倒れかかってきたクリスティアナ様の寝間着を正し、ベッドに寝かせると、後ろから視線を感じた。
「ずるい」
「ずるい」
二人の意見は全く同じようだ。どちらも半眼でジットリとこちらを見ている。
「二人には魔力の繋がりがあるから、もう十分だろう?」
とは言ったものの、二人とも許してはくれなかったので、軽い口づけをしておいた。
次の日から、自信をつけたクリスティアナ様はいつもの距離感に戻っていた。しかし困ったことに、時々あの時のキスをせがむようになってしまった。そしてその度に、私も私もとフェオとエクスがキスをせがむのであった。
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