第66話 魔法使いたい

 まずは水路の作成から始めた。水路をどこに作るのかは事前に決めてくれていたので、俺達はそれにそって作っていった。昨日の要領でみんなと協力して作って行く。クリスティアナ様もずいぶんとガイアコントロールの扱いが上手になっているようだ。

「ずいぶんと上手になりましたね。これでクリスティアナ様も土木工事ができますね」

「ちょっと、お姫様に何やらせるつもりなのよ」

 フェオは呆れた物言いだ。確かにお姫様がする仕事ではないな。

「ウフフ、そうですわね。でも、ガイアコントロールにこんな使い方があるとは思いませんでしたわ。この魔法は穴を掘るが、穴を埋めるか、地面を盛りあげるしかできないと思ってましたからね」

「普通はそうだよね~。こんな繊細な魔力操作ができる人なんて、そうそういないからね~」

「そ、そうなのですか!? では、私も・・・」

「うん、クリピーも普通じゃないね」

 クリスティアナ様はショックを受けた驚愕の顔をしている。普通じゃないと言われるのがそんなに衝撃的なのか。それなら、毎度毎度言われる俺は、拗ねてもいいよね。

「クリスティアナ様が魔法使いとして一流のレベルにまで達しているということですよ」

 上手いことフォローを入れた俺を見たクリスティアナ様は、そうですわよね! とパアッと笑みを浮かべてこちらを振り返った。

 うん、クリスティアナ様には笑顔が一番似合っているな。

「私も」

「急にどうしたんだ、エクス」

「私も魔法を使って手伝いたい」

「うーん、そうだなぁ」

 エクスは魔法が使えなかった。理由は分からないが、今のエクスは魔力の塊に自我が芽生えたばかりの状態だ。もしかしたらまだ成長段階で、魔力を自分の力で外に放出する方法が分からないのかも知れない。聖剣としてかなりの魔力を溜め込んでいるのは分かるし、魔力を操作してトランスフォームもできるので、魔法が使えないはずはないと思うのだが。

「フェオもエクスと同じように、ある意味で魔力の塊なんだろう? 魔力を外に出すコツみたいなものはないの?」

「う~ん、考えたことないな~。初めから魔法は使えてたもんね。そうだ! 魔力を放出する感覚を体験すればいいんじゃないの?」

「なるほど、理論じゃなくて、体感させるわけだね。でも、どうやって?」

「そりゃあ・・・」

 フェオが顔を赤らめた。ちょっと、何させるつもり!?

「エクスと一つになるしかないんじゃ・・・」

「・・・」

 どうしたらそういう結論になるのか。小一時間問い詰めたいところだ。それでダメだったらどうするつもりだよ。

「さすがにそれはないんじゃないかなぁ」

 完全否定できないのがもどかしい。妖精のフェオが言うのだから、あながち間違ってもいないのかも知れない。

「だって、キスでもあれだけ溢れ出そうになったんだよ? それ以上になったらきっと・・・」

 フェオがもじもじしだした。それを一緒に聞いているクリスティアナ様も、もじもじしだした。

 溢れ出るって、それ、主語は魔力で合ってるよね? 魔法生物の類いは気持ちが良くなると、魔力が溢れ出るのかな? どうなんだ?

「エクス、どうなんだ?」

「出ちゃうかも」

 何か、この言葉だけ聞くといやらしいな。しかし、気持ち良くなるだけなら、別の方法でも良いのではなかろうか。

「エクスは剣の状態で戦うと気持ちがいいのかな?」

「それは・・・そうかも?」

 エクスは首を傾げた。なるほど、ハッキリはしないと。やってみる価値はありそうだ。

「それじゃあ、今度、魔物狩りでもしてみようか。そうしたらエクスも魔法が使えるようになるかも知れないよ」

「うん、たくさん倒す」

 よしよし、これでひとまずは大丈夫。この場で行為をいたすとか、かなり無理で危険が危ない。エクスがフェオみたいにわがままを言わない良い子で本当に良かった。

「よし、じゃあ次は畑作りだね」

「まさか、ガイアコントロールでするおつもりですか?」

「もちろんですよ。ガイアコントロールでダメだったら、次の手を考えましょう」

「イキイキしてるわね」

「本当ですわ。ガイアコントロールの魔法が好きなのでしょうか?」

「単に泥臭い地味な作業が好きなだけなんじゃないの?」

 二人が見つめる先ではシリウスがいそいそとエクスと共に準備を進めていた。

 

 畑予定地に到着すると、すぐに作業を開始しすることにした。本格的な畑作りは昼からになるが、その前に手応えくらいは掴んでおきたい。

「ガイアコントロール! こんなもんかな?」

 目の前にまるで鍬で丁寧に耕したかのようなふかふかの土が出来上がった。予定通りだな。ついでに畝を立てたりできないかな? やってみよう。

 さらにガイアコントロールを操作すると、いい感じの畝が出来上がった。畑仕事はやったことないけど、こんな感じだったはずだ。

 奇妙な形に仕上がった畑を見た村長息子が、おもむろに土を手に取った。

「な、何という見事な土質! 畑ができてるー!」

 ビックリ仰天していた。そんなに驚かれるとは思わなかった。村の人達もやってきて、あちこちで土の感触を確かめているようだ。

「本当にガイアコントロールで畑を作ってしまうだなんて・・・どのようなイメージをしたのですか?」

「えっと、ふかふかで柔らかいイメージですね」

「ふかふかで柔らかい? あ、クリピーのおっぱいをイメージしたのね!」

「違うから、断じて違うからね、フェオ。ピーちゃんに怒られるような発言はやめてよね」

「でもクリピーのおっぱいはふかふかで柔らかかったよね?」

「・・・うん」

「どっちの方が柔らかかった?」

「そりゃあクリ・・・」

【ピーちゃん・・・】

 ごめんなさい。冗談じゃないけど冗談です。

 どうしろって言うんだ! 畑の土って言ったら、それはそれでクリスティアナ様が悲しむでしょうが! 全く、フェオは人が返答に困るようなことばかり言ってくるな。さすが妖精。

「二人とも、今のうちに土の感触を確かめておいてね。お昼ご飯のあとは畑作りに精を出す予定だからさ」

「分かったわ。どれどれ、フムフム。クリピーのは、ウンウン、クリピーの方がずっと柔らかくて触り心地がいいわね」

「ちょっと、どこを触ってますの! あ、やめっ・・・」

 う~ん、美少女が妖精にイタズラされている様子は、見てる限りでは素晴らしい光景なんだよなぁ。眼福眼福。

「し、シリウス様、フェオを・・・」

 おっと、そろそろ止めないと

「フェオ、やめなさ~い!」

 ベリッとフェオを引き剥がした。クリスティアナ様は肩でハァハァと息をしている。すまん、救出が遅れた。

「どうしてフェオはいつもそうなのですか」

「だってシリウスが」

「何で俺のせいにするんだよ」

 とんだ風評被害だ。ほら、ピーちゃんが睨みつけてるじゃないの・・・


 午前中にガイアコントロールの魔法の感触を覚えさせておいたお陰で、午後からの畑作りはとても順調に行われた。

 そして、みんな俺の作った畑を参考にしていたため、畝が立っている。

「シリウス様、なぜこんな奇妙な形をしているのですか?」

「この形にすることで、水捌けがよくなり、野菜が育ち易くなるんですよ。それに、この畝にそって野菜を植えれば、どこに何を植えているのかが分かって、管理もやり易いですからね」

「これは畝という名前なのですね。このような方法があるとは知りませんでした。他の畑でも真似をしてもいいでしょうか?」

「別に構いませんよ。これで収穫量が増えて、野菜が美味しくなれば、ありがたいですからね」

 こうしてこの村の畑では畝を立てる風習が始まった。そして、実際にこれにより収穫量と品質が向上したため、村から村へと広がっていくことになるのであった。

「これだけ畑を作っておけばしばらくは大丈夫ですかね?」

「そうですわね。一度畑として耕しておけば、少し手入れをするだけで、また使えるようになるでしょうからね」

「そうね。これだけ平らな地面を作ったんだから、大丈夫なんじゃない。水もすぐそこまで来てるし、ちょっとサービスしすぎたかもよ」

 確かにそうかも知れない。ちょっとやりすぎたかな? でもまあ、新しい技術も身についたし、よかったんじゃないかな。

「ほら、エクス、そんな顔しないでよ。ちゃんと役に立ってるよ、エクスは」

 そう言って元気のないエクスに声をかけた。自分だけ役に立ってないと思っているようだが、飲み物を用意したり、休憩時間を教えてくれたり、安全を確保してくれたりと色々とサポートしてくれているので、そんなことはないのだ。

 頭を撫でてもすぐには機嫌は直らなかった。やっぱりエクスも魔法を使ってみんなと一緒にやりたいみたいだ。主人として、何とかしてあげないと。


 仕事を終えたあとは昨日と同じく温泉に入らせてもらった。

 さすがに今日一日で脱衣場はできなかったみたいで、昨日と同じ入り方をさせてもらった。

 2回目ともなればさすがに慣れたもので、クリスティアナ様以外はパパッと温泉に浸かった。

「ほら~、エクスもいい加減に元気出してよ~。すぐに魔法が使えるようになるからさ~」

  フェオもエクスの元気のなさに気がついているようだ。何とか元気付けようとしている。

「だって、私は役立たず」

 しょんぼりとうつむいた。隣で美少女が捨てられた子犬のようになっている。思わず俺はエクスを膝で抱えた。

「大丈夫だよ。エクスがたとえ魔法が使えなくても、見捨てたりはしないよ。約束する」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと」

「ねぇ、じゃあ、あたしは?」

「もちろん、フェオもクリスティアナ様もだよ」

 フェオにも、ようやく隣に浸かったクリスティアナ様にも言った。

「気にすることはないと思いますが、魔法が使えないことに気に病む気持ちも分かりますわ。私も何の役にも立たないときがありましたから」

「そうなの?」

「ええ。ですが、シリウス様が何とかして下さいましたわ。だからきっと、何とかして下さいますわ」

 そう言ってクリスティアナ様はエクスの頭を撫でた。

 しれっとハードルを上げてきたクリスティアナ様。これは何としてでもエクスを魔法が使えるようにしなければならない流れだな。

 まずはエクスと一緒にモンスターをたくさん狩ろう。それでダメなら一発やるしかないな。

 こうしてその日の温泉は何事もなく、ゆっくりとみんなで疲れを癒やしたのであった。

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