第59話 辺境の村

「何だかシリウス眠そうね。夜眠れなかったの?」

「いやぁ? そんなことはないよ~」

 いかん、眠い。昨日は結局眠りに就けず、空が白み始めた頃にようやく微睡むことができた。

 そう思ったら、もう朝日が昇っていた。

 申し訳ないが、馬車での移動中は眠らせてもらうことにした。静かな馬車を作ってもらって本当に良かった。


 ****


「ねぇクリピー、シリウスどうしたの? 何かあったの?」

「あやしい」

 エクスも眉を寄せた。ドキリとするクリスティアナ。多分自分のせいだろうという自覚があった。当の自分はと言うと、撫でてもらったときの気持ちよさと、安心感からすぐに寝てしまっている。口に出したらまたシリウスの迷惑にならないだろうか。そう考えると、容易に口に出すことができなかった。

【夜、何かあったのですが?】

「いえ、何もありませんでしたわ」

 さすがのピーちゃんも寝床の中までは入ってこなかった。ゆえに、昨晩抱き合って寝たことは知らなかった。

 ピーちゃんは首を傾げはしたが、それ以上は聞いてこなかった。だが、フェオとエクスは怪訝な顔をしたままだった。

「クリピー、一人で抜け駆けは良くないからね」

「良くない。私達も一緒」

「わ、分かりましたわ」

 二人の眼差しに耐えきれず、そう答えた。抜け駆けするつもりはなかったのだが、昨晩シリウスが撫でてぐれた頭、抱き合ったときの安心感はそう簡単に忘れられそうになかった。

 また、コッソリと同じことをしたら、二人は今度こそ怒るだろうか。いや、一緒にすればもしかして・・・。


 ****


「シリウス様、起きて下さい。到着しましたよ」

「あと五分・・・」

「何を言っておりますの。ほら、起きて下さいまし」

 頭を優しく撫でられているが、クリスティアナ様かな? そんなことされると余計に眠くなるのだけれども。それに何だか暖かくて柔らかい物を枕にしているな。気持ちいい。

 しかし、目的地に着いたのならば起きなければいけないな。

 目を開けるとクリスティアナ様が見下ろしていた。目の前には順調に成長しつつある胸。どうやらクリスティアナ様の膝枕の上に自分はいるようだ。

 馬車の中なので急に動くと危ない、と自分に言い訳しつつ、少しその感触を堪能させてもらった。クリスティアナ様は特に文句を言ってくるような気配はない。もうちょっとこのまま・・・。

「シリウス、いつまでクリピーの膝の上にいるつもりなのよ。早く行こうよ~」

  中暇だったのだろう。早く外に出たいとペシペシと頬を叩かれた。

「もしかしてマスター、それ、気に入ったの? だったら帰りは私がしてあげる」

「え?」

 鋭いな、エクス。膝枕は初めてしてもらったのだが、こんなにいいものだとは思わなかった。思わず「よろしくお願いします」と言いそうになった。

「え? そうなの? だったらあたしもやる~」

 フェオも手をあげて参戦希望のようだ。これは帰りの馬車は荒れるかも知れない。

【相変わらず主はモテモテだな。泣かせるようなことがあってはならんぞ】

 クロに忠告された。何だか重みを感じた台詞に、クロはかつて女の子を泣かせた経験があるなと確信した。

 馬車を降りるとそこには村の人達が待っていた。

「私が村長です。先日は息子が無礼な態度をとってしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、こちらも先に自己紹介しませんでしたし、お互い様ですよ。それで、改めてこの村の状況を確認したいのですが、よろしいですか?」

「いいですとも。ささ、こちらへどうぞ。用意しておりますので」

 村長に連れられて、この村で一番大きくて立派な家へとやってきた。この土地に住み着いてから、かなりの年月が経っているのだろう。木造の家は年季が入っており、あちこちに修理したあとが見られる。

「この村は主にトランシルに食糧を供給しております。魔境からの肉と、畑での穀物を出荷していて、魔物の肉は我々では太刀打ちできないので、冒険者や傭兵を雇って採取してもらっています。ご存知の通り、魔石が高値で売れるようになったので、お金欲しさに人が増えてきましてね、トランシルで穀物が足らなくなってきてるらしいのですよ。それで、魔物がいなくなった場所を畑にしようと思いまして・・・」

 それで畑を作ったはいいが、以前から村にある井戸の水だけでは足りず、新しく掘ったら温泉を掘り当てた、というわけか。

 この辺は火山地帯じゃないのに何で温泉が湧くのかな? よく分からない。この世界はまだまだ知らないことだらけだ。

「大体分かりました。では、ちょっと現地に行ってみますね」

「私が案内しましょう」

 昨日の村長息子が買って出てくれた。

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