第53話 お茶会と冤罪
暑い夏もようやく陰りが見えてきた。秋はその過ごし易さから、絶好の社交シーズンとなる。
そこは貴族の子弟達も同じであり、お茶会に参加する機会も多くなる。お茶会は将来に向けた人脈作りも兼ねているようで、どれだけ高貴な人が来るのかが重要視されているようだった。
だが、そんな事情は俺には全く関係がなかった。この国で最高峰の身分である王女殿下を婚約者に持ち、自分も最高峰の身分の公爵家嫡男。向こうから勝手に寄って来るのだ。むしろ、追い払う方が大変だった。しかも、妖精持ちに、聖剣持ち。影の王にフェニックスまでいる。本当にどうしてこうなった。その気になれば世界征服もできそうだ。やらないけど。
【どうした、我が主よ。また現実逃避か?】
夏も終わりが見えてきたので、俺達は避暑地の子爵家(今は伯爵家)から、王都へと帰って来ていた。
両親に送った手紙では、ペットとして使い魔を飼うことにしたことは伝えていたのだが、その正体を明かすと頭を抱えられた。
その点、王妃様は全く動じなかったので、さすがだと思う。国王陛下は頭を抱えていたかも知れないが。
「うん。見てよ、この手紙の束。全部お茶会の招待状なんだよね。断りの返事を書くのも億劫だよ」
【それなら全部燃やしてしまえばいいではないか。手を貸すぞ?】
「そうは行きませんわ。貴族としての礼儀というものがありますからね」
クロをブラッシングしながらクリスティアナ様が言った。クロはクリスティアナ様にブラッシングされてツヤツヤでフサフサな毛並みになっていた。クリスティアナ様と一緒にフェオもクロをモフモフしているので、尊大ぶっているクロに、全く威厳がない。
「そうだ! 代わりにクロにお茶会に行ってもらえばいいんじゃない? シリウスそっくりに変身できるんでしょう?」
「クロに行かせたらどういうことになるか、考えてる?」
「もちろん、とっても面白いことになるわ!」
いや、面白いことになってもらいたくないわけなのだが、クロに頼むとそうなることは理解しているようだ。相変わらずフェオは面白ければそれでいいようだ。
「やめておこう。クロには荷が重すぎる」
【そんなことはありませんぞ。ワシもやるときはやりますぞ】
「じゃあ、具体的には?」
【まずは下僕どもに主の威厳を示してですな、それで・・・】
無理だな、無理。クロを使うのは最終手段だ。
「お茶会を全部断るのはさすがにあんまりだと思いますわ。そうですわ、お義母様に相談して、厳選してもらいましょう!」
いい考えだとパチンと手を叩くと、すぐに使用人を呼んでお母様のところに行ってしまった。
「何だかクリピー、張り切ってるよね。どうしたのかしら?」
「どうしたんだろうね。人前に出るのはあまり好きじゃあなかったはずなんだけどな」
【主を自慢したいのだろう】
「うん、マスターを自慢したいんだと思う。私も自慢したい」
「そう言うもんか。確かに俺もクリスティアナ様を自慢したいとは思うかな」
最近のクリスティアナ様は成長が著しい。自分に自信がなく、引きこもっていたことがあるとは思えないくらい堂々としている。逆に第一王妃派に目をつけられそうで怖いのだが、今の布陣なら相手にならない気がする。むしろ、こちらの機嫌を損なう方が悪手だろう。味方につけておいた方が断然よい。
「お茶会、私も連れて行ってくれる?」
最近濃いキャラが増えたせいで影が薄くなりがちなエクスが聞いてきた。
「もちろんだよ。でも腕輪型じゃないと難しいかな。剣を持ってお茶会に行くわけには行かないからね」
「人型じゃダメなの?」
「招待状がないと入れないんじゃないかな」
「えっ!? じゃあ、あたしは行けないの? ヤダヤダ、絶対ついて行く~!」
【我が主よ、ワシもついて行くぞ】
こうなるからお茶会には行きたくないんだよね~。
お母様はいくつかのお茶会を見繕ってくれた。選択基準はもちろん、ガーネット公爵家派もしくは中立派のお茶会だ。中立派は分かるが、ガーネット公爵家派はどんな派閥なのかとお母様に聞いたら、何でもガーネット公爵家と懇ろになりたい人達が集まっているところらしい。ガーネット公爵家を新しい王に、などと不埒なことを考えている輩がいたら、速攻で潰すらしい。
どうやらついでにクーデターの芽も潰しているようだ。
お茶会では当然のことながら俺達は大人気だった。身分の力は凄いと改めて思った。そして、子供でも身分による上下関係を理解していることを恐ろしくも思った。
貴族同士でこれなのだ。平民など歯牙にもかけない※貴族が多くなるのも頷けることだった。
クリスティアナ様、フェオ、エクスは多くの人に囲まれており、大変話題になっているようだ。綺麗だからね、仕方ないね。三人ともいつもよりもおしとやかにしており、まるで別人のようだ。クリスティアナ様は成長した自分をみんなに見てもらえて、大変満足している様子だった。顔がイキイキとしている。
「ガーネット様、あちらのお菓子が美味しいとの評判ですよ。一緒に食べに行きませんか?」
「よくお似合いですわ。さすがはガーネット様ですわ」
俺にも蝶々が寄って来たようだ。三人もあちらで話しかけられているみたいだし、少しくらいは・・・
「シリウス様、お腹が空いたのですか? 食いしん坊ですわね」
「お菓子ならあたしが食べさせてあげるよ。ほら、あ~ん」
「マスター、このお菓子が美味しい。食べて」
ややトゲのある口調のクリスティアナ様、無茶振りするフェオ、口にお菓子を突っ込んでくるエクス。三人が一気に取り囲んだ。
慌てて解散する取り巻きの皆さん。
その後は左手にクリスティアナ様、右手にエクス、頭にフェオのいつもの布陣でお茶会を過ごした。可愛い子が何人かいたので少しくらいは、と思ったが、これ以上嫁はいらないのでやめた。三人もいれば十分である。
「シリウス様を一人にはできませんわね」
「ほんとほんと。すぐに他の女の子にちょっかいをかけようとするんだから」
「マスターの女誑し」
いやいや、まだ何もしてないでしょ。冤罪なのに怒られた。これだからお茶会に行くのは嫌なんだよ。
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