第110話 命の再生。
子供の頃からあたしは聖女だとそう言われていた。
前世の記憶、と言ってもその時にあったのは遥香の記憶だけだったけれどそれでも妙に賢しい子だと思われていたのだろう。
あたしが望めば高価な魔導書をもいくつも買い与えられ、そんな本を読むことが楽しみだったあたしはどんどんと魔法に関する知識をつけていったのだ。
いつしか身体から金色のマナが溢れ。
そしてそれはありとあらゆる傷の治癒、病を癒した。
あたしがそうしようとしなくても。
母の家系の聖女の血。
その血が濃く現れたのだと。
そう母からは聞かされ。
その魔法の才に、父親からはいにしえの魔道王国、その女王、ラギ・レイズ・マギレイスの生まれ変わりだと。
「マギレイス様、ああ、マギレイス様。よく私どもの娘に生まれてきてくれました。感謝します」
そうあたしのー手を取って跪く父。
だからかな。
どうしても彼のことを父親だと思うことが出来なかった。
弟だけは無邪気にあたしを好いてくれる。そう思っていたけれど。
その弟までもがあたしのことを何か便利な道具かのように。
大聖女さまでしょ? 出来るでしょ?
って。
それも。死んでしまった子猫を生き返らせてくれなんて。
そんなの普通の人間にできるわけないじゃない。
どこの魔導書を読んだって、そんなことが出来るって書いてはいなかった。
あたしにも、実際当時にはそんなことができるとは思っていなかったから。
あたしは。
少しだけ、裏技を使ったのだ。
今ならそんなまどろっこしいことはしなくても良かったかもしれない。
あ、でも。
心を取り戻そうと思ったら結局この方法が一番手っ取り早いのか?
肉体的に完璧に再生したとしても、一度身体から離れてしまった心を円環に取り込まれてしまう前に取り戻すのは、けっこう面倒なのだから。
あたしはデュークの身体を自分のマナで包み込み、ほんの少しだけ、あの子の
そんなことをしてしまったが最後、周囲の自分を見る目が変わってしまう事もわかってた。
普通の人間にはそんなこと多分思いつきもしないだろうし思いついてもできはしないだろう。
あたしだって出来るとは信じていなかった。
確信なんか、無かった。
それでも。できてしまったのだあっさりと。
事情を知った父のあの驚愕の瞳が忘れられない。
あたしに対しての恐怖、恐れ、そんな感情の色が見えた。
「マギレイスさまの生まれ変わりでは無かったのか?」
そう呟いた父に、
「あたしはそんな昔の女王様なんて知らない! あたし、異世界に居た。前世は異世界人だよ!」
そう思わず叫んでた。
それ以来。
父バーンはあたしの顔をまともに見ようとしなかった。
まあしょうがないよね。
それからずっと。
ばけもの! って、罵られなかっただけでもマシだと、そう思ってた。
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