第113話 アースガルド。

 例の魔王が統べる世界に異変があったのに気がついたのはデートリンネだった。




「主様。あの例の魔がちょっと多い世界なんですけど、なんだかちょっと変なんです」


「どうしたのです? デートリンネ。貴女には珍しく要領が得ないセリフですね?」


「世界同士が繋がる事は稀にあるんです。異世界転移とかする個体もありますしね? でも。ちょっと違うんですよね」


「どんな風に違うんですか?」


「普通、世界が繋がるときは表側のマナの海、エーテル側に穴ができるものなんですけど……、あの世界、ゼロ空間側から繋がってる感じで」


「ゼロ空間って、閉じましたよね?」


「ええ。例の外の世界の『ゼロ』でしたからね。それを中心に空間のブレーンで閉じて新しい世界として産み出された筈でした」


「じゃぁ、どこの世界と繋がってるっていうのです?」


「それなんですよ。主様、ちょっと御覧になって頂けませんか?」


 両手を挙げ、ちょっとお手上げです。といったジェスチャーをするデートリンネ。


 わたくしは水晶球を覗き込み、魔王の世界、アースガルドを注視したのですけれど……。



 アースガルドに不意に現れた勇者と対決する魔王。


 って、この勇者、どこの世界から来たの?



 戦いが一旦終わった所で元世界に戻っていく勇者。


 うん。確かに穴はゼロ空間側に空いてる。


 その穴の行方は……。


 ああ。間違いない。外の世界だ。




 わたくしの内なる世界。


 この宇宙、この数多の世界全てわたくしの内なる世界に存在している。


 でも。


 あの穴は、その何処でもない。


 わたくしの内なる世界ではない、外の世界と繋がっている。



 それって……。



 ああ、行ってみたい。


 外の世界……。


 わたくし、じゃ、ない世界……。




 向こうから留守中に来られた時はちょっと腹が立ったけど、でも。



 うん。


 あたしはあたしの好奇心に勝てなかった。





 ☆☆☆




 結局あたしはもう一個多重存在を増やす形でアースガルドを調査する事にした。


 デートリンネの側に一人。

 ノワールの側に一人。

 そしてレイアの側にはミーシャ。


 もう既に三つのあたしがいたけどね。


 もし帰れなくなったとしても大丈夫って保険を残したかったから。


 この内なる世界にいる間なら定期的に同期できるし適度に意識の交感して同一性も確保できるけど、外の世界に行っちゃったら難しいかもなんだよね。


 どうなるのかあたしにもわからない。


 これって、実は、ちょっとわくわくしてるのだ。


 ノワールと離れるのは寂しいけど同期すれば良いだけだし一人でも、って、そう思ってたんだけど。


 デュークだけはどうしてもついてくるって聞かなかった。


 ルークも連れてってほしいって言ったけど流石に一国の宰相を連れ出すわけにはいかないししょうがないよね。


 それに、デュークはね……。


 この子はなんだかな、あたしのカケラ、宿しちゃってるみたいなんだよね。


 だから。


 まあデュークと二人旅。


 それも悪くないよね。たまにはね?

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