第39話 エクスプロージョン。

 階段を降りて行き、やっとこさその底が見えてきた。


 うん。あそこが最奥の入り口?


 豪奢な扉。ツタのような柄かと思って見たらそれは一対の龍。


 浮き出るように彫られたその龍のちょうど眼の所にはめられている漆黒の丸い石がこちらをギロッと見るかのように黒く光る。


 漆黒の光。マナの波動がこちらを見るように放たれ、そして。



 何もしていないのに、その扉がギイとひらいた。



 その最奥の間のその空間。


 あたしとノワは一歩一歩地面を踏みしめながらその入り口から中に入る、と。




 扉がまた自動的に閉まった。











 ——待っていたよ。ラギレス。


 漆黒に間に響くそんな声。


 ——やっと来た


  ——やっと


    ——やっと


      ——やっと


 ——待っていたよ


  ——待っていたよ


    ——待っていたよ


      ——待っていたよ




「誰?」



 ——我らは『魔』


  ——我らは『魔』


    ——我らは『魔』


      ——我らは『魔』


 ——君が欲しい


  ——君が欲しい


    ——君が欲しい


      ——君が欲しい


 ——チカラが欲しい


  ——チカラが欲しい


    ——チカラが欲しい


      ——チカラが欲しい


「何勝手な事を!」


 ノワが叫ぶ。


 その声も、グワーンと周囲に反響して。




 っていうかなにこれ?


 魔、だって言ってるよね?


 にしても、外にいた魔と違ってこの凝縮されたマナはもう魔王に匹敵する濃さだ。


 声が何処から聞こえるのかと周囲を探って見てたけど……。



 正面の魔王の玉座に大きな宝石のような塊が鎮座していた。


 漆黒に黒光するその塊。


 人のちょうど腰まわりほどもあるかというそんな大きさの塊が今感じられるマナの大本か?


 そんな感じがするけどそれもはっきりとはしない。



「あんた、魔王なの? それもあの時とは違う新しい魔王?」



 ——魔王? そんな軽薄なものではないよ


  ——魔王? そんな軽薄な


    ——魔王? そんな軽薄な


      ——魔王? そんな軽薄な


 ——我らは、神


  ——我らは、神


    ——我らは、神


      ——我らは、神


「神? そんな物がなんでラギレスの力を欲するんだ⁉︎ おかしいだろ!」


 ——ラギレス


  ——ラギレス


    ——ラギレス


      ——ラギレス


 ——欲しい


  ——欲しい


    ——欲しい


      ——欲しい



 漆黒の塊から闇のようなモヤが立ち昇った。


 それは次第に悪魔のような姿をかたちづくり、そして……。



 そこから唐突に濃縮されたマナの奔流が放たれた。


 それはまるで、あの時のエンペラー・エクスプロージョンの様に。


 あのエネルギーがそのままこちらを襲ってくるかの様で。



 ああ。ダメ。


 このままじゃ。




 あたしは咄嗟に庇う様に前に出てノワに抱きついた。


 そして、そのエクスプロージョンのマナの波動をその身に受け。



 魔力障壁を張り。



 なんとか。と、思ったけれど。ダメ。持たない?



 背中が熱い。


 もう、時間、ない、か。



 残りの魔力を込めたマギア・キャッツアイをノワの手に握らせて。


「ごめんノワ。あなただけでも助けるから」


 あたしはそう言うと、


 魔・ギア《エンジェルウイング》アウラ・フェザーを起動してその権能を解放。


 ノワを元世界に跳ばす。


「ねえさん、ダメだ! 一緒に」


 最後にそう叫ぶノワの悲しそうな声を聞きながら。




 あたしは意識を失った。


 目の前が漆黒の闇に包まれた。 

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