第13話 ヴァネティア平野の戦い7〜アカツキ・リイナVSチャイカ姉妹〜
・・13・・
直前までただの広場だった空間は殺し合いの闘技場と化した。
正面には今か今かと待ちわびている様子の双子の魔人、ラケルとレーラ。対して僕とリイナはいつ開戦してもいいように魔法障壁を多重展開し、召喚武器を手に持つ。
周囲は僕達が戦闘中の際に被害が及ばぬよう周りを防護する為魔法能力者達が魔法障壁を展開し、歩兵達も不測の事態に備えて銃を構える。ルークス少将や参謀達はいくらA+のリイナがいるとはいえ不安げに見守っていた。ルークス少将に至っては気が気でない様子だ。
「用意はいいかしらぁ? 人間。アカツキ・ノースロードに、あなたはリイナ・ノースロードよね?」
「そうよ。あんた達の墓場をここにしてあげる人物なのだから覚えておきなさい。――降り注ぎなさい、氷槍惨禍」
リイナは言い切ると細剣を抜刀、呪文を詠唱する。
唱えたのは初手から氷槍惨禍だった。彼女の頭上には多数の魔法陣が現れ、氷槍はチャイカ姉妹へと降り注ぐ。
リイナの氷槍惨禍発動と同時に僕は動き出した。身体強化呪文の「瞬脚」を発動し加速。目標をラケルに定めて突撃する。
「開幕から本気だなんて最高に楽しいじゃない!」
「けど、その程度じゃ姉様もわたしも倒せないわあ」
予想はしていたけれど、二人は僕達に接近しながら回避しつつ命中した氷槍は全て彼女等が展開していた魔法障壁によって防がれてしまう。
リイナもそれは分かっていたようで、僕が動き出した直後には援護に回る形で後を追う。
「あなたの相手は、わたしぃ! 黒双剣顕現しなさぁい!」
「ちぃ! いいわ、かかってきなさい!」
しかし双子の魔人が僕達の好きなようにさせてくれるわけがない。姉と併走していたレーラは禍々しい黒の双剣を手に持ち進行方向を変えて、僕を無視してリイナを目標とする。
「となると、僕とお前が」
「直接対決ねえ。戦いはあの子ほど得意じゃないんだけどぉ」
「どの口が言うか! 炎を纏い燃やせヴァルキュリユル!」
リイナの援護が受けられないとなると厳しい戦いになるけれど、彼女の無事を祈りつつ僕はラケルと一対一の命の懸合いを挑む。
斜め後ろからは初撃から激しい剣戟の音が聞こえる中でヴァルキュリユルから二発の炎の弾丸を放つ。
「ぬるいわねえ。たった二発だなんて。獄炎よ焼き尽くさなさぁい!」
「まだに決まってんだろっ! 放て、逃さず爆ぜよ! 追尾式爆砕!」
「追尾式だなんてやらしい子。でも当たらなければいいんでしょう? 焔の壁」
「だったらこれだ! 炎弾は八重に分かれ風を乗せ、逃さず穿てヴァルキュリユル!」
ラケルを逃さず捉えるはずだった二発はどす黒い炎の壁にのまれるけれど諦めるわけがない。さらに続けて僕は呪文を詠唱しまた二発撃つ。炎属性と風属性の複合魔法に弾丸が一発につき八発に分裂し計十六発となってラケルに飛翔する。
「追尾の次は分裂だなんて! これだから召喚武器持ちは面白いわ!」
「クソっ、ちょこまかちょこまかと避けやがって!」
「それは貴方も同じでしょう?」
ラケルはけらけらと笑いながら余裕綽々の様子で回避していく。焔の壁を壊すのに四発、それでも十二発が残ったもののひらりと躱されるか魔法障壁の一部を破壊するに留まり、しかも魔法障壁はすぐに元の枚数に戻るからキリがない。
それはラケルの言う通り僕も同じで、避けては攻撃、魔法障壁で防いでは攻撃、隙を見て障壁を再展開を繰り返していた。
「ったくこれじゃあ埒が明かない!」
「えぇ? 私はとっても愉しいわよぉ? けど貴方は大丈夫かしら? 余裕が無さそうだけどぉ」
「うっさい!」
何度も何度も装填を行い、苛烈な魔法能力者戦同士の呪文の乱れ撃ち合いを経てようやく相対しての膠着状態となる。
戦いを固唾を飲んで見守る兵士達からすると僕とラケルの戦闘は互角のように見えるかもしれないけれど、癪に障ることにあちらの表情には余裕があった。
「このままじゃ魔力差で押し負ける……」
僕は奴に聞こえない程度の小声で呟く。
魔力保有量に優れる魔人のラケルに対して、自身の残存魔力は全力で戦うには心許なくなっていた。ヴァルキュリユルで中級魔法を連発し破壊された魔法障壁を戻し、瞬脚をパッシブ状態にしていれば魔力の消費は激しくなる。
いくらリイナとの訓練を経て魔法能力者ランクがAに上がってもモノには限界がある。これがかつて流行ったようなチート主人公なら圧倒的魔力でゴリ押しなんて芸当も可能だけど、生憎世の中そんなに甘くはなくて僕にはそんな魔力はありやしない。
消耗戦では不利。いいや下策だ。となれば次の行動で決めるしかない。
僕は体感で三割を切ったであろう魔力でどうすべきか、リイナの方をちらりと見て未だに激し
い一騎討ちをしており僕を援護する余裕など何処にもないと判断を下したら頭を巡らせ、決断する。
「アカツキ・ノースロードぉ? 突っ立っているなら私から仕掛けるわよぉ?」
「黙れ。次で決めてやるよ。慢心した事、後悔させてやる」
「…………次で決める? 慢心? 後悔? ……あははっ!! あははははははははははっっ! 良く言い放ったわ人間! アカツキ・ノースロード! 貴方のその蛮勇に免じて先手を譲ってあげるわ。かかってらっしゃいな?」
「とことん舐め腐りやがって……! 」
人差し指のみを下から上に動かして挑発するラケルと、その行動をきっかけとして僕は勝算のある賭けに出る。
「瞬脚、
駆け始める第一歩で瞬脚を二重掛けして先程より加速度を高める。引き続いて呪文を詠唱してヴァルキュリユルから二発の弾丸を撃つ。解き放たれた弾丸はそれぞれが八発に分裂したかと思うとさらに分裂して十六発へ。合計三十二発と化した銃弾は一斉にラケルへ襲いかかる。
「ふうん、まだ増えるのね。でも無駄無駄、無駄よ。障壁反転、指向性攻勢防壁へ」
「ちくしょうなんでもありかよ!?
ラケルを貫く事は叶わなかったにしても破壊したはずの魔法障壁数枚はラケルの呪文によって性質が転換。突如として爆発を引き起こし魔法障壁だったものの破片が自分めがけて飛んでくる。
僕は対して咄嗟の判断で幻影陽炎を発動して偽の自分を作り出してデコイとして用い、偽の自分に破片は集中なんとかやり過ごす。
「幻を作り出す魔法まであるのねえ! それならこれはどうかしらぁ!」
「当たってたまるか! 魔法障壁固定複数展開! 障壁は防御以外にも、使えるんだよっ!」
「あらあらあら面白いわ面白いわ!」
ラケルの詠唱の直後数十もの魔方陣から火球が不規則な位置から飛び出すが、僕は魔法障壁を一つずつ展開し、それを蹴って跳躍する。
魔法障壁は実体化している。だから踏み台にする事だって可能だ。
身を守る為ではなく、移動手段にする多分誰も試したことの無い工夫した活用法。
焼き殺さんとする火の球をさらに跳躍して回避し、回避しきれない分は魔法障壁を身代わりにして行き先には障壁を展開。最終的に上空二十メーラ程度まで上がっていく。
ここからが勝負だ。最大高度まで到達し、降下が始まる瞬間に背後に魔法障壁を蹴って一気に接近しようとする。
「それじゃあ狙ってくださいって言っているようなものよお? これでおしまいねぇ」
「いいやこれでいいんだよっ!」
ラケルが時間差で二発の火焔球を放つと一発は残り二枚になった魔法障壁に衝突。一枚は粉々に砕け散った。もう一発へは腰の鞘から抜いた二本のダガーを投擲させた。
投げたのはただのダガーじゃない。リイナが付与してくれた氷属性の魔法付きのダガーだ。
火と氷。ぶつかり合えば必然的に引き起こされるのは現象は水蒸気爆発だ。
爆発による衝撃波で最後の魔法障壁が壊れるけれど、代わりにラケルの視界は奪われる。
「もぉ、鬱陶しいったら!」
「遅い! もらったあぁぁぁぁ!」
「な――」
ラケルが風属性の魔法で煙を払った頃には僕とラケルの間は五メーラを切っていた。魔法を唱えて行使するにはもう遅い。
どう足掻いてもヴァルキュリユルの銃弾はラケルの心臓を貫ける距離だ。外すはずがない。
僕は勝利を確信したし、見守っているルークス少将もリイナだってそう思っていただろう。
だけど。
世界というのはかつて前世で命を奪われた時のようにつくづく理不尽だった。
「ーんてね。座標固着ぅ」
目線が合った刹那に、ラケルは思惑通りと歪に口角を曲げて
奴が唱えた呪文。僕は自分に何が起きたか理解が出来なかった。
座標固着という初めて耳にする魔法。
それにより僕は宙に浮いたまま一ミーラ足りとも動けなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます