第187話
ここにいた全員――、
モンスターも含めたすべての生物の脳内に、聞き慣れない声が響き渡った。
酒に喉を焼かれたような。
何かを達成したような。
そしてどこか退屈そうな。
どこまでも突き抜けた圧倒的強者、そんな声だと全員が思った。
(この声……どこかで)
そんな中たった一人、テンジは気が付いた。
本当に曖昧でぼんやりとした記憶。記憶を一時保存されている海馬に取り残されたような、うっすらとした些細な記憶の一つに、その声があった。
誰か、なんてはっきりと覚えているわけではない。
だけどこの声には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えがあるという表現も少し語弊があるだろう。
はっきりと聞いたような声ではない。
でも、テンジにはわかったのだ。
「力を貸せ、酒呑童子!!」
テンジははっきりとその名前を口に出した。
そんな未来の主の言葉が気に入ったのか、『クヒッ、クククク』と全員の脳内に笑い声が響き渡る。
そして、炎鬼刀が形を変えた。
炎鬼とともに手に入れた炎鬼刀なんかよりも、もっとずっと恐ろしさを凝縮したような、地獄を凝縮したような、一本の新たな刀へと。
『ククククッ、いいだろう。本物の王が誰なのか、教えてやるがいい』
酒呑童子がそう言い放った瞬間、テンジの片腕が白い炎に包まれる。
その白い炎は次第に形を成していき、鎧のような武装が出現した。
「うぐッ!?」
その鎧を起源に、テンジの全身の血が沸騰するような痛覚が襲う。
熱い、寒い、苦しいほどに熱い――でも、なぜか優越感を感じるほどの力が全身を駆け巡ってくる。持て余しそうだった刀の火力を、握力一つで押さえられるようになっていた。
いつも通りに、刀が振れる。
額に、一本の角が生えてきた。
『存分に振るえ! その刀は王の一振りと成る、名を――』
愉快に、そして魂を震わせながら酒呑童子はテンジへと叫んだ。
その瞬間にはテンジと酒呑童子の意識のリンクが完了し、次の言葉を聞くまでもなくテンジの記憶にこの刀の記憶の一部が流れ込んできた。
本物の鬼と化したテンジは、鬼の形相で刀を振りかぶる。
「――獄王刀『
白と赤、そして透明な炎。
美しく織り交ざり、空気と一体化したその一振り。
今までのどんな一振りよりも美しく、洗練された動作だった。
獄王刀は狙い通りに、モンスターの体の中でも最も斬れやすそうな首の付け根へと衝突した。
想像よりもずっとモンスターの首は硬かった。
一振りで、首を断ち切るなんて到底できないと悟った。
全力でこの刀を振るっても、ジリジリと焼き切るように刀が喰い込んでいく程度。
モンスターとテンジの気合いが、目まぐるしくぶつかり合う。
運が悪いのか、良いのか。
刀の地獄炎がモンスターの首に食い込み始めたとき、奴の硬直が切れた。
そこから押し返そうという意志なのか。
一部にしか描かれていなかったオレンジ色の流麗なラインが奴の全身に広がり始めた。
それからすぐに奴の首はありえないほどに硬くなり始めた。
じわじわとテンジの刀が押し返されていく。
「ルオォォォォォォォォォォォォッォォオオッッッ!!!!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
両者の咆哮が火花を散らす。
モンスターのギザギザで生々しい口から、怒りの咆哮が。
鬼と化したテンジの口からは負けてたまるかという魂の叫びが。
誰一人、両者の衝突に割り込むことなんてできない。
両者の衝突を中心に爆風と衝撃波が目まぐるしく巻き起こり、他の四人は立っているだけでも精いっぱいな状況だったのだ。
それに――、
あの
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