第183話
あれから二度の奇襲攻撃を成功させていた冬喜。
それも九条の未来予知にも等しい指示があったからこそだというのは、ここいいる全員が理解していた。冬喜の実力あってこその結果ではあるのだが、何よりも、誰よりも九条の貢献が大きかったのだ。
あまりにも上手くいきすぎている状況に、冬喜は僅かに困惑する。
たった一人の優れた指揮官がいるだけ。
だけど――そのたった一人の功績だけで、こんなにも探索が楽になるなんて知らなかった。
無駄な戦闘を避けるように目的地へと最短ルートを走り、先手必勝にも近い奇襲攻撃という一つの戦闘行為だけでついにここまでたどり着いてしまった。
チームにおける指揮官の有用性を改めて認識させられた十数分の強行だった。
プロの中でも、さらに世界の一線を走り続ける探索師の姿。
これが九条霧英なのだと知った学生の二人は、一秒たりともその後ろ姿を見逃さないと、真剣な眼差しで走り続けていた。
「おかしい……」
そんなときだった。
九条団長がそう言葉を発すると徐々にスピードをダウンさせ始めたのだ。
自然と後方を走っていた四人の足も止まり、何か考えているのか、それとも何かを探しているのか、そんな曖昧な様子の九条の次の言葉を待つ。
その間に「何が?」なんて野暮な質問をする者はいなかった。
もはや九条のことをあまり知らなかったテンジや冬喜でさえ、彼女の意見が間違っているなどありえないという現実を知ってしまったのだ。
彼女の意見を聞けば、必ず最善の道が約束されている。
ゆっくりと九条が口を開く。
「奴がどこにもいない。この辺りに吹っ飛んだはずだが、どこへ行った? 狙いはお前じゃなかったのか? だとしたらここから離れる意味も、お前から逃げる意味も分からん」
視線がテンジへと向く。
しかし、そう問われてたとしても、今のテンジには彼らの求めている解答を用意するだけの情報はなかった。奴が探しているのは自分だと思う、そんな曖昧な確信だったのだ。
曖昧ではっきりとは分からないけど、確かに奴は自分を探している。曖昧と確信が混在する、矛盾した事実だけがテンジにはなんとなくわかっていた。
「正直僕にもわかりません。奴がなんで僕を探していたのか、何で僕の名前を知っていたのか、なんで奴がここにいないのか……でも確かに『見つけた』ってやつは言いました。これは間違いないと思います」
「『見つけた』、か。困ったな私の能力でもさっぱり見つからんし、あの馬鹿みたいな殺気や気配さえ大人しくなった。まるで気配が掴めない。一体……どこへいったんだ」
こうなる未来は九条でさえも想定していなかった。
まだ学生の少年が言った言葉を信じ、メンバーたちの手前ああは言ったが、ここに奴がいないとなればどう行動するべきかという迷いが生まれてくる。
(はて、どうしたものか。まるで雲みたいだな、いきなり現れたり、突然気配を消したり……手あたり次第の捜索手段をやるしかないのか? だが、あれは――)
九条に迷いが生じていた、そのときだった。
「少し時間はかかりますが、俺に任せてもらえませんか?」
冬喜が突然、自信満々にそんなことを言いだしたのだ。
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