第168話
もし、モンスターの子飼いが出現した場合に展開される一つの作戦があった。
これは全てのギルドに共通した陣形であり、そこに拒否権はない。
子飼いたちを外側から包囲するチーム。
そこには瞬間攻撃力の出せない人をメインに殲滅部隊を配置。数によって子飼いを抑え込み、他をサポートする役割を与えられている。
そしてもう一つ。
子飼いたちの群れを斬り裂くように奥へと突き進んでいき、子飼いの最後尾を奪取する隊――特攻部隊。
特攻部隊にはギルドの中でも火力が高く、対応力のある天職を所有する探索師が数人配置されており、子飼い殲滅開始と同時に最高速度の殲滅をもってモンスターの群れに風穴を開けていく。そうして群れを抜けきった先で、子飼いたちがリィメイにちょっかいを出さないように死守とサポートに徹する。
そう、特攻部隊は最も優れた探索師に任命されたこの作戦の要なのである。
ただし、まだ学生であるテンジたちにはその役割は任されていない。
あくまで包囲網の外側から子飼いたちを殲滅することが役割として求められている。
だからこそ、福山は周囲の子飼いたちの視線を一心に引き受けた。
例え目の前にいるモンスターたちが自分よりも遥かに強いモンスターだったとしても、チームの探索師たちが必ず殲滅してくれることを信じて自分はマトになる。
この強心臓こそが、盾役に求められる最も重要な素質なのだ。
仲間を信じられない者に、盾役の資格はない。
「あとは任せたよ、二人とも」
「「了解!!」」
福山の発破に答えるように、学生のテンジと冬喜が勢いよく前へと駆け出した。
テンジの手にはあの入団試験の日よりも、遥かに等級の高いであろう赤い刀が握られている。
その横にいる冬喜の姿は、神秘的な青い鱗を纏った龍人のようなものへと変わっていた。
たった一つの動作でも、テンジがどれだけ成長したのかが分かる。
頼もしさを感じると同時に、自分でも奇妙だと思えるほどの期待感を抱いていた。
そんな矛盾する自分の心理に対し、福山は面白いと思った。
「これは期待じゃないな……武者震いに近いか」
福山は誰にも聞かれないように小さく呟く。
今から起こるであろうテンジたちの戦闘を楽しみにしている自分がいた。
イロニカから渡された資料に目を通すよりも前に、テンジの存在感がぐっと増していたのを福山は気が付いていた。以前とは比べ物にならない存在に代わったのだと。
一流なプロとしての必須素養と言われている、英雄”らしさ”が芽生え始めていた。
ちょうどその時であった。
「ルォォォォ!」
どこからともなく、福山は奇襲を受けた。
いや、単に気が付かなかっただけなのだ。子飼いの中にも知性の優れた個体がいることに、自分の姿を森の保護色になるように調整して一番後方にいる福山を狙い定めていたことに。
いや――気が付かないというのは少し語弊がある。
福山レベルの探索師ともなると、奇襲など日常茶飯事。
探索やギルドのレベルが上がれば、それだけ強いモンスターたちと何度も何度も戦いをするということ。修羅場を潜り抜けてきた数が違う。
「才能? 上等だ。俺は夢を与える『プロ』なんだ! 何がなんでも食らいついてやるッ」
奇襲に対して、福山は自分自身に発破をかけるように叫んだ。
頭に血が上っているように見えて、案外冷静にスキルの座標位置を固定し、スキルを発動する。
「『羅生門・子壁』ッ」
学生だけに頼るわけにはいかないと、福山は立ち上がった。
自分が才能に恵まれていないなんて、初めてチャリオットの入団試験に落ちた日から知っている。九条団長に一目惚れした日から嫌と言うほど理解している。
だから死に物繰いで、努力して、血の涙を流して、ここまで成り上がってきたのだ。
たかが才能一つに、後れを取るわけにはいかない。
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