第115話



「召喚――『八大獄卒はちだいごくそつ炎鬼えんき』『八寒獄卒はちかんごくそつ雪鬼せっき』」


 ここはマジョルカダンジョン第62階層。

 別名、無人の絶壁鉱山エリア。


 フィールド内に大小様々な濃灰色の岩肌絶壁が延々とそびえ立っており、『無人の絶壁鉱山』という別名通り、山あり谷ありな厳しい探索環境が広がっている。安定せずに簡単に崩落してしまう雲母地帯、水滴が足場を濡らし苔が密集するヌメっとした地帯――そんな劣悪な足場ばかりなのだ。

 ゆえに、例え世界的なプロ探索師でさえも容易には立ち入ろうとはしない不思議な階層だった。もっと正確に言うならば、わざわざ劣悪な探索環境で探索する必要がないからである。

 この階層では探索師にとって重要な「開けた視界」が確保できず、探索速度は著しく低下してしまう。危険と隣合わせなこのフィールドを好んで探索をする者はいなかった。


 そうして――。

 テンジはここに一人で来ていた。


 フィールドの端にあるひっそりとした崖上は階層全体を一望でき、気温も日本の六月か七月頃の心地よい自然環境が常に続くので、とても都合がよかった。

 思わず日向ぼっこしたくなるような風が優しく肌を撫で、テンジは気持ちよさそうに目を細める。

 そして無人だからこそ、秘密の検証をするには最適な場所であったのだ。


 テンジの召喚を望む言葉に、閻魔の書がぱらぱらと勝手に捲れることはなかった。

 そう、閻魔の書が勝手に動き出す現象はもう起こらなくなっていた。


 今では――表紙からほんのりと青色の禍々しい光が放たれるだけである。


 で、テンジの足元に二つの扉が瞬時に召喚される。そして、地獄領域とのゲートがこの場に出現した。

 ゲート召喚までの発動時間はまばたきよりも速く、光りよりも遅い速度であった。


 二つのゲートを構成する謎鉱石の色は、四等級の特徴でもある『青』が基本になっている。そこには地獄絵図のような彫刻が複雑に刻まれており、五等級の小鬼よりも少し装飾が豪華に変わっている。


 その地獄ゲートの中を満たす、禍々しい油膜の存在――、


 この色は二つで、少し違った。


 片方は小鬼と同じく、地獄を彷彿とさせる赤黒い溶岩のような油膜が張られている。

 対してもう片方には、北極の氷山を彷彿とさせるような、白と澄んだ水色の合わさった絶妙な色合いを醸し出している。


 そんな油膜色の異なる地獄ゲートから、二体の地獄獣が召喚されていた。



「あの~……何か御用で?」



 赤黒い地獄のゲートから現れたのは、テンジの新たな【赤鬼種】の地獄獣――『八大獄卒:炎鬼』であった。

 炎鬼はテンジの姿を視界に捉えると、当たり前のように言葉を発していた。


 炎鬼のその姿は『和』を彷彿とさせる。

 真っ黒なほどよい短髪は前髪の中央だけを逆立てるアップバングで整えられており、毛先にかけての赤いグラデーションが炎鬼を彩っている。

 黒髪の隙間からは青い角が二本生え、二つの神々しい青い瞳が垣間見え、その美しさに思わず見惚れてしまう。

 目尻は切れ長で、肌は女性も羨むほどの白い肌に、ほんのりと赤みがかかっているような奇妙な色合いであった。

 そんな美しくも感じる炎鬼の素体を飾るように、黒と赤を基調とした和物の衣服が身に着つけられている。甚平というよりは、着物という感じだ。

 その炎鬼の腰には、一本のシックな業物の刀が携えられていた。


 そしてもう一体――。



「ここ暑いです、帰りたい。今すぐ八寒地獄に戻って、囲炉裏で暖まりたい……」



 召喚されて早々、ナイーブな発言をしたのは新たな地獄獣の一種【青鬼種】――『八監獄卒:雪鬼』である。

 そんな雪鬼は強い日照りを人睨みすると、近くにあった岩場の影へとスタスタ歩いていった。


 雪鬼の姿は炎鬼とはまるで対照的で、白と水色の着物で整えられている。

 マッシュヘアに近い現代チックな白髪は綺麗に櫛で整えられているようで、ほんの僅かに動くだけでもさらりと見惚れるように靡いている。

 毛先にかけて水色のグラデーションが施されており、角と瞳の青色も相まって、思わず「綺麗」と呟きやくなる儚い美しさを併せ持っていた。

 そんな色白な雪鬼の両手首には、ダイヤとも純度の高い氷とも捉えられる数珠のようなアクセサリーが目立つように着けられている。


 これがテンジの新たな地獄獣、『炎鬼』と『雪鬼』であった。

 ともに四等級の地獄獣と分類されており、非常に強力なステータスや天星能力を有している。


 また、【赤鬼種】の次に解放された地獄種は【青鬼種】であった。

 どうやら青鬼種は防御力に特化しているようなのだ。


 テンジは閻魔の書を手に取ると、炎鬼と雪鬼のステータスを今一度確認した。



――――――――――――――――

『召喚可能な地獄獣』

【赤鬼種】

 ・小鬼 〈五等級〉

 ・炎鬼 〈四等級〉

【青鬼種】

 ・雪鬼 〈 四等級〉

――――――――――――――――


――――――――――――――――

【名 前】 炎鬼先生

【種 族】 八大獄卒『炎鬼』

【等 級】 四等級


【H P】 3000

【M P】 3000

【攻撃力】 3456

【防御力】 2886

【速 さ】 3120

【知 力】 3222

【幸 運】 2999


【天 星】 獄炎華ごくえんか

【付加値】 攻撃力50

――――――――――――――――

 ――――――――――――――――

【名 前】 雪鬼先生

【種 族】 八寒獄卒『雪鬼』

【等 級】 四等級


【H P】 3000

【M P】 3000

【攻撃力】 2897

【防御力】 3777

【速 さ】 2967

【知 力】 3335

【幸 運】 3423


【天 星】 獄雪経ごくせつきょう

【付加値】 防御力50

 ――――――――――――――――


 これが四等級地獄獣【赤鬼種 炎鬼】【青鬼種 雪鬼】の能力値である。

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