第129話 工場の戦い7

 モネアは盾を一番小さい五十センチに収納し、工場の奥へと歩いていった。途中で四人の部下が駆け寄ってくる。


「モネア様。奴らは揃ってあの中央の工作機の裏にいます」


「爆発弾で炙り出しましょう。飛び出したところを狙い撃ちなさい。奴隷以外は殺して構いません」


「はっ!」


 四人の部下たちは横一列に並んでライフルを据銃きょじゅうした。モネアは腰から拳銃を取り出す。


 ナナトから凍結弾がなくなったと聞いたツアムは表情が固まった。


 考えていた計画、浮かんでいた勝機が煙のごとく消えていく。ナナトにモネアを引き付けてもらい、その隙にツアムとルッカでモネアの部下から仕留める算段だった。敵がモネア一人だけになれば優位に立てると思ったのだ。しかし。


「ツアム様、私なら凍結弾を持っています」


「駄目だ。ただでさえ凍結弾は他の弾より重くて飛ばないんだ。ルッカの射程が短い銃じゃこの場所での戦いには向いていない。あたしもこの銃だと威力不足だ。せめてナナトに凍結弾を渡せればいいんだがお互い口径が違う」


 ツアムはボーチャードピストルを両手に持ち直し、工場の入口へと体を向けた。


「一か八かだ。あそこの入口が見えるか?」


 ツアムが視線を向けたのはナナトたちから七メートル離れた壁の出入口だった。扉はなく、外からの天気の光が漏れている。


「外に繋がっていることを祈ろう。あたしが合図したら走れ」


「ですがツアム様! あそこまで身を隠せるところがありません! 私の脚でも撃たれずに辿り着けるかどうか…」


「タイミングが命だ。合図を待て」


 ツアムが銃を構える。


 モネアはローラー工作機までの距離を測り、銃を宙へ向けた。


 ドン!


 大きな鈍い音と共に赤い弾が発射された。


 来た!


 ツアムは立ち上がり、放たれた赤い弾に狙いを定める。


 ダン!


 モネアの放った弾と、ツアムが撃った弾が空中で衝突し、モネアたちより十メートルほど離れた空中で爆発弾が破裂した。爆音と共に炎が広がり、部下たちは爆風に煽られて頭を伏せ、体勢を崩す。


「今だ!」


 ツアムが大声を上げ、四人は一斉に壁際の入口へ駆けだした。モネアがそれに気づき、急いで銃を変えて電撃弾を放つ。が、弾は最後に入口を通ったツアムの脚の数センチ横を通って壁を穿った。


「やりますねえ」


 モネアは拳銃を下ろした。


 出入口へと滑り込んだナナトたちの前に、カーテンのように何枚も吊るされた皮が広がった。見上げると吹き抜けになっており、曇天が覗いている。どうやらここは、洗浄を終えた動物の皮を天日干しにする場所のようだ。


 四人は吊るされた皮の間を縫うようにして駆け出した。


「凄い! ツアムさん」


「ああ、あたしも久しぶりに自分を褒めたいと思った」


 ナナトが安堵したのもつかの間、十メートルほど進んだところで四人の目の前に大きな壁が立ちふさがった。高さが七、八メートルはある土作りの壁だ。急いで他の壁側を確認するも出入口はおろか、窓さえ見当たらない。行き止まりだ。ここは、十メートル四方を壁に囲まれた吹き抜けの部屋だった。


「ルッカ! 壁を登れるか?」


「いえ…無理です」


 ルッカが手で壁を押しながら呟いた。ツアムはすぐさま入口から一番遠い干された皮の裏へ隠れるよう指示する。


「まずいな…かなりまずい。ここからじゃ相手の様子を窺えない」


 ツアムが部屋の入口へと目を向ける。誰もいないような静けさが逆に恐怖心を駆り立てた。今にも入口から爆発弾が飛んでくるかもしれない。


「二人とも、気を抜くなよ」


 ツアムの緊張した声で告げた。


 生暖かい風が四人の固まった顔を撫でていく。

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