第96話 干し肉料理

 シウスブルの街を出て、タズーロに向け山間やまあいを道なりに進んでいると、前方でなにやら混雑している人ごみの集団に出くわした。道が寸断されでもしているのか、馬車や荷馬車が道一杯に広がっていて進めそうにない。


「なんで止まっているんだ?」


 ツアムが行列の最後尾にいた荷馬車の御者に尋ねた。


「土砂崩れだとさ。しかも無理に進もうとした対向の荷馬車の車輪が壊れてひっくり返ったらしい。もう三十分も復旧作業をしているが行列が動き出す気配はない。ツイてないよ、まったく」


 それを聞いたナナトがツアムに申し出た。


「僕、先頭まで行って手伝ってきていい?」


「俺も行くぞ!」


 ポピルも賛同し、ツアムは頷いた。


「わかった。銃は預かっておこう。あたしたちはここで荷物の番をしているよ」


 ツアムはナナトたちが走って行く後ろ姿を見守った。


 道の復旧は、それから二時間ほどかかった。巨大な落石が道の真ん中で止まり、それをどかすのにかなり時間がかかってしまったようだ。行列が動き出してツアムたちが事故現場まで進むと、ツアムたちの荷馬車より三倍ほどの大きさをした荷馬車が道の端に移動されていて、ナナトが破損した車輪の修理に汗をぬぐっていた。


「先に行ってて。僕、これを直してから追いかけるから」


 ナナトが純粋無垢な瞳でツアムたちに言ったが、“そう、わかった”と置いてけぼりにするのも気が引けたので、結局ツアムたちは少し先に進んだところで修理が終わるまで待機することにした。待っている間、スキーネが荷台に乗って欠伸をしながら呟く。


「あんなに頑張っちゃって。まったくナナトったらお人好しよね」


 スキーネはそのまま荷台で昼寝し、ツアムとルッカは近くの木陰で編み物をして時を過ごした。


 ナナトとポピルがツアムたちのところまで戻って来たのは三時を回った頃だ。ポピルが嬉しそうな表情で片手に大きな干し肉をぶら下げていた。


「見てくれ! 修理を手伝ったお礼に鹿の干し肉をこんなにもらったぞ。今夜は俺が鍋を作ろう! 故郷のジビエ料理を振る舞いたい!」


 ツアムは手をかざして太陽の位置を確かめながら言った。


「今日中にタズーロへ着くつもりだったが中途半端な時間になったな。今からだと街に到着するのは夜になる」


「だったら野宿しましょうよ。私、ツアねえの料理が食べたいわ」


「まあ待ってくれスキーネ嬢。ここは俺に任せてくれないか? もし口に合わなければ皿洗いも全員分俺がやるから」


 ポピルが自信満々に告げるので、そこまで言うならとスキーネは折れ、ナナトたちはしばらく道を進んで、野営するのに最適な河原を見つけた。


 ツアム、スキーネ、ルッカが寝床の準備を行い、ナナトはポピルの近くで薪を拾ってから火をおこして食器を並べていると、ポピルが小首を傾げながら鍋に具材を放り込んでいた。


「えっと…干し肉は弱火のときに入れていいんだっけ? 野菜は…まあこれぐらいでいいか。調味料もだいだいこんなもんだろう」


 明らかポピルの手つきが不慣れで怪しい。ナナトが不安になって訊いてみた。


「ポピル、料理の経験はあるの?」


「いや、自分で作ったことはない。だが大丈夫だ。舌が味を覚えている。味付けしながら完成させるさ」


 ポピルが鍋を凝視しながら即答した。


「ポピル、それ塩だよ? 入れすぎじゃない?」


「そうか? なあに心配するな。濃くなったら水を足せばいいんだ」


 ナナトの不安は的中してしまう。


 日が暮れて料理が完成し、焚き火の前で器に盛りつけた五人分の支度が整うと、作ったポピルが声高に言った。


「完成だ! 俺の故郷の味とはちょっと違うが、たぶん水の質が違うからだろう。味付けに苦心したぶん近い料理ができた。さあ、食べてみてくれ」

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