第45話 樹上の戦い3

 五人がそれぞれの役割に分担して力を結集し、百八十メートル地点、百九十メートル地点と瞬く間に巨体ラシンカとの距離を縮めていく。

 

 巨体ラシンカはさらに上へと登ろうとしたが、とうとうルッカが追いつき、横に並んで一気に巨体ラシンカを追い越した。ルッカはその後も止まることなく、体に結ばれたロープを垂らしながらさらに上へと登っていく。

 巨体ラシンカからさらに十メートルほど上に到着したルッカは、自身の胴の幅より倍ほどもある太い枝に跳び乗ると、腰に繋がれていたツルのロープを手で引きちぎり、おもむろに枝へと巻き始めた。


 この行為はかなり巨体ラシンカを戸惑わせ、動きを止める役割を果たした。その隙を見逃さず、ナナトが凍結弾で巨体ラシンカの片足を凍らせる。


 焦った巨体ラシンカは、片足で再び木の枝を揺すり始めた。小さな木の枝や木の葉を落とし、目潰しを仕掛けつつ羽を落とす攻撃だ。

 だが遅かった。

 すでにラシンカから二十メートル下にいたポピルが、銃口を上に向けて狙いを定めてる。


「ルッカに当てるなよ」


「大丈夫だ。すでに端っこへ避難している」


 ツアムの心配に自信を持って答えたポピルは、引き金を引いた。


 バーーン!


 威力はチャージ2。

 強力な火炎弾が打ち上げ花火のように上空へと突き上げられていく。

 弾は巨体ラシンカに当たらず、その上にある太い枝の根本に当たった。推定百キロ以上はある巨大な枝だ。弾を撃たれ、根元から折れた枝は大きな音を立てて落下していく。巨体ラシンカはそれを見上げながら銃撃が失敗したと思ったかもしれない。


 そうではなかった。


 ポピルは「命中した!」と叫ぶと、ライフルに安全装置をかけて紐で背中にぶら下げ、ツアムが作った一本の長いロープをしっかり握る。ポピルが今しがたチャージ2で弾を当てて折った太い枝は、バキバキと音を立てながら落下したが、その枝にはすでにツルのロープが括りつけられていた。


 ルッカが腰に巻いていた、ツルだ。

 ラシンカの上へと躍り出たルッカは、これと判断した木の枝にツルのロープを結び、その場から離れていた。


 落下していく木の枝は推定で百キロ以上。それに括られていたツルのロープは、途中の枝に引っかかり、滑車の要領で下にいたポピルを一気に引き上げていく。二十メートルという距離を三秒で登ったポピルは、巨体ラシンカの体を追い越して鼻の先に着地した。


 さらに、スキーネが凍結弾でラシンカの自由になっている足を凍らせる。両足ともに動けなくなった巨体ラシンカは身動きが取れなくなった。


「ずっと気になってたんだ。なんでお前は上へ上へと登ろうとするのか。さっきツアムの姐御あねごが教えてくれた」


 木漏れ日を背中に受け、ポピルがライフルを構えながら銃口を下に向ける。


「どうだ? この位置ならもう羽を落とせないだろう?」


 ポピルはライフルのチャージ・クリスプと呼ばれる留め具を押しながらレバーを二度往復して見せた。薬莢が二つ落ち、次の弾が装填されるも、弾は発射されていない。


「チャージ3!」


 ポピルは巨体ラシンカの顔の前で引き金を引いた。


 バーーーン!


 通常の発射音よりもさらに大きい音が響き渡り、巨体ラシンカの体を火の玉が包み込んだ。あまりの威力に乗っていた太い枝が折れ、巨体ラシンカは、ナナト、スキーネ、ツアムの目の前を通って真っ逆さまに落ちていく。巨体ラシンカの落下速度は枝やツルでは止められず、落雷のような轟音を立てながら地面へ叩きつけられた。


 巨体ラシンカが落ちた衝撃で木の枝に止まっていたラシンカ以外の小鳥たちが一斉に枝から飛び立っていく。

 一陣の風に髪をなびかせ、はるか遠く下にある地面を見下ろしながらツアムがそっと呟いた。


「まあ、こんなものかな」

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