第44話 樹上の戦い2

 ツアムは樹の幹に張ってあるツルを何本か剥がして回収し、ルッカがそのうちの一本の端を腰に巻き付ける。


「一本当たりのツルの長さはどれぐらいになりますか?」


「七、八メートといったところだな。もし結ぶのが間に合わなければ声をかけるから登るスピードを調整してくれ。ひとまずは全力だ」


「はい」


 五人は幹に近い枝に移動し、樹上を見上げた。巨体ラシンカは警戒を解くことなく、五人を見下ろしている。やがて羽を大きく広げた。


「それじゃあボスを倒しに行きますか」


 スキーネが勢いよく言うと、ツアムは微笑んで見せた。


「五人でな」


 巨体ラシンカの攻撃がリベンジ開始の合図となった。


 ひゅん、ひゅんと大人の背丈を上回る白く鋭い羽軸が頭上から降ってくる。五人はそれをかわし、各々が螺旋らせんを描くように移動しながら樹の上へと登っていく。


 飛び出したのはやはりルッカだ。


 半獣人はんじゅうじんという種族もあって身体能力が五人のうちで最も高く、軽やかなステップで邪魔な枝など苦もしない。しかも今回は自身が銃でけん制することなく、トンファー型ライフルを二丁とも腰に下げた状態で、羽を避けつつ樹を登ることに専念しているため、今までで最大速度で登っていた。ルッカの腰にはツルが巻かれており、ツルもまた、ルッカが登るのに合わせて伸びていく。

 その姿はまるで、糸のついた疑似餌ルアーが、釣り竿の先から思い切り放たれて進んでいるかのようだ。

 

 巨体ラシンカへのけん制を担当するのは、ナナトとスキーネ。

 

 ナナトはリボルバーの特性を駆使して弾を自在に撃ち分けられるし、スキーネはボルトアクション式ライフルとポンプアクション式ライフルの二種を組み合わせた銃で性能をライフル、散弾銃、狙撃銃と切り替えることができるため、両者とも状況に応じて臨機応変に対応しやすく、相手を混乱させるのに適している。二人がともに、巨体ラシンカへの攻撃を間断かんだんなく続けて注意をルッカから逸らしていると同時に、登る途中で邪魔となる他のラシンカへも攻撃して脅威を排除していく。


 ポピルは、羽が降ってこない隙を付いて、幹のツルに銃口を当て、弾を撃ち込んで断ち切り、ツルを八メートル間隔のロープに変えていった。


 ポピルが使うライフルの威力は紛れもなくチーム一番。しかし命中精度に欠けるため、仲間の後ろから撃つ援護射撃は最も不向きとなる。そこであえて樹上には撃たず、近距離の木の幹に当てる。これだけ近ければ外しようがないし、上にいる三人も安心して自分の役割に集中できるからだ。


 最後尾にいるのはツアム。


 ツアムはポピルが作った八メートルほどのツルのロープの端と端を本結ほんむすびという結び方で手際よくつなぎ、それをルッカが腰に巻き付けているツルへと繋ぎ合わせて、上へと移動しながら一本の巨大なロープを作っていった。

 

 さらに樹上の警戒も怠らず、一度、ポピルが幹のツルの中でどれを撃とうかと吟味している間に羽が落とされたときなどは、羽軸がポピルに届く前に拳銃によって空中で当てて落としてみせた。


 ツアムの銃は自動拳銃。射程が短く、威力も五人のライフルと比べて最も低いものの、それを補って余りある正確無比な射撃を会得しているので、三十メートル圏内であればよほどの強風が吹いていない限り外すことはない。

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