第16話 呪い
ツアムがネルジーに視線を戻す。
「つまり、誰かわからない呪術師が
「はい。私たち村の者は先にお話した最初の家の住人…名前をヒュワラーというんですが、その者が呪術師を引き連れて坑道内に立てこもっていると考えています。村の男たちが坑道から出てこなくなったのと同じ時期に姿が見えなくなり、さらにヒュワラーの自宅は夜逃げでもしたかのように空になっていたからです」
そう言うと、ネルジーは胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
「クエスト依頼書です。この先にあるワンガホという街のギルド斡旋所に掲載してします。お話した通りの内容ですから、あたしたちは女性のギルダーを探していました」
依頼書にはこう書かれてある。
【五級クエスト・坑道に入った村人五十一人の救出】
メンバー 女性のみ、もしくは十五歳以下の男
報奨金 五十万リティ
弾代金 自費
備考 洞窟内におよそ百匹を超える
ルッカが言った。
「男のギルダーでは呪いによってウサギに変化してしまいますからね。この十五歳以下の男という見立ては間違いないのですか?」
ネルジーが頷いてみせる。
「あたし達も後になってわかったことなんですけど、坑道から唯一帰ってきた少年は当時十四歳で、後日ギルダーの道案内のために坑道へ入ったときには誕生日を迎えて十五歳になっていました。それを見て私たちも村の子供で試してみたところ、確かに十五歳以下の少年ならば坑道に入れるとわかったんです」
「どうして十五歳なのかしら?」
スキーネの疑問に、ルッカが考え深げに答えた。
「呪術師の腕が未熟だったか、あるいは男全員を対象にしたかったものの、
「でも、十五歳以下だったら僕も中へは入れるよ。今年十二歳になったからね」
ナナトが嬉々として言った。ネルジーはツアムを真正面から見据える。
「お願いです。坑道で男たちが消えてから今日で三日が経とうとしています。中で生きているかどうか不安で仕方ありません。どうか助けてください」
ネルジーは机に額がつくほど深々と頭を下げる。
ツアムはナナト、スキーネ、ルッカを見やり、それぞれ目で了承を得てからクエスト依頼書を手に取った。
「わかった。このクエストあたしたちが引き受けよう」
♢♢♢♢
森の中の道をファヌーの引く
馬車のすぐ後ろを歩きながら、スキーネが得意気にナナトへ話していた。
「呪いっていうのは何も悪いことばかりでもないわ。他国からの侵略を阻止するため国境の要所に防御として使うこともあるし、山から重い岩を持ち運ぶために重力を弱めるときにも使える。一番有名なのは、やっぱりヴァンドリア西側一体に影響が及ぶ〝弾返しの風〟よね」
一方、荷馬車の前には先導するネルジーとツアムが情報のやり取りしていた。
「ワンガホの街でクエストを発行したのはどれぐらい前になる?」
「二日前からです」
「二日間も? なのにこのクエストを引き受けるギルダーは出てこなかったのか?」
「はい…あたしも粘ったんですが、どういうわけかワンガホには女性のギルダーが一人も見られなかったんです」
「妙だな」
ツアムは考えた。今回のクエストの主は石鼠の退治。石鼠は亜獣の中でも極めて弱い部類に入り、その退治だけで報奨金が五十万リティももらえるというのは、ローリスクハイリターンの超優良といっていいクエストだ。そんなおいしい案件が二日間も放ったらかし。さらに男のギルダーが過半数を占める業界とはいえ、女のギルダーだって大概チームに数人はいるものだが、一人も斡旋所に姿を現さないというのは単に運が悪かったという説明では納得しづらい。
スキーネから呪いに関して授業を受けていたナナトはふと気になったことを尋ねた。
「じゃあ呪いって、もし力の
「ふふ。考えることが子供ね~」
スキーネは可笑しそうに笑った。
「まあそう思うのも無理はないわね。あなたが今思いついた永久的に呪いを持続させる方法というのは、これまで何度も検討され試行錯誤されてきた歴史があるもの。それこそ著名な科学者でさえも、今思えば荒唐無稽としかいえない実験を真剣に取り組んでいたのよ。代表的なところでいえば、呪根を海水から得る、とかね」
莫大な海の水を呪いのエネルギーとして使えばまさに半永久的。しかしそれは、月を手元に取り寄せるぐらい不可能な夢物語だったの、とスキーネは語った。
「呪根に必要な条件として、不純物が少ない物質しか効果を上げられないわ。雪解け水から得た純水。あるいは今回のような鉱石なんかがそう。焚き火で例えるのなら、不純物の少ない呪根は湿気のない渇いた
スキーネの講習にナナトは驚きながら頷くばかりだ。
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